父の心配(犬のようにいじめられる運命への心配)






                        本野享一・訳(角川文庫)参照

オドラデックという言葉はスラヴ語からきたものだと言うひとたちもある、このひとた ちは、そういう根拠にもとずいて、この言葉の成立を証明しようとする。またあるひと たちは、それはドイツ語からきたもので、スラヴ語には影響を受けたにすぎぬ、と主張 する。この二つの解釈の、どちらを持ってきても、オドラデックという言葉の意味はわ からないのであるから、どちらも正しい解釈ではない、という点に、この二つの解釈の ふたしかさがある、と考えてだいたいまちがいはないであろう。

父→Hausvaters,
  Hunzen fata→犬のようにいじめられる運命。
オドラデック→Odradek,
       Od→荒れた、荒地・Odeland→荒地。
       dek→Deklination→傾くこと。

 「傾く」というのは地球の暗示であって、宮沢賢治のデクノボーのデクと同じであ  る。ちなみに「雨ニモマケズ」のデクノボーは地球の暗示であり、土偶と言うのも、  確かに地球は土の塊のようでもある。詩は地球の精神を詠ったものだと解釈したが、  カフカも賢治も視点は必然的な結果であるが酷似している。

つまり、オドラデックというのは「地球の荒地」→「差別」の象徴である。

スラヴ語→Slawischen,
Slang wischen→俗語・無価値な書き物。
ドイツ語→Deutschen,
deutelen→こじつける、指し示す。
根拠→stamme→血族。
解釈→Deutungen,
Dichtung→創作、作り話。
正しい→Recht,
Rache→復讐
ふたしかさ→Unsicherheit,
Entschiedenheit→決定している。


オドラデック(差別)という言葉はつまらない書き物からきたものだと言うひとたちも ある、このひとたちは、そういう血族(ユダの民)にもとずいて、この言葉の成立を証 明しようとする。またあるひとたちは、それは「こじつけ」からきたもので、つまらな い書き物には影響を受けたにすぎぬ、と主張する。この二つの解釈の、どちらを持って きても、オドラデック(差別)という言葉の意味はわからないのであるから、どちらも 復讐のための作り話ではない、という点に、この二つの解釈の確かさ(決定している) がある、と考えてだいたいまちがいはないであろう。


もちろんどんなひとでも、オドラデックと呼ばれるものが現に存在しているのでなけれ ば、そうした研究に没頭するわけはない。

もちろんどんなひとでも、「差別」が現に存在しているのでなければ、そうした研究に 没頭するわけはない。


オドラデックはまず、平べったくて星形の糸巻きみたいな格好をしていて、またほんと うに糸がが巻いてあるらしいのだ、ただしそれは、ぼろぼろの使いふるしで、結び目だ らけであり、むやみにもつれあった、各種各様の種類と色の糸のかたまり、と考えても いいであろう。

平べったい→flache,
Fluch→呪い、天罰。
星形→sternartige,
sterbensangest→死の苦しみ、死の恐怖。
糸巻き→Zwirnspule,
zwirnen→苦しめる。
ぼろぼろの→abgerrissne,
uberreizen→過度に刺激する。
結び目→aneinander geknoten,
uneidlich gekonnt→永遠の・可能性のある。
もつれる→verfitzte,
     verflucht→呪われた、いまいましい。
種類→Art,
Alter→老人、古参者、
色→Farbe,
Harm→ふかい悲しみ。

オドラデック(差別)はまず、呪いとしての死の恐怖、苦しみの格好をしていて、また ほんとうに苦しみが巻いてあるらしのだ、ただしそれは、永遠に過度の刺激の可能性が あり、永遠に呪われた各種各様の古参者(祖先)とふかい悲しみ、苦しみのかたまり、 と考えてもいいであろう。


しかしそれはただの糸巻ではなく、星のまんなかのところから、小さな横棒が一本突き 出ていて、この棒と直角にもう一本、棒がくっついている。

ist→ユダヤ人の暗示。
小さな→Kleines,
 Kredo→信仰
横棒→Querstabchen,
Querele→訴え、苦情、争い。
星→stern,
storer→流浪者。
まんなか→Mittle,
     Mittler→イエスキリスト。
まっすぐ→aufrecht,
aufreizend→刺激的(扇動)、怒らせる。
糸巻→Spule,
spur→痕跡、印象。
直角→rechten winkel,
Rache→復讐。
棒→Stabchen,
sterblichs→死すべき者、人間。
突き出て→hervor,
herfallen→襲いかかる、避難する。
くっいている→fugt→(運命が)定められている。

しかしそれはユダヤ人の先祖の印象ではなく、流浪者の中心にイエスキリストがおり、 先祖の信仰の訴えが非難され、この苦しみと復讐のほかに、怒りを持った死すべき人間 としての運命が定められている。


このあとのほうの棒と、星のまわりのぎざぎざとが、ちょうど二本の脚のような役目を して、全体がこの脚のうえに立っているのである。

棒→Stabchchen,
sterblichs→死すべき者、人間。
星→Sternes,
storer→流浪者。
ぎざぎざ(放射)→Ausstrhlungen,
ausstellung→陳列、非難。
二本の→zwei,
zwang→束縛、抑圧、強制。
脚→Beinen,
Bann→束縛、追放、命令。

このあとのほうは死すべき人間の救罪、他方では放浪者への非難。ちょうど抑圧、追放 のような役目をして全体(差別)がこの命令のうえにしっかり存続しているのである。
「あと」というのは新約聖書のことだと思う。


このものはむかしはなにかわけのわかった形をしていたのだが、今はつぶれた残りなの だ、と考えたくなる。しかしこの考えは、当たらないようである。

もの→Gebilde,
Gewalt→権力。
むかしは→Fruher,
Flucher→のろう人、ののしる人、涜神者。
わかった(目的にかなった)→zweckmassige,
zwicken→苦しめる。
なにか→irgendeine,
irrerden→たわごとを言う。
形→Form,
Hohn→嘲笑、軽蔑。
つぶれた→zerbrochen,
zerpflucken→こきおろす、非難する。
当たらない→nicht der Fall、
           Fahl→陰険。

この権力は、苦しめる嘲笑、たわごとを言い、ののしる人で、非難しているだけだと考 えたくなる。しかし考えは陰険ではない。


少なくともそういう痕跡が全然ないのだ、そうした主張を証拠立てる、あとからつけ加 えた部分とかは、まったく見あたらない、たしかに全体としては意味はわからないが、 それなりにまとまっているのである。

糸口→Ansatz,
unsicher→安全でない、危険な、
(破損部分)→Bruchstellen,
Buchstabe→文字、空字。
まとまる(完結している)→abgeschlossen,
ubergross→非常に大きい、巨大な、途方もない。

少なくともそういう痕跡が全然ないのだ、そうした主張を証拠立てる、危険な文字とか は、まったく見あたらない、たしかに差別の現象は罪はないが、それなりに途方もない ものである。


これ以上くわしいことは、オドラテックがとくべつ活動的でなかなかつかまらないの で、よくわからない。

活動的→beweglich,
bedenklich→考慮を要する、危険な、重大な。
つかまらない→nicht zu fangen,
nicht zu frangen→問うことができない。

これ以上くわしいことは、オドラテック(差別)がとくべつ考慮を要するもので問うこ とができないのでよくわからない。


あれは、屋根裏にいたり、階段の踊り場に来たり、廊下に姿を現したり、玄関に出てみ たりする、ときには、一か月も姿を見せないこともある、それはたぶんほかの家へ居場 所を移しているのであろう、しかし、かならずまたわたしたちの家へもどってくる。

屋根裏→Dachboden,
Dach bose→悪い頭(心)
階段→Treppenhaus,
Trupp hauzahn→集団の牙。
廊下→auf den Gangen,
Aufgang→階級。
玄関→Flur,
Frau→婦人。
ときどき→Manchmal,
     Mann→男。Man→人間、だれでも、世間。
一か月も(数カ月)→monatelang,
mundlich→口伝えの。
ほかの→andere,
andauern→絶え間なく続く。
家→Hauser,
Hauzahn→牙。
移す→ubersiedelt,
siegel→不可解。(ubersiegel)→過度、
引き返す→kehrt,
kett→束縛、鎖。
戻ってくる→zuruck,
zudrang→押し寄せる。
わたしの→unser,
ansicht→光景、ながめ、意見、見解。

あれ(差別)は、悪い心にいたり、集団の牙だったり、階級に現われたり、婦人や紳士 のだれでもにある。
ユダヤ人には口伝えの絶え間なく続く牙の不可解は見える事がない。しかし、束縛はか ならずまた牙の見解としてだれからともなく押し寄せてくる。


部屋のそとへ出てみると、下の階段の手すりにちょうどあれがもたれていることがよく ある、こんなときは、こちらから話しかけてみたくなる。

(部屋のそと)
ドア→Tur→地球の暗示。
歩み→tritt,
trott→旧態依然、古いしきたり。
ちょうど→gerde,
Gelant→鐘などが鳴る、鐘。
手すり→lehnt,
Leid→苦痛、悲しみ。
階段→Treppengelander,
Treffen Rand→苦しみの限界。
Lust,→Luster→輝き。
話しかける→anzusprechen,
Anspruch→権利の主張。

地球の古いしきたりにより苦しみの限界(現世の死)で悲しみの鐘(死)が鳴る。
こんなときには人は輝き、(人としての)権利を主張する。
 つまり、死というものは人としての尊厳に見守られなければならない、生まれてきた  時と同じように、という意味だと思う。


もちろん、めんどうな質問をするわけではないので、まるでもう  なにしろ相手が非 常に小さいものだからどうしてもそうなるのだが  子供みたいに取扱う。

めんどう→schwierigen,
Schubbejack→こじき、浮浪人。
たずねる→Fragen,
 Freigeben→自由にする。
取扱う→behandelt,
befangenheit→偏見。
非常に小さい→Winzigkeit,
Wirklichkeit→実際。
そうなる→verfuhrt,
verflucht→のろわれた、いまいましい、いやな。
子供→Kind,
Kitsch→俗悪なもの。

もちろん、浮浪人(放浪者)から自由になるわけではないので、まるでもう  なにし ろ実際のろわれたものだから  俗悪なものとして偏見をもたれる。


「お前の名前は?」「オドラデック」「どこに住んでいるの?」「きまっていません」

名前は→Wie heisst,
   Viehisch→残忍な。
住む→wohnst,
Wuste→荒地、荒廃した土地、
きまっていない→Unbestimmer Wohnsitz,
Angestimmer Wuste→絶えず心配な荒地。

「残忍なものは?」「差別」「荒地にいるの?」「絶えず恐ろしい荒地」


そう言って、大きな声で笑うのである、それはしかし肺のない人間にしか出せないよう な、笑い方である。

笑う→lacht,
Rache→復讐。
肺→Lungen hervorbringen,
Lugenhaft(うそつきの)bringer(伝達者)
なしに→ohne,
Ahn→祖先。

そう言って、復讐する、それは嘘つきの伝達者にたいする先祖の人間の復讐である。


落葉がかさこそと音を立てる、そのような響きを持っている。会話はたいていこれでお しまいである。

かさこそ音を立てる→Rascheln,
Rache→復讐する。
落葉→Gefallenen Blattern,
Gefahrden Bittere→危険にさらされている(おびやかす)、苦しみ。
istはユダヤ人の暗示。
会話→Unterhaltung,
Altvater→祖先。

危険にさらされている(おびやかされている)苦しみに復讐する。ユダヤ人の祖先はた いていそれをもって死んでいく。


しかしこの程度の返答が、もらえないこともある、よくあることだが、まるで、材木み たいに、長いあいだ黙りこんでしまうのだ、もともとなにか材木のような感じを与える 相手ではある。

しかし(そのほかの点では)→Ubrigens,
abringen→戦って疲れる。
返答→Antworten,
Unterwelt→地獄、死者の国、黄泉の国、冥府。
もらう→erhalten,
erharten→証明する。
長い→lange,
range→ringen→戦う。
黙っている→stumm,
sturm→怒り。
材木→Holz,
Hollisch→地獄のような、悪魔のような、恐ろしい。
のように思われる→scheint,
       scheiterr→破滅する。

この死者の国でさえも戦い疲れ、いつも証明できるとは限らない。しばしばユダヤ人は 破滅にみえる恐ろしいものと怒り戦う。それは悪魔なのかもしれない。


あれはどうなる、とわたしはむなしい自問自答を続ける。あれに死があるのだろうか? 死ぬものはすべて、死に先立って、一種の目的を持ち、一種の活動を続け、そうしたこ とに自分自身をすりへらすのである、これはオドラテックにあてはまらない。

むなしい→Vergeblich,
    Vergesslich→忘れっぽい、忘れられやすい。
あれはどうなる→geschehen wird,
geschehen wirr→精神錯乱を生じさせる。
死ぬ→sterben,
stauben→追い払う。
hat(haben)→Hatz→追い出し猟、群れ。
先立って→vorher,
vorfahr→祖先。
何らかの→eine Art,
ahn artig→先祖の、(反)ひどい。
何らかの目的→eine Art Ziel,
  ahn Anzieger→先祖の密告者。
何らかの→eine Art,
ahn artig→先祖の、(反)ひどい。
活動→Tatigkeit,
totung→殺害。
すりへる→zerrieben,
zerlisen→読み古されたもの。
当たる→trifft,
triftig→浮流する、根拠のある。


(差別は)忘れられやすい問題であるが、(差別は)精神錯乱(混乱)を生じさせる。 あれ(差別)は追い払われることがあるのだろうか?追放されるものは、祖先の群れ。 先祖の密告者による、先祖のひどい殺害。それに関する読み古されたもの。しかし、差 別には根拠がない。


だからあれは、糸を長くうしろに引きずりながら、わたしの子供の足もとを、子供のそ のまた子供の足もとを通りぬけ、階段をころころところがり落ちていく、いずれはそん な目にあうのであろうか?

糸→zwirnsfaden,
zwirnen fahrend→苦しみの遍歴。
足→Fuss,
Hass→憎しみ。
子供→Kinder,
Kitsch→がらくた、俗悪なもの。
階段→Treppe,
Tropf→つまらない人間、ばか。
ころがり落ちる→Kollern,
Kollern→激怒する。

だから差別は苦しみの遍歴をたどりながら、俗悪なものへの憎しみを子孫にいたるまで 抱き続け、つまらない人間に激怒する。


たしかにあれは、誰に危害を加えるわけでもない、しかし、あれがわたしの死後もやは りそんなふうにして生き残っていかねばならぬのかと思うと、一種の苦痛にちかい感情 におそわれるのだ。

危害→schadet,
schande→恥、不名誉、汚名。
Ja,→ユダヤ人の暗示→ist,
eine→ahn(ahne)→先祖の暗示。
生き残る→uberleben,
uberlegen→熟慮する、よく考える。
苦痛→schmerzliche,
schmelzen→しだいに少なくなる、消える。

誰も不名誉(恥)であるわけがない。
(差別がユダヤ人の汚名にならないことははっきりしている)
ユダヤ人は(先祖とともに)ほとんど(差別が)消えるように差別についてよく考えな ければならない。


カフカは超天才である。作品は二重の構造になっており、文面では決してユダヤ人とし ての発言は見られないにも関わらず、ある操作を経て読み込んでいくと驚くべき感情の 吐露に出くわす。(わたしはドイツ語を全く知らないので違っている点も多々あるかも しれないが、概ね、こういうことの伏線が浮かび上がるように意図して書いたことは間 違いないと確信する)

                        1998.2.19. setuko.