ある日、拓海とたまきが一緒に歩いていると院長達幹部と江木、こずえご一行にばったり会った。

(こずえ)「たまき!」

(たまき)「こずえ!」

(院長)「うん?君は・・・・・」

(拓海)「港北医大から,研修に来ている香坂たまき先生だよ。雨宮先生と、従姉妹同士だそうだ。」

たまきはもちろん最初の日に院長とは対面しているが、そんなことを説明したりはしないのであまり覚えていなかったらしい。

(院長)「そうだったのか、それは失礼しましたね。そうだ、今日は宿直か何かの予定かね?」

たまきは突然の院長の言葉に驚きながらも首を振った。

(院長)「だったら、一緒に行きませんか?今日はこれから会食の予定なんですが、雨宮先生も男性の中に女性一人では居心地が悪いでしょう。従姉妹のあなたなら、気を使わなくて済むでしょうし。」

(たまき)「え、でも・・・・」

(拓海)「何か予定があるなら、遠慮なく言えよ。」

(たまき)「いえ、なにもありませんが・・・・」

こうして、たまきは院長達に連れられて会食に行くことになってしまった。

 

(拓海)「なんで俺だけ駄目なんだよ・・・・・」

自宅の自室で、拓海は一人ふくれていた。拓海は当然自分も連れて行ってもらえると思っていたのだが、院長はこの間の罰だと言って連れて行ってくれなかったのだ。うとうとしていると、車が停まった音が聞こえた。どうやら、帰ってきたらしい。

(富士子)「拓海ぼっちゃまぁ!手伝ってくださいませんかー?だんな様がずいぶんお飲みになられていて」

富士子の声が聞こえたが、ふてくされている拓海は無視することに決めた。

(隆一)「すみません、雨宮先生。手伝っていただいて。」

(こずえ)「いいえ、大丈夫ですか?院長。」

ガバッ

ダダダダダ・・・・・・

こずえがいるらしいと悟った途端、拓海は部屋を飛び出し玄関に向かった。玄関では、隆一が父親に肩を貸して運ぼうとしているが、院長はこの年代にしては大柄。かなり大変そうなので、こずえも肩を貸そうとしていた。

(拓海)「俺がやるよ。」

すぐにこずえに替わって、拓海が肩を貸すと、とりあえずリビングのソファーに院長を座らせた。

(拓海)「親父、ずいぶん飲んだんだな。」

(隆一)「あぁ。ご機嫌でな、僕は車を運転するから飲まなかったんだけど・・・・」

(院長)「雨宮先生!」

(こずえ)「はい、なんでしょうか?」

呼ばれたこずえは、慌てて院長の元に行った。

(院長)「先生、これからもどうぞよろしくお願いします。江木先生と、雨宮先生がついていてくださればうちの病院は安泰です!!」

(こずえ)「はい、どうぞお任せください。私も江木も、精一杯努めさせていただきます。」

院長に握り締められている右手に左手を添えて、こずえはなだめすかすように言っている。

(拓海)「江木先生と香坂先生は?」

(隆一)「江木先生は急用で帰られて、香坂先生はかなり酔っていたから雨宮先生がタクシーに乗せて帰したよ。」

(拓海)「雨宮先生は、あまり飲んでいなかったのか?」

(隆一)「いや。途中からは、香坂先生が勧められた分も代わりに飲んであげていたから、相当飲んでいるはずだ。」

しかし、見る限りこずえは足取りも話の内容もしっかりしている。

(巴)「あなた、それぐらいにしてもう休んだらいかがですか。さ、行きましょう。」

(こずえ)「じゃあ、私も帰りますので。」

(隆一)「待ってください、今タクシー呼びます。」

(こずえ)「平気ですので、どうぞ気にしないでください。大通りまで出れば、まだ流しのタクシーが捕まる時間ですので。」

巴と富士子は、千鳥足の院長をなんとか部屋に連れて行こうとしているが、苦戦している。隆一は、そちらを手伝いに行きながら拓海に声をかけた。

(隆一)「拓海、先生を大通りまで送ってタクシーに乗せて差し上げてくれ。」

(こずえ)「平気ですから、本当に気にしないでください。」

頭を下げると、こずえはすぐに玄関に向かい、拓海もすぐに後に続いた。

 

(こずえ)「私、本当に平気です。スタンガンだって持っていますから、変な奴に襲われても心配要りません。」

大通りに面した歩道から、タクシーを止めようとしている拓海に、こずえは何度目かの断りの言葉を口にした。だが、拓海も子供の使いではないのだから「はい、そうですか」というわけにはいかない。

(拓海)「そうはいかないよ。親父見ただろ?君を一人でおいていったなんて知られたら、後で怒鳴られるよ。」

(こずえ)「・・・・」

(拓海)「それに・・・俺も君と話がしたかったし。仕事抜きで。」

(こずえ)「前にも言いましたが、あなたは私にとって」

(拓海)「クライアント側の人間。でも、俺は君が好きなんだ。」

(こずえ)「気の迷いですよ。あの時、私が振ったような形になったから。だから、今まで振られた経験の無いあなたは、意地になっているだけです。」

(拓海)「君をからかっているわけじゃない、俺は本気なんだ。信じてくれないか。」

こずえは拓海の目を強さを感じさせる目で見つめながら話し出した。

(こずえ)「あなたの、何を信じろって言うんですか?」

(拓海)「え・・・・」

(こずえ)「私が、何も知らないと思っているんですか?私は、クライアントからの情報だけを信じるわけじゃありません。病院を守るためにはどういったことが必要か、病院のウィークポイントはどこか、病院の評判を落とすような行動を取る可能性があるのは誰か・・・すべて調べてあります。医者としての腕は確かに信用できるようですが、あなたは信頼できる男とは言いがたいと思います。」

(拓海)「・・・・・・」

(こずえ)「私は、他の女に相手にされないような男は嫌ですが、一緒にいないときあれこれ心配しないといけないような男性も、嫌なんです。そんなの、もうたくさん。」

(拓海)「え・・・?」

こずえは慌てたように目をそらし、ちょうど停まったタクシーに乗り込むと去ってしまった。

 

(たまき)「頭痛い・・・・」

翌朝、たまきは二日酔いで苦しんでいた。頭はガンガンするし、気持ち悪いので本当は家で寝ていたいところだが、研修に来ている身でそんなマネはできない。

何度目かわからないうめき声を上げて苦しんでいると、人の気配がして顔を上げた。

(拓海)「ホラ。」

見ると、拓海は二日酔いの薬と水を持っている。

(たまき)「あ、ありがとうございます・・・・・。」

たまきが薬を飲んでいると、拓海が何か聞きたそうな顔をしている。

(たまき)「なにか・・・?」

(拓海)「雨宮さんってさ、付き合っている人とかいるの?もしかして、江木さんと付き合っているのかな。」

こずえの名前が出た途端、たまきがキッとした顔で拓海を見た。

(たまき)「そんなこときいて、どうするつもりなんですか?」

(拓海)「別にどうするつもりも・・・」

(たまき)「こずえのこと、またからかうつもりですか?いい加減にしてください。」

(拓海)「そんなつもり無いよ、俺はただ」

(たまき)「あんまりひどいようなら、院長に言います。院長、こずえのことすごい気に入っているみたいですし、ただじゃすみませんよ。」

たまきが多少ふらつきながら医局を出て行くと、拓海は深いため息をついた。

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