[STUDIEN 4] 1992年(?) 2001年改

未来器


 朽ちかけた橋げたの隙間から
 酸素ボンベを担いだ蛙達が
 奥歯に毒を忍ばせたまま這い出てきた。
 たまたま居合わせた大黒屋のおやじはつい、
 のれんごしに隠れて一部始終を見守ってしまった。
 彼らは石炭紀の文明世界から
 一部上場の哲学者として
 未来を固定剤で変質させるべくやってきた
 一種の禁治産者集団であった。
 

 彼らの中のリーダー思しき
 朱色のネクタイを頭に巻いたやつは
 胸のポケットから
 切支丹マークの入った妙薬を取り出すと、
 そのひと包みを川の中へと
 呪文とともに投げ込んだのだった。
 おやじはついつい驚いたときの癖で
 太陽を見上げたままくしゃみをしたもんだから
 サルビアの花のような火花が
 辺り一面に炸裂した。
 禁治産者的哲学者達は
 うかれトンボのように”それ”を起動したのだった。
 ”それ”は渦巻きのような叫び声とともに
 おやじを飲み込み
 骨を砕き、狂犬のように肉を切り裂いた。
 

 気がつくといつしか咆哮はやみ、
 辺りには崩れかけた橋げたも見当たらなかった。
 おやじの頭の中に、あるひとつのひらめきが一駆した。
 そうか、”それ”が起動されたのか、と。
 

 おやじはうなだれて、自分の小指を噛み切った。