ゆーすけ的日常

「寝床のたわ言、昼間の寝言」
ネットで日記を公開するという行為は、ある意味自分を中心にした劇場として世界を捕らえ、日々ネタ探しをしながらフィクショナルに生きる行為なのかもしれない。プロレスのように現実と表裏一体の物語性を生きる日々。そんなんで楽しいか?諸君。
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「俺の舌に釘を打て」 [Man, 16 Jul 01]
Talk is cheap

存知の方も多いかと思うが、僕は非常によくしゃべる。
これは大阪人の特性かもしれないが、少しの沈黙も我慢できないのである。
おしゃべりにも2種類あって、誰も聞いていないのに延々喋り続けるタイプと、人が居るととにかく話題を探してコミュニケーションを計ろうとするタイプがある。僕は典型的な後者で、人といてシーンとした空気が流れると、すぐ自分のせいだと思い込んでしまう性癖があるのである。もちろん、沈黙というのは誰のせいでもない。そこに居合わせた人間の共同作業であって、僕が一人で背負うような物ではないことは十分わかっている。
にもかかわらず、沈黙が訪れた瞬間、僕の頭の中は大パニックに陥ってしまうのである。
その時の心の声を表現すればこんな感じだ。
(ごめんなさい、黙らせちゃって。今すぐなんか言うから、笑わせるから、ごめんね、ごめんね。)
もし僕が切羽詰まった顔で、沈黙から大慌てで何か話題を探そうとしていたら、そんな気持ちで居ると思ってもらっていい。

まるでパーティーのホストのような気ぜわしさだが、僕の知るかぎり大阪人にはこのタイプ人が多い。臆病なのかもしれないし、ある意味欲張りなのかも知れない。アメリカ開拓時代ではないが、沈黙を何もない荒野のように感じていて、言葉という境界線を引けばその分の空間が全部自分のものに出来るとでも思っているのではないかと、自分なりに思ったりもする。

とにかく「空間」とか「間」隙間があったら何かを詰め込みたい。積めるものは何でも積んでしまおうと思っているのは間違いない。

まあ、こういう性格は、別名貧乏性ともいうのだが。

業マンならこのおしゃべりという性格も一種の武器になるだろうが、物書きという自分の職業から考えると、この性格は非常にヤバイのではないかと、最近ふと思うようになった。

実は僕は文章を書くという作業が面倒で仕方がない人間なのである。メールはもちろん、メモ、ファックスの類いも大嫌い。
書けば5分とかからないメールの返事すら、二日三日と放っておき、酷いときは結局書かずに済ませる。よくそれで人間関係が崩壊しないなと自分でも思うのだが、良く考えると、やはりここに“おしゃべり”という性格が介在しているのであった。
要するに大体の用事は全部電話で済ませて居るのである。やっぱり指でキーボードをたたくという行為より、口を動かすという行為の方が得意なのだ。

これがさっき言った“職業的危機”の正体である。
そもそも文筆業とは、頭に浮かんだことを文章にして金を貰っている職業である。にもかかわらず、僕はそのネタ元を喋ることで垂れ流しにしてしまうのだ。言ってみれば、杜氏が川に原酒を流して、魚を酔わせて喜んでいる様なものである。

、とあるジャンルの作家協会が親睦に海外旅行に出掛けた時に、あまりに良く喋るKという若手作家に対して、Hと言う巨匠がこう言ったと言う。

「君、今喋ってる中身の半分も黙ってみるがいい。きっと君は今の倍作品が書けると思うよ」

誠にごもっとも。
経験からでた親身のアドバイスだったのか、あるいはたんなるイヤミにすぎなかったのかはしらないが、あまりに的確な指摘である。それまで年に数本の短編を発表すれば御の字であったこの作家が、その数年後、ばりばり書き下ろしの長編を書くタイプの作家に変身したというのは少し注目に値する事実ではないだろうか。

実際、思い当たる節はある。
僕は仕事柄海外に出ることが多いのだが、この時の生産量は日本に居るときの何倍にも跳ね上がるのだ。取材の直後ということもあるだろうが、取材とは関係ない原稿でも、旅先になると驚くほど筆が進む。今回のこの原稿でも、実はアメリカからの帰りの機内で書いているのだ。要するに喋り相手が居ない異国では僕の生産量は飛躍的に上がる。何もこれは国外には限らない。日本国内でも、旅先に行くと、パソコンに向い何かを書いている時間が圧倒的に増えるし、その集中力も高まっている。

内なるモノローグを吐き出すアウトプットとして、口が使えない時に初めて僕はキーボードに向かう。締め切りといった物理的な拘束でも無いかぎり、僕は喋ることで内なるパトスを吐き出してしまうらしい。

説の話が出たついでに、R・A・ラファティという作家の作品におしゃべり野郎をテーマにした「問答無量」という短編を思いだしたのですこし紹介してみよう。

これまで何十年間を費やしながらまったく成果のあがらなかった、宇宙人との交信プロジェクトの研究所に、おしゃべりぐらいしか能のない女の研究員が配属されて来た。彼女の喋ることと言えば、男の話、流行りの服、気の利いたレストラン、とまるで中身が無い。ところが、試しに彼女の無駄口を電波に乗せて宇宙に打ちだしたところ、早速おしゃべりな宇宙人が返事を寄越して、彼女とデートのために地球に押し掛けてきたという話である。もしこの先、この話をお読みになる可能性のある人もあるかも知れないのでこの先は省略するが、まあおしゃべりにロクな奴はいないというオチ。

事ほど左様に、世間からは嫌われ、生産性も低い、ロクな生き様でないとされるおしゃべり人間。できれば卒業したいのは山々だが、僕も親から「あんたは口から生まれてきた様な子だ」などと言われて育った男である。今更、この性癖が簡単に治るとも思えない。

ならばいっそ口述筆記でも導入して、生産性を飛躍的に向上させてやろうかという気になったりもする。ただ、うっかり美人秘書などを入れてしまったが最後、一円の得にもならない口説き文句を何百万語と吐き出しそうな自分を想像すると、それにも踏みきれそうにもないのである。

妄言忘備録