「ストレイト・ストーリー」
THE STRAIGHT STORY(’99年・米)

監督:デイヴィッド・リンチ
製作:脚本・編集:メアリー・スウィーニー
撮影:フレディ・フランシス
美術:ジャック・フィスク
衣裳:パトリシア・ノリス
出演:リチャード・ファーンズワース シシー・スペイセク ハリー・ディーン・スタントン ジェーン・ハイツ ジェームズ・キャダ ジョン・ファーリー&ケビン・P・ファーリー エバレット・マッギル バーバラ・E・ロバートソン

2000年4月23日@P.U.シネマ11
 10年以上不仲だった兄ラルフが倒れたことを知ったアルヴィン・ストレイトは時速8キロしかでないトラクターに乗って彼に会いに行くことを決意する。

 顔がいい。表情と言った方が良いのかも知れない。顔の造形というものは演技ではどうにもならず、演技をせずとも出てきた瞬間に観客に対してある印象を与える。よく人を顔で判断してはいけないと言うが、それは嘘だ。というより無理だ。初めから心は見えないから顔で判断するしかない。主人公と出会う人々のほとんどは数分しかスクリーンに登場しないが誰もが良い顔をしている。美男美女という意味ではなく、この人と話してみたいなと思わせるような魅力に溢れているのだ。

 もしこの実話をベースにしたストーリーを完全に映画化するとしたらそれこそ二時間程度には収まらない。アルヴィン・ストレイトは気の遠くなるような長旅を続けたのだ。それだけに時間の流れを表現するのは難しいことだったと思う。鈍足のトラクターを延々と見せ続けられたら飽きてしまうし、道すがら出会った人々との対話に重点を置いたら「目的地までいつの間に着いちゃったの?」ということになる。ここでリンチ監督は一つのアイディアを出す。ほんの数日の出来事と思っていた家出娘や鹿跳ね女と出会った道のりを実際は二週間かかったことにしてしまうのだ。これはまるで何か起きた日だけつける日記帳を見ているような気分になる。老人と戦争体験を懺悔し合うシーンは二人が打ち解け合うのに要した時間を省いてはいるが、上のような理由で早急な感じはしなかった。この映画で描かれてはいない時間は想像するしかないが、むしろそうした「何も起こらなかった日々」の方が人との結びつきや親密さを確かめるのに重要なのではないかと思う。映画ではその結果しか見せてくれないが、切り開かれた大地を横切る時速8キロのトラクターが考え事をするに十分な空間を与え、さらに役者の豊かな表現力も手伝ってその結果に至るまでのプロセスを容易に想像させてくれる。

 ラストシーンはかなりあっさりしているように見えるがエンドロールにうつる星空を眺めていると日記をのぞき見していたはずがいつの間にか自分も一緒に旅の終焉を迎えたような感傷的な気持ちになっていた。主人公にとってこの旅は兄に会いに行くのではなく、自分に会いに行く旅だったのではないだろうか。兄弟とはそういうものなのかもしれない。リチャード・ファーンズワースはドラマ「赤毛のアン」のマシュー役以来だったが、彼の年齢にしかできないであろう味わいのある深い演技を見せてくれた。彼の場合、いるだけで既にドラマであった。

 

感動
演技
変人密度
恐怖の暴走トラック

総合:88

つ て な に ぬ ね の