監督:サム・メンデス 2000年5月1日@P.U.シネマ11 99年度のアカデミー賞で作品賞他、5部門を制覇したのが記憶に新しいこの「アメリカン・ビューティー」。「交渉人」の冒頭でホームドラマも出来るぞというところを見せたケビン・スペーシーが期待通りに出演してくれたことは喜ばしい限りである。しかしこの映画、普通のホームドラマではない。皮肉と毒で一杯のブラック・コメディーいや悲劇と言った方がよいかも知れない。見終わった後にああ楽しかったと思えるような作品ではないのでCMに騙されたと思って劇場を後にする人が多数出てくるだろう。 タイトルの「アメリカン・ビューティー」とは妻キャロリンの育てている薔薇の名前だが、映画を観ると実に多くの隠喩を含んでいることがわかる。"Beauty"すなわち「美」とは絶対的なものではない。時代によってその価値は大きく異なり、もちろん住む場所(文化圏)によっても異なる。しかし同じ環境で育ったとしても個人によって美の対象は異なるものだ。この映画が郊外から出ないのはそこにいるだけでも多くの美のサンプルが集まるからだ。 美は人を虜にして離さない。その美しさに気が付かなければ良かったのに、一度気付いてしまうとそれから離れられなくなるのだ。主人公レスターの美とはセックス狂の16才の少女アンジェラ。レスターは彼女と出会っていつからか人生のどこかに置き忘れてきた美への執着心に目覚める。男とは目標があればそこへ突進していく性質を持っているものだ。そのアンジェラの美とは非凡であること。妻のキャロリンの美は仕事の成功に等しい。隣人のサイコボーイ・リッキーにとって美とは死と直結し、娘のジェーンはそんな彼に共感を覚える。リッキーの父親にとっての美とは規律であり、彼の妻は精神的に死にかけている。彼ら登場人物はまるで現代を映す鏡のようだ。かつての規律と共通の美的感覚は失われ、信じてきたビジネスの成功は物質文明のどん詰まりへ行き着くように終焉を迎える。残ったのは偏愛だけだ。偏愛で我々は救われるのか?答えはラストにある。 登場人物の一人一人に目がよく行き届いている。誰も彼も一口では説明できないくらい複雑で彼らが絡むとまた複雑になる。多くの登場人物が自らの過去を語るがそれが物語の進行を邪魔していないのは見事だ。レスターの笑える妄想に加えて、リアルな感情も同時に吹き出してくるので観ている方はアクション映画でもないのに常に緊張してしまう。総合点の下にネタバレします。
総合:84点 最後に引き金を引いた人物。それはリッキーの父親だったわけだが、編集に入る段階ではリッキーが殺すことになっていたらしい。しかし、誰が引き金を引こうとそれが例えキャロリンであっても結末は同じだ。全ては崩壊した。最後に笑ったのは死体になったレスターと彼を幸せそうに眺めるリッキーだけだった。「アイス・ストーム」ではここから家族の再生が始まるが「アメリカン・ビューティー」ではそれすらない救いのないラストだ。 |