日 記
『戦場のピアニスト』 ロマン・ポランスキー監督 ポーランド・フランス合作
2h28  2003.03.29


見るものに有無を言わせない強いメッセージがある。母を収容所で亡くし、自身もゲットーで暮らした経験があるポランスキーの、この作品に対する強い思いが十分伝わってくる。
シュピルマンの自伝がそうであったようだが、ここにはナチ=加害者、ユダヤ=被害者という単純な図式はなくナチの将校の中にもユダヤを助けた人がいて、ユダヤの中にも憎むべき人間がいたといった多角的な視点がある。シュピルマンを助けたナチの将校が終戦後ソ連の収容所で処刑されたという結末(実話)が、物語を複雑にしているとともに、戦争自体の矛盾、残酷さをさらに際だたせている。
主演のエイドリアン・ブロディは熱演で、まさにはまり役。
この映画を見た時期が時期だっただけに、少し疲れてしまった。
どうしてこの映画がアメリカでアカデミー賞(監督賞・主演男優賞・脚色賞)を獲得し、絶賛されてる時にそのアメリカが戦争をしかけているのだろう・・・?

映画の力ってそんなものなのか・・・と思ったらとても悲しい。



『青の炎』 蜷川幸雄監督 日本 1h 56  2003.03.28

貴志祐介の同名小説の映画化。母、妹、高校生の秀一の3人で生活してるところへ母のかつての離婚相手である曽根が転がり込んでくる。曽根は働きもせず、酒ばかり飲み暴力を振るい、3人の平和な生活をかき乱す。怒りが限界に達した秀一は曽根殺しの完全犯罪を企てる。実行後全てが上手くいったと思っていたところ、思わぬところから完全犯罪はほころびを見せ始める・・・
一体何が17歳の少年に殺人を犯させるほど彼を追い詰めたのか、本当に殺人でしか解決できない問題だったのか、どういった過程で彼の心理状態は変化していったか(追い詰められていったか)、17歳という年齢はどういった特徴を持ちどんな行動に移りやすいか、家族は彼の心に気付き止められなかったのか・・・などが私が考えるこの映画の大事な所なんだが、この映画では前記のどの点に関しても描写力が足りないと思う。全体的にサラっとしてて軽い。
問題があっても大人だったら生き続けるためにある程度矛盾や汚いところに目をつぶる…という処世術を知らず知らずのうちに身につけてると思う。逆に子供は問題自体に気付かない。17歳はその狭間の年齢で、感性は鋭く大人の矛盾や汚さに気付く。そして自分には解決できる大きな力があると勘違いしてるのだが、実際にその方法はあまりにも拙く弱過ぎる。この少年も殺人までに至ってしまうのだからきっとその心は深く傷つき、また闇のように暗い中を彷徨ってるのだと思う。でもそこからなんとか自分の力で抜け出し家族を救おう・・・と必死に義父の殺人計画を企てる。それがあまりにも拙ないばかりに全てを失ってしまうとは気付かずに・・・この辺りがこの少年の切ないところだと思う。映画の終わりごろにこの切なさがふーっと浮かび上がり、胸が裂けるような感情を観客に抱かせると良いんだが、この映画ではこのW切なさ”が全然浮かび上がって来ない。
主演の二宮和也(ジャニーズの嵐のメンバー)、助演の松浦亜弥の演技も少し硬い。



『歓楽通り』 パトリス・ルコント監督 フランス 1h31  2003.03.02


運命の女性に出会いお世話をする事を夢見てきた男が、実際に理想通りの女性に巡り合い彼女の幸せのために全てを捧げるという内容・・・
ルコントはこの運命の女=ファム・ファタルものが好きで多少内容に違いがあるにせよ同系統と言える作品が過去にもいくつかある。『髪結いの亭主』、『仕立て屋の恋』、『イヴォンヌの香り』、『サンピエールの生命』、『フェリックスとローラ』等だ。男達は運命の女に恋焦がれ憧れひたすらに愛する。一方女の方は美しいがどこかミステリアスで謎めいている・・・はっきり言って見終わった後、「またこの系統か〜・・・」と思ってしまった。正直なところ少し飽きた。確かに撮影、美術、衣装などのレベルが高く見事に1945年のパリを見事に描き出していて、ベテランの技を感じるがそれよりも大事なテーマの斬新さがない。語り部が主人公の男で回想形式というのは『髪結いの亭主』と同じで、喜ぶときの男の顔を少年時代の顔のカットに換えるという手法も同じ。 う〜む・・・ルコントは良いのかな〜これで。
もちろん一人の人間が描ける世界というのには限界があるものなので、常に改革して新しい世界を描いて欲しい・・と言ったって無理なのは分かっている。そういう意味ではルコントはコメディー映画から恋愛もの、アクションものまで・・・と他の監督と比べると幅の広い方なのかもしれない。それでも、それにしても!ファム・ファタルに捧げる実直な愛はしばらくお休みでいいよ・・・私が女だからこの手のテーマに飽きちゃったのかな・・・男性はこういうのに飽きないものなのでしょうか・・?
ルコント監督と彼の作品が大好きなので余計期待が大きいのだろう。多作でなくていいから質の良い練れた作品を作っていって欲しい。次の作品『列車の男』はかなり内容が違いそうです。次に期待です。


『たそがれ清兵衛』 山田洋次監督 日本 2h09  2003.01.14

とても落ち着いていて、心に沁み込んでいく・・・という映画だった。山田洋次監督がこの映画を通じて訴えたい事はいくつかあるのかなと思うけど、その中でも中心に据えられたのはきっとただ身近にある人間を愛して生きてゆく・・・ということはそれだけでどんなにか意味があり尊いことであるか、という事だったと思う。
それは映画の中で主人公、清兵衛の生き方 −自身の出世や身に余る金は望まず、家族を愛し、家族が幸せに暮らしていく為だけに生きる− を通して表現されている。他人からは慎ましい生活を同情されているが、本人はそれで十分満ち足りていている。
清兵衛の生き方の肯定はすなわちその逆の生き方に対する批判でもあると思う。いや、山田監督は今現在、その逆の生き方に深い危機感を抱いているからこそこの映画を作ったのではないかと思う。身近な人間を正面に見つめて向き合うことはせず、その外にあるもの、外枠であったり身の丈に合わない己自身の人生を過剰に見つめすぎてはいないか・・・?その事によって日本人は不幸になってるのではないか・・・?という強い問いかけを私は感じる。
それとこれは小さな点かもしれないが勉強についての清兵衛と萱野の会話で、『お父さん針を習えばそのうち浴衣が縫えるようになります。けれど論語を習っていたらそれはは何の役に立つのですか?』『学問をしていればそのうち自分の頭で考えられるようになれる。自分の頭で考えられればどんな時代が来ようともきっと生き抜くことが出来るのだよ』というのがある。私はここに、勉強する事の本来の意味・・・に対する山田監督のメッセージがあると思う。
この映画はキャスティングが良かった。誰一人とっても違和感のある配役はなかったと思う。特に良かったのは宮沢りえさん。何と形容してよいか分からない程の美しさだった。彼女の表現力の豊かさには本当に目を見張るものがある。どのシーンをとってみても指の先から足の先まで感情が行き渡っている。
真田広之さんもはまり役だったと思う。全体的に抑えた演技だったけど、決闘の藩命を仕方なく引き受けるシーンの彼の表情にはグっとくるものがあった。
全体的にとても良かったと思うが、ひとつだけ『うーんどうかなぁ・・・』と唸ってしまうところがある。それはナレーション。岸恵子さんの声がどうこうという問題でなく、映画におけるナレーションの存在自体が私はあまり好きではないので第一声がナレーションのオープニングはがっかりした。できれば映像と台詞、音楽で描ききって欲しいのだ。あと、ナレーションの語り手は当時5歳だった次女の以登だが、5歳の少女が語り手になれるほど当時のことを鮮明に覚えていたかが疑問である。長女の萱野だったら11〜13歳位だと思うのでまだ分かるのだけど。