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TBS 帝京大学ラグビー部員暴行容疑事件 人権侵害報道
委員会:「放送と人権等権利に関する委員会機構」
<2年生部員2名と家族からの申立て>
- I. 申立に至る経緯
- 1997年11月、都内のカラオケボックスで、19歳の女性を集団で暴行したとして、帝京大学のラグビー部員5名が、98年1月20日、婦女暴行容疑で逮捕された。更に他大学の学生を含む3名が、その後逮捕されたが、2月9日、被害者との間で示談が成立、告訴が取り下げられたため、全員が処分保留のまま釈放になり、その後起訴猶予処分となった。このうち帝京大学ラグビー部の2年生部員2名とその家族合わせて7名が、「2人は暴行行為に加わっていなかったにもかかわらず、暴行犯人として放送されたため、本人だけでなく家族の名誉が著しく損なわれた」として、6月25日、TBSに対する権利侵害の申立を、本委員会に行った。
- II. 申立人の申立要旨
- 容疑事実が未確定な逮捕直後から、実名、顔写真を放映するとともに、字幕並びにキャスター、リポーター、ゲストコメンテーターらの解説及びコメントにより、あたかも申立人の学生2名(以下「申立人2名」という)が、集団レイプの共犯者であると断定的、もしくは誘導的に、繰り返し繰り返し報道され、家族を含む申立人全員は著しく名誉を毀損され回復しがたい打撃を被った。
(1)番組・放送日
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○「ニュースの森」 |
1月20日 |
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○「サンデーモーニング」 |
1月25日 |
(2)放送内容
- 事実と異なる報道
- 「容疑を認めている」と報道しているが、申立人2名は身に覚えのないことであり、犯行も認めていない。事実無根の報道である。
- 「19歳のOLに集団で乱暴したとして」と報じているが、集団で乱暴した事実はない。
- 演出と誘導による断定報道
- 「集団暴行はどのようにして行われたか」、「3階には6人部屋が3つあり、部員数人は彼女を、そのいずれかに連れ込み、そこで集団で乱暴したのです」などと断定しながら非道、悪質な事件という印象付けをしている。
III. 被申立人の答弁要旨
- 「ニュースの森」の放送について
「ニュースの森」での放送は、帝京大学ラグビー部員5名が、東京都内のカラオケ店内での集団レイプ事件の容疑者として逮捕されたという内容を第一報として報じたものである。「容疑を認めているということです」と報じたのも、警察の公式発表に基づいている。
- 「サンデーモーニング」の放送について
「サンデーモーニング」での放送は、事件現場となったカラオケ店の密室性を中心に、事件の経過を再検証したものである。報道の内容は、申立人2名にことさら言及して報じた内容ではない。
- 実名、顔写真の使用について
逮捕当日、1月20日の報道のうち、5名の実名と顔写真の両方を報じたのは、昼のニュースの1回のみで、その後顔写真は使っていない。上記「ニュースの森」では、顔写真は用いず、警察発表に基づく容疑者5名の実名を報じている。また「サンデーモーニング」では、顔写真も5名の実名も報じていない。
以上、逮捕時点における報道内容は、「容疑を認めている」ことを含めて、警察の公式発表の範囲で報道したものに止まっている。事件については示談が成立し、逮捕者が処分保留のまま釈放されているが、その際の事実も報道している。その後、逮捕者全員が起訴猶予処分となったが、当社としては、捜査当局が申立人らの主張を認めて容疑事実なしと結論づけたものではなく、示談の成立や、被害者・容疑者双方の将来を勘案するなどして、当局が判断したものと理解している。
当社は、報道機関として、常にその報道にあたり、「センセーショナリズム」を厳に戒めてきたところで、この事件に関しても、報道の公益性に鑑みて報道すべき最小限度の頻度で報じたと考えている。
顔写真の使用についても、犯罪容疑者の顔写真も一般に、事件報道の重要な要素と考える。犯罪の重大性や社会的な影響の度合などによって、その対応は異なるが、当該事件の場合は、逮捕の報道に当たって、被逮捕者の写真を放送したことは、報道機関の立場として、妥当なものだったと判断する。
- IV. 委員会の判断
- 本委員会は、申立人の申立書、被申立人の答弁書、答弁書に対する反論書、反論書に対する再答弁書を検討するとともに、被申立人から提出された当該番組の録画をすべて視聴し審理した。また、申立人と被申立人双方から意見を聴取した。(申立人は弁護士同席)
- 事実誤認について
申立人は「2人は本件レイプ容疑事件に関与していないにもかかわらず、容疑を認めているなどと断定的に報道され、名誉を著しく毀損された」と主張している。これに対してTBSは、「逮捕時点における報道内容は、警察の公式発表の範囲で報道したもので事実誤認はない」と反論している。
申立人が主張している「レイプをしていない」との点については、示談書も、申立人2名が直接姦淫行為に及んでいなかったことを認めており、また本事件に計画性があったかどうかについても疑問が残る。これらの点につき、TBSは、姦淫行為がなかったとしても事件に関与していたことは明らかである、との見解を示している。このように申立人とTBSとの主張には大きな食い違いがみられるが、本委員会には強制的調査権がないこともあって、申立人の主張する「レイプ容疑事件に関与していない」との事実関係を解明することは出来なかった。
なお、本委員会は、可能な限り事実関係を明らかにするため、本件被害者にも協力を求めたが回答を得られなかった。
本事件では、申立人2名が事件現場において被害女性に接触していること、婦女暴行容疑で逮捕されたこと、示談が成立して告訴が取り下げられ処分保留で釈放されたこと、起訴猶予処分を受けたことなどは事実として明白である。また、「容疑を認めている」との報道は、捜査当局の発表に基づいていることが認められる。
これらの事情を勘案すると、TBSが本件犯行の逮捕段階において、その容疑事実や、申立人2名が同容疑を認めたことを真実と信じたのはやむを得ず、したがって本件報道の基本的な事実関係については、事実誤認はなかったものと判断する。
- 演出と誘導、断定表現について
申立人は、TBSの報道に対して、「犯人と断定しながら報道し、非道、悪質な事件という印象付けをしている」と主張している。この中で、申立人が特に問題にしているのは、1月25日の「サンデーモーニング」であるが、この放送についてTBSは「事件現場となったカラオケ店の密室性を中心に、事件の経過を再検証したもので、報道内容は、申立人2名にことさら言及したものではない」と反論している。
確かに、当該番組の中には、カラオケボックスの見取り図を使いながら「3階にはパーティルームとは別に6人部屋が3つあります。部員数人は、彼女をそのいずれかに連れ込み、そこで集団で乱暴したのです」とのコメントなど一部に断定的な表現が見られる。また、TBSの本件報道には、一部に「帝京大ラグビー部、OLに乱暴の部員5人逮捕」など、「容疑」「疑い」を欠いたタイトルが見られるが、いずれもコメントの中で「婦女暴行の容疑で逮捕」などと補足しており、全体的にみれば犯人と断定もしていないし、きめつけてもいないことが認められる。
- 実名・顔写真について
容疑者の実名・顔写真は報道の真実性の裏付けとして、ニュースの基本要素であり、本件報道の場合も、事件の公共性、公益性からみて、実名、顔写真の使用は許されるものと判断する。
TBSの場合、顔写真の乱用について申立人からの指摘はないが、顔写真を使用したのは、1月20日の「昼ニュース」の1回だけで、その後顔写真は使っていない。また、問題とされた「サンデーモーニング」でも、実名、顔写真は報じておらず、本件報道に当たって慎重な報道姿勢がうかがえる。
- 結論と措置
本件は、大学ラグビー部員による集団レイプ容疑事件であって、社会的影響も重大であるから、その報道には公共性、公益性が認められる。
TBSの本件報道における基本的な事実関係は、警察発表に基づいたものであり、事実誤認があったとはいえない。本委員会は、TBSの報道の一部に適切でない表現があったものの、実名、顔写真の使用に配慮が見られるなど、全体的に見れば申立人の名誉を毀損するものではなく、放送倫理上も特に問題はなかったと判断する。
しかしながら、今後の事件報道に当たっては、逮捕されただけで犯人と思いがちな一般視聴者に対し、誤解や誤った印象を与えないためにも、タイトルやサブタイトル等の字幕に、出来る限り「容疑」、「疑い」といった文字を入れると同時に、番組全体を通じて、未だ容疑段階であることを明確にする姿勢が求められる。
また、一方的な報道や犯人視的な報道に陥らないためには、警察発表に依存せざるを得ない第一報段階では無理としても、事件捜査の推移に従い、事件関係者や弁護士等に可能な限りの取材を試み、その言い分を伝えるなど、事件当事者の人権に配慮しながら、犯罪事実を解明するための一層の努力を望みたい。