監督・脚本:ポール・トーマス・アンダーソン 2000年3月12日@ピカデリー1 この映画には主演も助演もない。敢えて言うなら全員が主演であり助演である。P・T・アンダーソン監督は全ての登場人物に命を吹き込み、あらゆる世代、性別、性格を持った人々を創り上げた。12人もの人物を適切に配置し、動かし、ストレス無く物語を進行させる作業は簡単ではない。それをいとも簡単にやってのけたように見えてしまうのは監督の才能だろう。「マグノリア」を撮ったときまだ29才。これからも末恐ろしい彼の映画を観られることは幸福である。 しかし、この映画を万人に勧められるかというと途端に歯切れが悪くなってしまう。まず3時間7分という長い上映時間は観客に劇中での天才クイズ少年のような尿意を催させるし、ラスト近くは馬鹿らしくてついていけないという意見も多くあるのは確かだ。個人的には展開がスムースだったため上映時間の長さは全く気にならなかったし、ラストだってまぁ良いんじゃないの?と思っているのだが、賛否両論渦巻く中、どちらにしても褒められなければならないのはキャストが素晴らしかったことだ。監督はこの映画が長くなったことに対し、素晴らしい出演者に恵まれたので思わず脚本が長くなったとコメントしている。本当に素晴らしい演技だった。トム・クルーズに関しては新人を使って欲しかった気もするが、その他の役者、ここで全員の名前を並べ出すと映画のように長くなってしまうので控えるがヤク中のクローディアを演じたメローラ・ウォルターズとジョン・C・ライリーのロマンスのシーンが恋愛映画として一本立ち出来そうなくらい良かった。劇中何度も使用されているエイミー・マンの歌にインスパイアされたというセリフはお洒落で登場人物の人柄を良く反映している。「死」や「後悔」を取り扱うシーンがどうしても重くのしかかるこの映画で彼らのロマンスとフィリップ・シーモア・ホフマンの献身的な看護士は棘のある映画に柔らかさをもたらし、より共感を得やすいものにした。総合点の下でラストに触れます。
総合:89点 登場人物はそれぞれ人生の岐路に立っている。死の影で結ばれている。同じ場所で同じ時間を生きている。私はてっきり最後には大円団になって終わるものだと思っていたのだが、意外にも一度も交わらない線と線は多かった。空から降ってくるカエルは旧約聖書に出てくるらしく、実際に降ってきたこともあったらしい。ジョン・C・ライリー演じる警官のセリフに「僕は絶対に君を裁いたりしない」というのがあったが、カエルは神の裁きではなかったのだろうか。過去の栄光にすがる元天才に良い聞き手を与え、自分の過去に絶望する娘に母親の愛を与え、過去を悔いる父親と息子に人生最後の衝撃的な共感を持たせる。しかし、神は残酷である。過去を悔い改めないものに対しては自殺をも許さない。「過去を捨てようとしても過去は追いかけてくる」。 |