拓海はこずえが手の届く距離に現れたことで、明らかに動揺している自分に驚きを感じていた。女なんて、結局みんな同じだと思っていた。だからこそ、毎日とっかえひっかえ女の家を渡り歩いていた。でも、心のどこかでこずえの代わりを探している自分にも気づき始めていた。

(友人1)「おい、どうした?ボーっとして。」

友人の言葉で、拓海はわれに返った。

(拓海)「え?あぁ、いや・・・・」

(友人2)「まさかと思うが、船酔いか?」

(拓海)「揺れなんて、ほとんど感じないじゃないか。」

ここは豪華客船のパーティールーム。拓海は友人二人に誘われて、船上パーティに参加していた。男だけなんてつまらなそうに見えるが・・・・

(友人1)「拓海、あの子達こっちを見ているぞ。」

拓海が見ると、こちらと同じく三人組のグループがこちらを見て微笑んでいる。

(友人2)「何があったか知らないけど、とりあえず今はこっちのほうが優先事項だろ。」

つまり、遊び相手の女の子は船の中で見つければいい、という考えで来たのだ。

(友人2)「おい、どうした?」

「あれ以来、彼女のことを考えている時間が前より多くなったのに、誘われればこんなとこに来る俺も俺だよな・・・・」そう思いながら自嘲気味に笑っている拓海に、友人二人は訝しげな顔をしている。

(拓海)「悪い。そうだな・・・じゃ、行くか。」

拓海は三人組に近づき、得意の笑顔を浮かべた。

(拓海)「こんばんは、お話しよっか。」

そして二時間後、拓海達はそれぞれペアになって、パーティールームを後にした。男に振られた母親と乗船していたこずえが、一部始終を目撃していたことも知らずに・・・・。

(貴子)「どうしたの、こずえ?そんなに見つめて、素敵な人でもいたの??」

(こずえ)「なんでもないわ。」

 

 

(女性1)「あ、おはよう。」

(拓海)「ヨウ」

明朝、船上パーティで知り合いそのまま一夜を共にした女の子と腕を組んでレストランに来ると、他の二組も既に来ていた。

(友人2)「おっせーぞ。甲板で席取っておくから、さっさと来いよ。」

拓海は頷き、女の子と一緒にバイキング方式になっている朝食を選び出した。

(女性2)「ねぇ、生ハムいる?」

(拓海)「サンキュ。」

適当にメニューを取り、甘ったるい雰囲気そのままに甲板に出てくると、突然怒声が響き渡った。

(男)「雨宮貴子、死ねぇ!」

驚いて拓海が声がしたほうを見ると、男があるテーブルに向かって走っている。手には、包丁が光っている。

(貴子)「ほえぇ??」

ガツン、バシャ!

(男)「うぎゃぁ!」

貴子は危うく包丁を避け、こずえがとっさに自分の目の前にあったコーヒーカップを投げつけた。コーヒーカップは見事男の顔面に命中し、中に入っていた熱いコーヒーがかかった男は倒れて悶絶している。

そこにこずえ達のガードの為にいたらしい男達が駆け寄り、すぐに取り押さえている。

(リーダー)「社長、お嬢様、申し訳ありません。おい、連れて行け!!」

男が連れて行かれ、こずえは周りの視線に気づき貴子を促すと、朝食を自室に運ぶよう指示を与えて、足早に去ってしまった。

 

(拓海)「俺のこと、気づいていたかな?いや、まさか気づいているはずが・・・・でも、もし気づいていたら・・・俺から弁解しに行くわけにもいかないし・・・」

拓海はこずえが同じ船に乗っていたことに衝撃を受け、悩んでいた。

(拓海)「はぁ・・・・」

(男1)「うるさいぞ、静かにしねぇか!!」

いきなり怒鳴られて、拓海は驚いた。慌てて周りを見渡すが、誰の姿も見えない。どうやら、さっきのは自分に向けられた言葉ではないらしいと悟って耳を澄ますと、ハイヒールの音と今考えていた相手の声が聞こえた。

(こずえ)「どう、しゃべった?」

拓海が声がしたほうに近づき覗くと、先ほど暴れた男が部屋に閉じ込められており、見張りの男達がいる。そして、こずえが報告を聞いていた。

(リーダー)「それが、肝心なことはしゃべらないんですよ。こいつ自体は社長に恨みがあったわけじゃなく、誰かに頼まれたらしいってわかっているんですが・・・」

(男)「へっ、俺は暴力には屈しないからな。お前らに何をされようが、何もしゃべるつもりはないね。」

(男2)「このやろう、このまま海に沈めるぞ。」

(こずえ)「それはまずいわ、こいつがオフクロ様に襲いかかったのは衆人環視の中。こいつが下船しなかったりしたら、真っ先に疑われる。とりあえず、船長達クルーと一緒にこいつには下船してもらうわ。ところで、こいつに前科はあるの?」

(リーダー)「傷害事件で前がついています。ケチな喧嘩らしいんですが、相手に全治三週間の怪我を負わせて、半年入ってました。出所したのは、三ヶ月前です。」

(こずえ)「ふぅん、ってことは・・・・殺人未遂になるかどうかは弁護士の腕次第ってとこね。「死ね」って叫んで包丁持っていたけど、とりあえずこっちから警察に穏便に済ませるよう要望書を出しておけばいいか。」

(男)「は・・・・?」

こずえの意外な言葉に、男は訳がわからないという顔をしている。

(こずえ)「いくら衆人環視の中での事件とはいえ、被害届を出さないで事を荒立てたくないと言えば、おそらくただの銃刀法違反になる。誰も怪我してないしね。あんたは、警察で説教されて、書類送検になって終りってわけ。それがどういうことか、わかる?」

(男)「なんだってんだよ・・・?」

(こずえ)「あんたに依頼した奴は、あんたと接触すると私達にバレルから、接触してこない。それどころか、あんたの口をふさごうとするでしょうね。私達が何もしなくても、この業界は狭いからね。あんたのしたことはすぐに、広まるわ。私達に取り入ろうって人間が、手柄欲しさにあんたを狙う事だってありえる。つまり、あんたはいつ、どこで、誰に狙われるかわからないってこと。」

こずえの言葉に、男は顔が青くなってきている。

(こずえ)「警察ってところは、事件が起きなきゃ動かない。あんたがどんなに訴えても、あんたをいつまでも保護していることも、護衛をつける事だってできない。誰も、あんたを助けてはくれない。巻き込まれるのが怖いから。」

こずえの言葉に、男は騒ぎ出した。

(男)「ちょっと待ってくれよ、頼む。助けてくれ。俺は、まだ死にたくない。故郷には、親もまだいるんだ。あのババア、いえご婦人をやったら、金をもらえるって言われたんだ。親孝行したかったんだ。」

(こずえ)「誰に頼まれたか、洗いざらいしゃべったら、考えてやるわ。後頼んだわよ。」

悪の女王の貫禄たっぷりに男を説得(?)して、しゃべらせることに成功したこずえは、部下達が頭を下げる中をハイヒールの音も高らかに去っていった。

 

船での出来事から数日後、拓海は父親である院長に突然呼ばれた。患者の男の子と遊んでいた拓海は後にして欲しいと言ったが、『院長の機嫌が悪いから、とにかく早く行ったほうがいい』という婦長の言葉で、仕方なく院長室に向かった。院長室のドアを開けた拓海の目に入ったのは、ソファーに座ったこずえだった。

(院長)「お前に、レイプされたという娘とその親が、家に来たそうだ。」

父親の言葉に、拓海は一瞬何を言われているのか理解できなかった。

(拓海)「は?何言ってんだよ、俺は嫌がる女を無理やり抱く趣味は無い!」

(院長)「私だって、お前がそこまで落ちたとは思っていない。だが、相手はそう主張して家に来たと言うんだ。お母さんが応対して、さっき私に電話をよこした。」

(隆一)「雨宮先生、一体どういうことだと思いますか?」

落ち着いた様子でコーヒーを飲んでいたこずえは、カップをソーサーに戻し話しを始めた。ちなみに、江木は別のクライアント先で外せない用事があるので、こずえ一人で来たということだ。

(こずえ)「相手の女性はおそらく拓海先生となんらかの関係があると思いますわよ。全く何も関係ない人間が、突然そんなことを言ってくるとは思えませんもの。」

(拓海)「俺が、そんな卑怯なことをする人間だと思っているのか?」

こずえが信じてくれないのかと、拓海は多少いらだった気持でこずえを睨みつけた。しかし、こずえは落ち着き払っている。

(こずえ)「勘違いしないでくださいますか。私は、『なんらかの関係がある』と言っただけで、拓海先生がレイプしたとは言っていません。」

(隆一)「落ち着けよ、拓海。先生は、お前を信じているんだから。」

(こずえ)「別に、信じているわけじゃありませんわ。拓海先生は女性に不自由してないみたいですし、第一そんな犯罪行為を出来る様な度胸もない、と判断したまでです。甘やかされて育ったお坊ちゃんが、ゲーム感覚で女性を襲うこともありますが、そこまで人間が腐っているわけじゃないみたいですし。」

こずえの拓海を擁護しているのか、けなしているのかわからない言葉に隆一はなんと返したらいいかわからず、拓海は明らかにふてくされており、院長は頷いている。

(こずえ)「とりあえず、私はこの相手のことを調べてみます。その間、連絡があっても勝手にお金を払ったり、交渉しようとしたりは絶対にしないでください。特に、お金を渡したりしたら相手を付け上がらせますし事件を認めたことになって、後々面倒なことになります。もし万が一病院に現れて騒ぐようでしたら、私を呼んでください。」

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