「元○○」という肩書きはそのアーティストにとって利用価値のあるものであったり、時には逆に忘れたい過去であったり、なかなか越えられない壁にもなったりもする。今回のライブは2003年の10月いっぱいで(密かに)大勢の人に惜しまれつつ、その長いバンド人生に終止符を打った「たま」の元ベーシスト、滝本晃司さん(以下滝本さん)の解散後初のソロライブ旅。「たま」時代に結局ライブを見れなかった俺なので、もちろん滝本さんを生で見るのは初めてだ。様々な要素が重なって、どこかワクワクしたり、ちょっと不安になったり。そんな中、刻々とライブ開演時間は近づいてくる。会場は「わからん屋」という、名前はちょっぴり怪しげだが、中は落ち着いたジャズ・バーのよう。お客さんは40人ほどでいっぱいになるぐらいの温かみのあるこじんまりとした会場。元彼女(その時付き合っていた)とゆっくりお喋りしたり、アンケートを記入したりして待っていて、「あ〜、まだかなぁ」と思ってふと後ろのバー・カウンターに目をやると、「あ、あれ??もしかして滝本さんじゃ?!」・・・本人であった。マスターらしき人と談笑し、煙草の煙をくねらせてのんびりしていた。第一印象は・・・インパクトなさすぎ!(笑)ていうか客?!(笑)みたいな平民オーラを漂わせていた。そして開演時間も迫ったころ、飲み物と緊張でトイレに行きたくなった俺が店内の女性用のトイレを使おうとしたら、「外のトイレでお願いします!」と一言。なんでそこまで気を使うのだろうな〜と思ってたら、滝本さんが先客として入ってたらしい(笑)タマっていたのか滝本さん(笑)そして19時50分頃、よっこらせとカウンターから腰をあげ、ひょうひょうと観客の間を拍手を受けながらステージにあがる。カポタスト(ギターの音階を変える道具。以下カポ)を3フレットに取り付け、調弦。そしてMC「こんばんわ。今日はよくぞ、この分かりにくい場所に辿り着いてくれました。ありがとう。京都は・・・寒いですね。」1曲目は「むし」。チューニングを原曲より下げて歌っていたので、イントロ部分では何の曲だか分からなかったが、まさかいきなり「たま」時代の代表曲から来るとは!(驚)どこか陰があって、儚い滝本さんのゆるゆるとした流線型の声が会場にじわじわと広がっていく。あっという間に場が滝本ワールドへ。キーボードの島田さんはピアニカでいい味を出していた。あと、原曲のせみ笛の音はサンプラーでカバーしていた。さりげない滝本さんの口笛もよい。2曲目は「温度計」。きれいなメロディラインで、サンプリングの洪水が歌と絡み合い、独自の世界に引き込まれる。3曲目は「さよならお日様」。ここから滝本さんはグランドピアノを前に腰を下ろす。たま後期の名盤「東京フルーツ」の中で、もっとも救いようのない歌。だってさよならお日様って・・・ねぇ(涙)でもこの曲の持つあまりに儚く、美しいメロディが大好きで、滝本さんのピアノと島田さんのピアニカの切ない音色が胸を打つ。4曲目は「ねむると消えると溶けると」。力強い声と演奏。それでいて間奏部分はすごく繊細。空中にフラフラと当てもなく漂うどこか不安定で不可思議なメロディラインが印象的だった。その後、MC「じゃあ、これ(ビニールチューブのようなもの)を回したいと思います(照笑)。」と言い、それを回す。すると不思議な音がびよ〜んびよ〜んと鳴り始める。そこにサンプラーのごぉごぉという音と口琴が加わって。そこから最新ソロアルバムの「カタチ」収録のインスト曲である5曲目「Rice Field」へとつながる。超宇宙的で幻想的な風景がだんだんと空間を支配していく。その後音を途切らすことなく6曲目「ふくろう」へ。サンプラーとピアノの繊細な調べが生み出す儚いインスト。さらにたたみかけるかの如くそのまま7曲目「水槽の中の魚」へと移行する。ゆっくりと、しかし力強いピアノと水が「ちゃぷちゃぷ」と打ち寄せる音にピアニカ、子供が溺れて助けを求めるかのようなサンプラーの音の重なり具合が衝撃的だった。ここで一段落のMC「え〜、久しぶりに来てるんで何か話したいんですけど、話すこともないんで、たんたんと。気になさらないでください(笑)。」そして8曲目は「箱の中の人」。ライブで聴くと、何だかすごく繊細で、胸をぎゅっと締めつけられた。間奏部分をサンプラー音が飲み込んでいく。効果音の大洪水。MC「去年の暮れ、カタチを出したんですけど・・・あれ?一昨年か(笑)1年ってあっという間に過ぎますね。このアルバムは今日競演している島田さんと一緒に作ったんですけど、じゃあ次の曲です。」9曲目は「カタチ」。文句なしの名曲。そして大曲である。サビの部分ではあまりの歌詞の狂おしさとメロディの美しさに涙がこぼれそうになった。このメロディは壊れるよ、心が。それほどまでに、痛く、切ない。そんな後にMC「譜面じゃなくて、歌詞が分からないんですよ。頭悪くって。時には歌詞見ながらも間違える(苦笑)。そんな自分が怖いですよ(笑)。」10曲目は「サーカスの日」。この曲はたまの後期のアルバム「いなくていい人」の最期を飾るジャズテイストむんむんな名曲。リズムがすごく良くて、その中に胸にぐっとくるような珠玉のメロディが散りばめられていて・・・やっぱり最高だ。改めて曲のクオリティの高さを再確認。MC「昨日名古屋でライブやったんですけど、最近暇で。。。昨年の10月「たま」というバンドが解散して、11月から暇で。散歩を2時間ぐらいするんですね。それでも退屈なもので、夕焼けの時間に行くようになりましたね。でも冬になって寒くなったので、車でスーパーの屋上に行って、そこから夕日を見るんですよ。箱根山が見えるんですよ。ところがね、監視カメラがあって、僕、平日は「ああ、またアイツかぁ。」と思われてるんじゃないかなぁ(笑)。それじゃ次の曲です。」ここで滝本さんはピアノから再びギターに持ち換えて、11曲目は「窓辺に生まれる」。この曲もゆらゆらとたゆとう儚さを湛えていて・・・好きですねぇ、この曲。ここで同時に島田さんが滝本さんが弾いていたグランドピアノに移動。ギターとピアノとの相性は抜群にいいと感じる。12曲目は「自転車にのって」。すごく繊細なピアノと滝本さん独特の優しい歌いまわしが印象的。詩の世界も独特だ。だんだんノッてきたとこでMC「京都でのソロライブはだいぶ前・・・「拾得(じっとく)」ってとこで斉藤哲也君とやったんですけど、その時のアンケートで書かれてたのが、「これほど華のない人達も珍しい・・・。」あれは忘れられないですね(苦笑)今日はどうなんでしょうかねぇ?(笑)まあ、そんなことを深く噛み締めながら、華のない僕ら、次の曲いきます(笑)。」13曲目は「トカゲ」。この曲は滝本さんの中で最もロックロックしている曲ではなかろうか。ものすごく好きだったので演ってくれて嬉しかった。ギター・カッティングが非常に歯切れよいノリノリのナンバー。思わず体を揺すってみる。曲終了後、カポを3フレットにはめる。次の曲の入りで、島田さんぼーっとする。滝本さんもつられて入りを間違える(笑)MC「もうね、春ですから・・・頭がぼうっとしてますね(苦笑)。」14曲目は「楽しい楽しい時間」。ウチの兄貴が「ビートルズの愛こそはすべてのパクリじゃん!」と言ってたが、んなこたどーでもよい、曲がよければいいのである。でもやっぱりビートルズチックで(笑)明るい。滝本さんには似合わない、珍しくポップポップした曲。跳ねるカンジで、滝本さんの体も揺れていた、密かにあれがノリノリモード?!(笑)ギターのカポを2フレットにチェンジして次の曲へ。15曲目は「オヤスミ」。これが評判の未発表曲「オヤスミ」だと知ったのはだいぶ後だったが。かなりラフ・タッチな跳ねる曲2連発。今までの演奏の中で一番ピアノもギターも、そして声も力強かった。素直にいい曲だったので、次ソロアルバム出すときには是非収録してほしい。MC「どうも、ありがとうございました。また来たいと思います。」本最後の16曲目は「ハダシの足音」。これまた大好きな名曲。力強いピアノとギター、ボーカルの中で広がりをみせる儚いワルツ調のメロディがたまらない。滝本さんも全力投球で歌っていた。彼の本気が見えた瞬間だった。一度ステージを降りる滝本さん&島田さん。鳴り止まない拍手。まだまだ聴きたい、滝本ワールドにもっと染めてくれ〜!!てなワケで滝本さん&島田さん、ちょっと嬉しそう(そして照れくさそう)に再登場。MC「ありがとうございます。明後日神戸のビッグ・アップルでサックスが加わるので、是非見に来てください。その次の日は・・・完売か。まあ、華のない者にしてはよくやったなぁと(まだ言ってる 笑)。いや、別に根に持ってるわけじゃないですよ(笑)。」そういって滝本さんは今度はピアノ前に腰掛ける。17曲目は「空の下」。これはとんでもない名曲。この曲を知らない音楽好きな人達は、結構損をしていると声を大にして言える。それだけ非の打ち所がない曲。出来たのではなく、出来てしまった名曲。優しさと力強さの絶妙なバランス。そしてとても温かくて、ちょっぴり寂しくなって・・・。後半にサンプラーで効果音が加えられ、そのまま最後の曲18曲目「タイトル不明」へ。ゆったりとしたピアノの旋律に実に様々なサウンド・コラージュが施された、正に儚さとサイケの競演インスト・ナンバー。あまりの凄まじさにどこまでも落ちてゆく様な奇妙な感覚さえ覚えた。ライブ終了後、残っていたアンケートを書き、ついでにサインしてもらう為に滝本さんのアルバム「カタチ」とたまのシングル「汽車には誰も乗っていない」を購入。カウンターで島田さんと談笑している滝本さんに先日発売されたばかりの元「たまのランニング」こと、石川浩司さんの書いた「たまという船に乗っていた」を差し出し、サインを求めると「あっ、それだけは勘弁してくれ。(うつむきがちで、またどこか寂しそうな表情で)本当に申し訳ないけど・・・。(苦笑)」と見事に断られ気まずいムードに。(何やってんだ〜、俺!!)その後、「今日はわざわざ九州から見に来たんですよ」と言ったら「わざわざ有難う。」とおっしゃってくれました。そしてサインを書いてもらっている間に「今度是非九州にも来てください!!」と懇願したところ、「じゃあ、呼んでください(苦笑)」と上手くかわされました(汗)なんかオシャレなバーとか見つけて、ホントに呼びたいなぁ(笑)今回感じたことは、恐らく滝本さんも他の元「たま」のメンバーも少なくとも「たま」というバンドがあって、そこに在籍したことを否定的に思ったり、触れられたくないとは思ってないような気がしました。これからも過去の自分を大切にしながら、ソロで頑張ってほしいものです。しかし、本当に夢と現実の中を行ったり来たりさせられるような、どこか摩訶不思議な世界へとどっぷり浸れたいいライブでした。また是非行きたいですね。


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