監督:ラッセ・ハルストレム 2000年7月1日@帝国座会館 「アイス・ストーム」と「カラー・オブ・ハート」の二本を観てトビー・マグワイアという俳優が好きになった。まだ若いのにアゴは幾分だぶついている。目は大きく、写真だけ見ると表現力は豊かだと思われるかもしれない。しかし、彼の場合「ただそこにいる感じ」が大きすぎて演技をしていることさえ分からない。だから彼は観客によって演出される俳優と言えるかもしれない。一歩間違えば無表情ともとれない曖昧な表現に私は自分勝手に解釈を付け加えて「こう考えているに違いない」と推測するのだが、これが結構楽しい。その推測が外れるのも楽しい。 この映画では早速ホーマーは居心地の良さそうな孤児院から飛び出すという予想外れな行動を起こしてくれた。孤児院からリンゴ園へ、父親と離れて、恋に落ち、さらにリンゴ園で働く黒人親子とのエピソードへと続く。急な場面の転換は長い原作を無理に縮めたのだなという印象も残り、エピソードの数々はどうしても語りっぱなしで収束していないという気がするのだが、登場人物に対しての描写は抜かりが無い。この辺りはさすがに人間ドラマを撮らせたら名人のハルストレム監督だと思う。全員が善良なだけの薄っぺらい人々ではなく、例えば孤児達は里親に貰われようと必死に笑顔を見せるし、ホーマーの師であるラーチ医師は違法である堕胎を闇でやっている。仲間からも尊敬されるリンゴ園のボスは他の顔も持っている。主人公はというと軍人が出征に行っている間にその恋人といい仲に。一筋縄ではいかない人ばかりである。ただやっぱり「マイライフ・アズ・ア・ドッグ」や「ギルバート・グレイプ」の方が上かなと個人的は思います。 登場人物の一人が言う。「それは俺達が作ったルールじゃない」。誰かが自分の利益のためにルールを作ると、その結果自分までルールに縛られることになる。他人を束縛するルールの鎖の一端は作った人間の手に縛り付けられているような気がした。しかし、ルールがなければ力が沸かないのも事実。孤児院の滑稽なルールはそれほどクローズアップされていなかったが、主人公は恐らくそれが嫌で出ていったというところもあるのだろう。禁を破るというのはどこか甘美で危険な匂いの漂う魅力的な行為だ。結局、ルールを作るのも、破るのも、罰するのも自分というリンゴ園のボスこそがこの「サイダーハウス・ルール」という題名に最もしっくりくる人物なのかもしれない。 ところで主人公とヒロインであるキャンディとが今後の自分たちについて語る部分が実にダメ人間してて素晴らしかった。「何も決定しないで時間が過ぎるのを待っていれば、そのうち決定すべき事は無くなっている」という感じの文章だった気がするが、これぞダメ人間のダメ回路。これでまた一気に主人公が好きになってしまうのだった。
総合:74点 |