監督:マジッド・マジディ
2000年5月14日@蠍座 もちろんマラソン大会がクライマックスになるんだけれど、そこに至るまでの軌跡が何とも愛らしく、微笑ましい。イラン映画というのは検閲が厳しいらしく、ちょっと社会的な問題を扱うには子供を主人公にすることでその目を誤魔化そうという思惑があるそうだ。この映画に出演している二人の子役の演技はとても素晴らしくて最後まで目が離せなかった。お父さんにばれないように筆談で無くなった運動靴のことを話し合ったり、お兄ちゃんが何とか妹の機嫌を取ろうとして先生から貰った金色の万年筆をあげたり。一つ一つのエピソードがそこで終わりじゃなく、しっかりその後の展開の伏線になっているところも脚本の巧みさを感じさせる。 物語のかなり表面的な部分にあるのは教育的な配慮という子供映画に相応しいものだ。兄妹は仲良く、親を尊敬し、貧しくとも心は清くあれ。そして努力の後には御褒美が待っている。決して鼻につくものではなく、爽やかな印象を与えるのは監督の目線が子供主体に描かれていることが大きいのだろう。そのためこの映画を観て懐かしい気持ちになる人は多いにちがいない。世界は常に子供の目から描かれているからだ。靴を溝に落としたり、学校に遅刻して叱られたりっていうことは大人なら本当にちっぽけに映るのかも知れないが、子供にとっては一大事だ。マジディ監督はここであっさりと子供達に手をさしのべる大人を登場させる。一見すると甘ったるい御都合主義と取られかねないがその後の子供の笑顔を見るとそんな意地悪は言えなくなってしまう。やっぱり子供と動物には誰も勝てないのだ。 主人公の父親を演じているのは素人同然の退役軍人だそうだ。彼もやはりうまい。家の中では高圧的で厳格な父。教会ではお茶汲み係。そして一歩高級住宅街に踏み出すと何にも出来ない情けないお父さん。首尾良く仕事の説明をインターホンの前でやってのける息子に「アリはえらいなぁ」と言ったときのあの表情。あれでいっぺんに好きになった。この映画の素晴らしいところは子供が子供の役を、大人が大人の役をごく自然に映し出しているところではないだろうか。
総合:90点 |