稽古場日記

2002年4月&5月は、おかしらが担当します。
4月28日
「スポットライト」稽古場日記スタートです。ずいぶんと長い間、トップページには「現在稽古はお休みですので・・・」と表示されておりました。「まだ稽古してねえのかよ」と心の中で突っ込みを入れてくださっていた方も居らっしゃる事でしょう。

してねえ訳がねえ。

ちょうど一週間前の21日からベタ稽古に入ってます。
もちろん、稽古自体は2ヶ月前くらいから始まってます。
それなのに何故、この日誌はスタートしなかったのか。
それは、ひとえに主宰さとうが台本を書き進むペースが(以下自主規制)。

相変わらず崖ップチ演劇人生です。ボクたちったら。

今日の担当は、崖ップチなのは演劇だけじゃない男、おかしらでした。

4月29日
今回の台本「スポットライト」は、ほぼ全編通して9人が出ずっぱりです。まあ、これだけ人が出ていると大概暑い芝居になりがちな訳ですが、そこはトリケラ。普通の劇団とは訳が違う。サービス精神が旺盛なのです。
暑さついでに苦しさも付けときます。

二つあわせて暑苦しい。

5月、肌寒い夜。
ひとりかもねむ夜が寂かったら、「スポットライト」へ。
今回、トリケラの舞台に初めて立つ男、遠藤ゆーじが、あなたの体感温度を5度くらい上げてくれること請け合いです。

今日の稽古でも彼はスパーク。
誰も止めることが出来ませんでした。
つーか、自分で自分の台詞にエコーかけるの止そうよ。
今日の担当は、あなたの体感温度を3度くらい上げちゃう役者、おかしらでした。

4月30日
今日こそ高らかに宣言します。
「スポットライト」公演決定です。
とりあえず、自分たちで自分たちを祝福しましょう。


おめでとう、ボクたち。
ありがとう、ボクたち。


・・・え?
今ごろ何を言ってるんだって?
まあ、良いじゃないですか。
世の中には、色々と触れてはいけない事があるのです。


公演まであと2週間の時点で、
ようやく台本が完成しただなんて、
口が裂けても言える訳無いじゃないですか。
あんまりいぢめて、主宰さとうが引きこもっちゃったらどうするんです。
ほんとにもお。

今日の担当は、表がMで裏がS、おかしらでした。

5月1日
 稽古後、今回の衣装を決めるために、新宿ドンキホーテに行きました。色々と悩みどころではあるのです。牛にするか、狸にするか、鶏にするか、象にするか。とりあえず、今日は鶏にしてみました。たぶん、5回公演分そろえなくてはならないので、象も牛も必要になるんですけどね。
ただ、それだけだとちょっと単調でつまらないので、誠とか愛とかも良いなあって思ってはいます。あと、ピカチュウも欲しいんだけど、見つかりませんでした。

訳がわかんないって?
まあまあ。
世の中には不思議が多いから面白いんですよ。
そして、その不思議を解明すべく探求する。
人間はそうやって進歩してきたのです。

でも、この不思議を解明すべく「スポットライト」を観ると、ちょっと目の毒かも。


今日の担当は、私的には気の毒でしょうがない、おかしらでした。

5月2日
「落ちる」という言葉があります。
舞台上で、共演者の動作に思わず笑っちゃう事です。
で、私は落ちやすいんですね。
今日も、トリケラのトップ男優、
中野氏(女性)の演技を見ながら何度か落ちました。
中野氏は、役柄のシチュエーションに合わせて顔を自由自在に崩してきます。
これはもう天性のものとしか言い様がありません。
解りやすく説明すると、卑怯なんです。顔が。

今回も中野氏は凄いです。
この稽古日記を読んでいる方にお勧めしときます。
是非、かぶりつきで観劇してください。
中野氏の顔をより楽しめること請け合いです。

断っときますけど誉めてるんですよ。いや、真面目に。
中野氏の顔の造作が整っているからこそ、崩すと落差で笑える訳で。
例えてみるなら、B級ホラー映画と同じです。
平穏無事な日常生活を描いた後だからこそ、モンスターが出ると笑える訳で。


・・・あまり良くない例えでしたね。

今日の担当は、公演後に東京湾でコンクリ詰めになってる確率96%、おかしらでした。

5月3日
4月29日の稽古場日記にも書いたように、「スポットライト」は、ほぼ全編通して9人出ずっぱりです。
にもかかわらず、私は着替えます。
しかも、2回も3回も。
しかも、早替え。その間、10秒、15秒といった感じ。

すごーい。
なんかタカラジェンヌみたい。


しかし、ここで問題が1つ。
芝居をやっている人にはお解りだと思いますが、
舞台袖での着替えというのは意外に時間がかかります。
暗い上に静かにやらなくてはならない。

なので、着替えの稽古は欠かせません。
着替えをもたついてしまうと、舞台上にいる役者がなんとか間を持たせなくては成らなくなります。
大抵は会話をしてつなぐわけですが、その会話はもちろん台本の中にはありません。しどろもどろの応答に成って、お客さんの失笑を買ったりするのが関の山です。


私はそれを知りつつ、着替えなど無い振りをしながら、ここまで稽古を進めてきました。
だって、トリケラは稽古場ジプシーです。
一通り大量の衣装を持って行ったら、一通り大量の衣装を持って帰らねば成りません。しかも毎日。考えるだに面倒じゃないですか。

そんな訳で、着替え稽古を先延ばししてきたのですが、本日、ついに主宰さとうから命が下りました。
「着替え稽古してね(はあと)」
破顔一笑で命令です。でも目は笑ってません。

その笑顔に、何故か、とある夜系の店で財布を忘れたことに気付いた時、不自然なほどに顔と身体がいかつい店員さんの浮かべた笑顔が重なるのでした。

今日の担当は、普段はそんな店には行かない健全な人、おかしらでした。

5月4日
ついに公演まで2週間を切ってしまいました。
色々なことが洒落にならなくなってきて、結構トリケラ内部は一杯一杯です。
誰がいちばん一杯一杯かって、そりゃ私なんですけどね。
今まで小細工の部分に熱中してたら、演技の事すっかり忘れてて。はっはっは。

というかですね。
私には、演技以前の問題があるんです。
何かというと、それは発声。

私は愛知県三河地方という中途半端な田舎の出身です。
言葉遣いはそんなに標準と変わらないんですけど、イントネーションの細かい部分が微妙に違う。だからこそ、逆に直しにくかったりするのです。

例えば、

「いる」

という言葉があります。

「居る」
「要る」
「◎◎している」
色々と使いますよね。
これって、三河地方だと、それぞれイントネーションが違うんです。
でも標準語だとみんな同じ・・・なんだと思う。
いや、全然使い分けられないので、全然解らないのですが。

ということで、今日は私のイントネーション大矯正大会となったのです。

結論。

「三つ子の魂百まで」

みんな、おくに言葉を大切にしようね。


今日の担当は、観た人に「素で演ってない?」と言われるのが今回の目標、おかしらでした。

5月5日
子供の日ですし、子供にちなんだ話でも。
「スポットライト」には「1000年に一度の伝説の子供」という役柄があります。
この役柄を演じるのが、トリケラ(唯一の既婚者にして、)見た目が1番おこちゃまの山路京。本日は「1000年に一度の伝説の子供」が、伝説の星のもとに生まれた宿命と苦悩の半生とを語るシーンを稽古してみました。
山路は伝説の人物の苦悩を表現するべく頑張ります。しかし、そこに主宰さとうのダメが入るのでした。
「山路。 それではダメ!! あなたは自分が正しいと思ってるのよ!!! だから、現実に触れたときのショックとはそんなレベルじゃないはずでしょう。もっと強く驚きを表現なさい!!!」

ガラスの仮面の月影先生状態。そこにすかさず、トップ男優中野氏(女性)の追い討ちが。
「山路、御覧なさい。苦悩というのはね、このように表すのよ!!!」
すかさず台詞とポージング。見事です。完璧な苦悩がそこにありました。中野氏は、その天賦の才能、必殺顔崩しを余すことなく使ってダイナミックに苦悩を表現してみせたのです。
メンバーからの有言・無言の応援。それに応えるべく、山路も頑張ります。本番までには中野氏のダイナミックさとは違う種類の、彼女の繊細さを生かした「1000年の苦悩」を表現してくれることでしょう。

しかし「1000年に一度の伝説の子供」。
なんだかゲームの登場人物みたいですね。トリケラ芝居に伝説の子供。
いったいどんな内容の芝居なのか不思議に思う人もいるでしょうが、そんなの決まってるじゃないですか。

バカ芝居です。


今日の担当は、苦悩とは1番縁遠い役柄、おかしらでした。

5月6日
今日はツッコミの稽古です。

私の役は、どちらかというとボケでもツッコミでもない、微妙な位置付けにある役柄です。チクリ役とでも言ったらいいでしょうかね。しかし、そんなキャラでも、お約束としてツッコミをするシチュエーションは出てきます。例えば「大ボケに全員で総ツッコミ」みたいな場合ですね。

笑いを起こすためにはツッコミが大事。みなでタイミングを練習します。
ふと気付くと、主宰さとうが笑いを堪えているではありませんか。
「ああ、ボクらのツッコミのレベルもそこまで上がったのであるなあ」
と感動していると、笑いのおさまった主宰さとうの一言。
「五十嵐、あんたの顔面白すぎ」
どうやら突っ込み陣のうちの一人、五十嵐の顔に笑っていたらしいです。

五十嵐丈明は典型的なツッコミ役です。しかし、彼はツッコミをしながらボケをするという実に特異な技を持っています。これは言葉では表現しにくい技なのですが・・・そうですね。トップ男優中野氏(女性)を「顔俳優」とするなら、五十嵐の場合は「体俳優」とでも言えるでしょう。ツッコミをしながら、重度の酩酊状態にある人間が無理やりラジオ体操してるみたいな、そんな動きを無意識のうちにするのです。まあ、さほど大きな動きというわけではありませんから、言ってみれば「なくて七癖」の類のささやかな動き。後ろで彼の動きを見ながら「今日も世間は平和なことよ」と何度思ったことか。

しかし、今、風雲が急を告げています。主宰さとうが「面白い」というお墨付きを五十嵐の顔に出したのです。これは、顔力でトップに上り詰めた中野氏の立場も危うい。なにせ、五十嵐は言葉でツッコミながら、顔と身体でボケるという荒業を身につけてしまったわけですから。複合技は得点が高い。これは、体操競技やシンクロナイズドスイミングの例を引くまでもなく、明らかであると言えるでしょう。

ところで、それほどまでの顔を目の前にしながら、落ちやすい(5月2日の日記参照)私がどうして笑ってしまわなかったのか。この理由は簡単で、五十嵐は私に背中を向けているからです。
主宰さとうにそこまで言わしめるほどの顔。どうしても見たいじゃないですか。しかし、五十嵐は紫煙を燻らせながら言うのです。

「俺はお客さんのために芝居をしている。この顔は、お客さんのためだけのお楽しみなのさ」

くそお。言うじゃないですか。そして、突っ込みの稽古は続きましたが、彼はこれ以降本気で顔を作ることはありませんでした。

「俺のデリケートな顔は、それほど何度も崩せるものではないんでね」
仕方がありません。こうなったら、本番中に顔を盗み見るしかないようです。本番のさなか、私が意味も無く五十嵐の前に回りこんで、お客さんにお尻を向けたら、五十嵐の「突っ込みながら、顔でボケ」の直前です。みんなで五十嵐に注目してやりましょう。


今日の担当は、こんなんだからチクリ役になるのねと日記を書きながら納得しちゃった、おかしらでした。

5月11日
日記更新をしばらくサボっている間に、何時の間にかプレ公演の日となってしまいました。照明さんや音響さん、出演者の近々の人々に集まっていただき、通し稽古をやってみるのです。
そこで見えてきた作りの粗い部分を公演までの残りの日にちで何とか直そうと。そういった按配ですね。

10日で作って、5日で修正。
なんとなく泣けてくる日程ですが、これはこれ、それはそれ。
人様に見せる以上、恥ずかしいものをお見せするわけには行きません。
今日は朝の8時30分から稽古を頑張ってみたわけですよ。


プレ公演結果。
群集で何かをやる部分が下手だということが判明。
何故だろうと考えてみたら、あっという間に結論にたどり着きました。
出演者がいつでもどこでも1番目立ちたい人ばっかだから。
隙あらば、誰もが舞台の前方に出てきちゃって、全員舞台面に横一列。
学芸会じゃないんだから、もっと話の流れを考えようよ、ボクたち。

しかし、それも次のエピソードを考えれば、むべなるかなという感じもするのです。

プレ公演終了後、主宰さとうと照明さんと私とで打ち合わせをしました。
照明さんと私とが業界用語を使って話を進めていると、主宰さとうが絶妙なタイミングで合いの手を入れてくるのです。

「ここはパッパーでどうかな?」「パッパァー」
「ヨンゴーで地明かり作ろうかと・・・」「ヨンゴゥー」

話が解らないからって、無理やり自己主張しなくていいから。

今日の担当は、照明屋としての方がずっと有能な、おかしらでした。

5月12日
昨日のプレ公演で判った弱点を直す稽古を行いました。

そして驚愕の事実発覚。
トリケラ名物、公演前の舞台裏ジェットコースター状態に突入です。

訳が解らないって? まあまあ。
ちょっと恥ずかしい話なので、詳しく書くのは控えさせて下さい。
でも、あまりにもインパクトの強い出来事だったので、今日はこれ以外のことを書く気にならないのです。

・・・それでも、もうちょっと書いておきましょうか。
このままだと、本当に謎な文章だし。

えーっとですね。
トリケラは、ギャグ芝居をおこなう団体なだけあって、舞台上に負けず劣らず舞台裏でも落ちを付けまくっているのです。

この両者の違いは何か。

舞台上の落ちは、お客様に笑っていただける状態になるのですが、
舞台裏の落ちは、私たちが笑うしかない状態になる。

こんな所でしょうか。

今日の担当は、「仕方ないよね。トリケラって人生に落ちつけてる人ばっかだし」と妙に達観してしまった、おかしらでした。