2000-NOVELS
MAY

[ INDEX ]

1.落花流水…山本文緒
2.草原の椅子 上…宮本輝
3.草原の椅子 下…宮本輝
4.視えずの魚…明石散人
5.密告…真保裕一

 
1.落花流水 山本文緒
集英社1999.10発行1400円ISBN4-08-774433-7
 手毬、彼女を若くして産んだ母親、本当は祖父母にあたる手毬の育ての両親、母の再婚相手、結婚相手、幼なじみのマーティル、娘の姫乃。手毬と母親、姫乃という血縁3人の不思議な縁を感じさせる。
 なんというか、とても不思議な連作集。暗さも絶望も、山本さん独特の毒もあるけれど、それでも夢のような話(嘘臭いという意味ではないよ)に思えてしまうのは、彼女たちがそれだけ魅力的で、そしてあのラストのお蔭かもしれない。3つの人生で誰が勝って負けたという話ではない。というか、女は強い。
 いろいろな視点から見た彼女たち。そして次に繋がるのが当然の終わり方。どの話も鮮やかで綺麗でとてもいい。彼女たちの生き方は私には無理だし、心から肯定できるってもんじゃないけど、とても好きだ。        [ 先頭へ ]
2.草原の椅子 上 宮本輝
毎日新聞社1999.5発行1300円1500円ISBN4-620-10599-6
「ひとたびはポプラに臥す」というシルクロード紀行文を書いた宮本輝氏が次はどんな話を書くのか、これはとても興味があった。
 その話が、この「草原の椅子」である。宮本輝って人は、こんなに優しい文章を書く人だったろうか。それが第一印象。些細なことでも涙がでそうになるこの文章は、今流行の言葉で言えばとっても癒し系。
 フンザで撮った「草原」に見える写真、そしてフンザで出逢った老人の言葉、友人の父親が作っている椅子。そのあたりの小道具を核として、この物語にはいろいろな人が登場する。
 離婚した主人公と娘、浮気相手に殺されそうになった友人、写真集を作った青年、高速道路で車を停める女、陶磁器店の女主人、実の母親に虐待されて心を閉ざす子供、その義理の父親――どの存在も善し悪しではなしにいろいろなことを考えさせてくれる人なのだ。
 ところで、一時間真剣に本を読むのと、一時間ジョギングするのとでは消費するカロリーが同じというのは本当だろうか。        [ 先頭へ ]
3.草原の椅子 下 宮本輝
毎日新聞社1999.5発行1500円ISBN4-620-10600-3
「魔がさす」という言葉についてこんなに考えたのは初めてかもしれない。確かに魔がさすということは多いのかもしれない。でも、魔に負けたくはない。負けないですむくらい強くなれたらいいと思う。
 使命とか、国のこととかいろいろ考えた。読みながら、自分のことも考えて、何故か幸せだった。幸せな小説だった。
 ザウルスというぬいぐるみだけが座っている草原の椅子の写真から、大人になった圭輔はなにを思うのだろう。想像するだけで幸福だ。
 この物語は心の中に永遠にとっておきたい。宮本さんのたくさんの作品の中で、今までひいきにしていたのは「海岸列車」なのだが、実は「草原の椅子」、もっとも好きな話と言えるかも知れない。読んでよかった。        [ 先頭へ ]
4.視えずの魚 明石散人
講談社ノベルズ1999.10発行800円ISBN4-06-182099-0
 う〜ん、この作者がいまいち何者かわからない。もともと京極夏彦関係で知っている以上の知識はまったくないのでね。
 で、そんな一般ピープルの読者から見ると、よくわからない小説なのだ。このキャラクターの「明石散人」の書き方といい、もともとの文章もしかりなんだけど、小説として、特に魅力は感じなかった。        [ 先頭へ ]
5.密告 真保裕一
 最近の私は真保さんの作品と波長がとても合うらしい。私が変わったのか、真保さんがどんどんうまくなっているということか。
 ちょっと前の作品だけど、これも素直に面白かった。過去、同僚を密告した男に再びかかる密告容疑。その辺の過去と現在の織り込み具合がうますぎるったら。警察の裏という地味〜〜さ加減もこれまたよろしく、はじめから終わりまでこの先はどうなるんだろうという、わくわく加減を持続させてくれた。こういう小説って、やっぱりストレートだけど、面白い。というか、やっぱり基本て感じがするよ。        [ 先頭へ ]