ゆーすけ的思考

「かっこいい人」
「カッコいい」という言葉が口癖になったのはいつからだろう。世の中には“正しい”ものは何もない。ただ“カッコいい”と“カッコ悪い”があるだけだ。そう気づいた瞬間、僕の視野はキース・リチャーズのカッティングのように御機嫌にクリアになった。
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「震えあがる話」[ Sat, 13 Nov 99 01:28 ]
Tremble

の間、友人が嫁さんに三行半を突き付けられた。
どうやら浮気がばれたらしい。

昔から二股三股は当たり前。女に関してはかなりの凄腕で鳴らしたこのオトコにしてはめずらしい失策である。普段から「浮気がバレるのは女がわかってないからさ」と豪語していた人間とは思えないお粗末さではないか。

3歳になる息子もいて、嫁さんも結構美人。
ロクデナシではあるが家族は凄く大事にしていたし、息子に至っては溺愛していたと言っていい。それを失うような、無茶な冒険をしたとは思えない。

「これが原因なんや」
事情を聞こうと呼びだしたバーの席で、彼はいきなりポケットから携帯電話を取りだし、情けなさそうに笑った。

「嫁さんにリダイヤル攻撃されるほど疑われてたんか?」
「アホ言え、そんな初歩的なドジ踏むかいっ!」
「ほな、なんやねん」
「バイブ機能や・・・まったく信じられへんわ」

そう言って、彼はくやしそうにに水割りをあおった。

張と偽って神戸のプチホテルに部屋を取った彼は、年下の彼女と一泊二日の不倫旅行と洒落こんだらしい。
観光客の多い北野町あたりは、地元の取引先に顔が刺すこともないし、大阪あたりの女性だと逆に一泊することが新鮮らしい。事件勃発前は、「ホテルモントレーには天蓋つきのベッドがある」だのなんだとあれこれ講釈を垂れていたのを思いだす。

午後にチェックインして、晩餐前にさっそく昼下がりの第一ラウンドを楽しんでいた二人だが、いきなりその際中に問題の携帯電話がサイドテーブルでぶるぶる震えだしたという。もちろん情事を中断して電話に出るほど野暮な男ではない。

だが、同時に有能なビジネスマンである彼には、休暇の最中でもなにかと連絡を取らねばならない相手がある。ましてやウィークデイの無理やりな情事旅行の最中である。うっかり突発事態に対応できず、問題が発生したときには
言い訳ができない。デジタル電話だから、かかってくる先を登録しているような相手なら番号表示ですぐわかる。発信してきた相手だけ確認してコールバックしようと、愛撫中の片手を伸ばしてその電話を手にとったという。

れば自宅からの電話である。
もちろん出る気はない。
時間から考えると恐らく、最近パパに電話をすることを憶えた息子の仕業だろう。

幸せな家庭に背を向けて、火遊びを楽しむ自分の背徳性に逆に興奮した彼は、ぶるぶる震えるその電話をいきなり相手の乳房に押し付けたという。いわゆる大人のおもちゃではないが、小刻みな振動に敏感な部分を刺激された女性の方は身をよじって歓喜の声をあげる。

自虐的な喜びを覚えた彼はちょっとの間その振動を愛撫に応用して楽しむと、震えの止ったそれをベッドサイドに戻して、情事の続きに戻ったというのだが・・・。

「俺はね、そのときココロで息子に謝ったよ。”悪いパパでごめんな”って」
「ウソつけ。それどころやなかったくせに」
「うーん、そんな気もする・・・」

そう言って、笑う横顔にもさすがに力がない。

我の境地で行為のフィニッシュに登り詰めようとしていた最中、彼はふと妻の金切り声を聞いた来たような気がしたという。

あわてて顔を起こして辺りを見回すが乱入者の姿はない。

しかし、声は相変わらず消えない。

ぞっとして、ベッドサイドに目をやると件の携帯電話がわめいている。

「あなた!○○!なにしてるの、出なさい!出なさいったら!」

通話時間表示はすでに15分経過。

そう。なんと彼は愛撫の最中に受信ボタンを押してしまったらしい。
電話の向こうに獣じみた声をきいて脅えた息子が、母親に電話を手渡したというのだ。

まさに、震え上がる話としか言い様がない。

「あれから掛かってくるゆうたら嫌な電話ばっかりよ。嫁の親とか弁護士とかな」

そう言って彼はまたグラスを呷った。
丹精なはずの横顔が自嘲でゆがんでいる。

「・・・でも、もしかしたら、と思って電話番号替えられへんのよ」

そう言って、彼は手の中の携帯に目を落とした。
あれ以来掛かってくることのなくなった、息子からの電話を今も彼は待っているのだった。

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