[STUDIEN 10] 1992年9月21日23:32

測深儀


 君の中へ忍び込みしんぞうの襞を指先で弄ぶと
 反転の海が見えた。
 鉄骨の間に擦り込まれた君のしんぞうは
 見出されることのない今を待つ。
 

 「だから結婚式になんて出席するもんじゃないのさ」
 そう笑うかもしれない。
 でも彼らのうんざりとした顔も見たくないし、
 それなりに祝福する心積もりだってあった。
 でもそれが踏み分けることのできない、
 アクセルとブレーキだとは知らなかった。
 

 「もう勤めて4年になります」
 その言葉は君という船の中で揺れている。
 懸賞の応募用に買ったハガキみたいに
 落ち着きのない空白。
 身体中の皮膚を引き剥がしたいほどの
 申し分のない光景。
 アイスコーヒーとビールにたわんだテーブル。
 水槽に寝そべっている魚たちが
 時々音を立てずに沈黙を作ったりする。
 でも誰かが口を開くまでもなく
 次の話題があらかじめ用意されている具合だ。
 


 「まるで学生さんみたいですね」
 世の中に転がっている尺度といえば
 髪の長さと言葉尻の品格ぐらい。
 君はいくつかに色分けされている格子縞にはめ込まれて
 窮屈な思いをする。
 バトンを渡すまで走ることもできなければ、
 隣のトラックに逃げ込むこともできないでいる君。
 誰も終了の花火を打ち上げてはくれない。
 

 君の両親の気まぐれが
 いつまでたっても引き上げられない測鉛のように
 胃の中で沈んでいる。
 自分でさえ気がつかなかった
 冷たい魚が泳いでいるのに。
 だれもそんなことはつゆ知らず。
 

 もう一度しんぞうの襞をなぞってみると、
 それが君への入り口だったことに始めて気がつく。
 その砂浜で人型の貝を拾いつつ
 おしゃべりの垂れ込めるソファーに身横たえる。