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love train
「涼平くん、お裾分け」 「なあに?」 「あけてびっくりたまてばこ〜」 そう笑って、慶太は紙袋をどさりと涼平の膝に置いた。予想外の重さに驚きながら開けてみると、ふわり、甘酸っぱい香気が立ち上った。袋の中には、太陽を 固めたような蜜柑がどっさりと入っていた。 「どうしたのさ、こんなに?」 「お母さんが送ってくれたんだ。一人じゃ食べきれないぐらい届いたから、涼平くん、貰ってよ。龍一くんにはさっきあげてきたんだ」 「そうなんだ。じゃあ遠慮なく。ありがとうね」 涼平は笑顔を返した。見れば慶太の足下には大きな手提げ袋があり、その中には紙袋がまだ幾つも入っている。きっとスタッフにも配るつもりなのだろう。 早速蜜柑を一つ割った涼平を見て、慶太は手提げを抱えると楽屋から出ていった。重さのせいで足取りはフラフラしていたが、とても幸せそうな後ろ姿だっ た。 一人きりの楽屋で、涼平は蜜柑を口にした。一瞬の酸味と、爽やかな甘みが身体中に広がっていく。 橘家の人々は、何かにつけいろいろなものを送ってくるようだ。それも慶太一人では食べきれない程の量を。まだ三人で住んでると思ってるみたいなんだよ ね、と慶太は笑うが、きっとそうではないだろう。遠い地で、決して一般的とは言えない生活している子どもを心配しない親などいない。 涼平は苦笑いをしながら、もう一房蜜柑を口に入れる。千葉家からは連絡といえるようなものはほとんどない。何かものを送ってくるというのも片手で収まる 回数だ。 連絡なんかしなくていい、と家族に言ったのは涼平自身。 『TVやラジオをつければ、いつでも僕が出ているようにするから。父さんも母さんも、何もしなくても僕が元気だってすぐ分かるようにするからね』 帰る場所はある。温かい家族がいる。けれどそこには帰らない。休暇の度に北海道へ戻ってはいるが、涼平は決して「ただいま」と言ったことはない。 ダンスというただ一つのもの、それで生きていくと自分に誓ったから。 強く強く決意した、のに。 涼平は、紙袋の中から蜜柑をもう一つ取り出し、皮を剥こうとしたがふと手を止めた。 「慶太!」 涼平は廊下に走り出ると、蜜柑を配り歩く呼び止めて、いきなり放り投げる。驚きながらも慶太は蜜柑をキャッチし、ぷうっと頬を膨らませた。 「ひっどいな涼平くん、せっかくお母さんが送ってくれたのに、粗末にしないでよ!」 「悪ィ慶太。でも、僕もこんなに貰っても食べきれないからさ」 そう言って涼平は二個三個と次々に蜜柑を放った。慌てる慶太を眺めながら、また少し苦笑いをした。 泣きたくなるほどの決意も、慶太や龍一の天賦の才の前では霞のようなものだ。だが、嫉妬と絶望に身悶えしながらも、その二人すら利用しようと決めたでは ないか。 家族に自分を知らせるために。 僕は元気だよ、と。 僕は元気だよ。 ケガもないし、風邪だってひいてない。 落ち込むこともあるけれど、結構楽しくやってるよ。 これで生きていく、なんて偉そうな言い方だけど、 だって好きなことだから。 ずっと好きでいたいから。 きみがよそ見をしてたって構わない。 どこを見てても、僕が自然と目に入るようにしてみせる。 だから、 安心してよそ見をしていて。 E N D
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