監督:スパイク・ジョーンズ 2000年9月@P.U.シネマ11 変身願望とは紛れもなく自分自身のためにあるものだ。例えば「あの女を自分のものにしたい」という動機があって、その女のために好みの男になろうとしても、それは自分のためであって彼女のためではない。さらに悲劇なのは完全に彼女好みの男の皮膚を被ったとしても彼女が好きなのは自分ではなく、自分の皮膚だけだということだ。この映画の登場人物はジョン・マルコヴィッチという人物の内部にはいることで欲しい物を手に入れようとする。しかし、結局のところ手に入れられるのは自己満足に過ぎない。人形師であるクレイグは最高の人形を手に入れるが、称賛を浴びているのは人形だけなのかもしれない。 監督のスパイク・ジョーンズはこれが初監督作品らしい。全く驚くべき才能としか言いようがない。考えなくても言い映画が量産される中、この「マルコヴィッチの穴」は観客に考えることを要求する。人によって引っかかる箇所は違うだろう。それだけ語り甲斐のある、多面的で複雑な映画である。人形師クレイグ、彼の妻だったのに突然同性愛に目覚めるロッテ、チンパンジー、そして本人役で出演のジョン・マルコヴィッチ。彼ら一人一人が主役級の深みを持っている。アイディア一発勝負のところもあり、ラストは忙しかったがちょっと捻った映画に飢えているならお薦めだ。 注目は邦題の「マルコヴィッチの穴」だ。題名としては久々のヒットであろう。一つ気が付いたのだが、映画であの穴に入っていくのは基本的に男性だけだった(ロッテは心理的に男性ということで許して)。やはり男とは「穴があったら入りたい」動物のようだ。
総合:84点 |