大人気ないと言われればそれまで。けれどどうしても慶太には我慢が利かなかった。 雑誌のインタビューを受けていた時の事である。 「慶太君は、女の子みたいに本当に可愛いですよね」 インタビュアーが何気なく発した言葉に、慶太の機嫌はみるみる悪くなった。彼を挟んで左右に座っていた涼平と龍一は、慶太の様子に肝を冷やした。曲がりなりにも慶太はプロだ、バカな真似は決してすまい。そう思いつつも、いつでもフォローできるよう、インタビュアーに笑顔を向けつつも気持ちは慶太に向いていた。 近頃の慶太は、「女の子のよう」と表されることを嫌っている。柔らかい容姿とハイトーン・ボイスを持っていても、男なんだから仕方がないといえばそうだが、それにしても今の態度はない。 内心はらはらしていた二人の予感は、やはり的中してしまった。 最近声変わりをしたようだけど、デビュー曲を歌うときは辛くないんですか、という質問に、 「じゃあ僕は女の子のような声でなければ価値がない、ということですか?」 慶太は聞き返した。声も口調も穏やかだったが、目つきがきつくなっている。涼平と龍一はさっと青ざめた。インタビュアーの顔も心なしか引きつっている。 「ば、ばーか慶太」 涼平は、わざと満面の笑顔で慶太を小突いた。 「価値なんてのはー、これから出てくるんだよ。俺たちは、これからお宝になってくんだから、ンなことは後回しで、今は出来ることを精一杯やるのが大事だろ?」 「そうだよ慶太、これからこれから!」 龍一もにこやかに笑う。微妙にずれた二人の言動の意味に気づいたのは、流石にインタビュアーが先で、引きつった頬をすぐに笑顔に変えて言った。 「済みません、デビュー曲と最近の楽曲の違いを、ヴォーカルの立場から語って貰おうと思ったんだけど、質問の仕方がよくなかったみたいですね。ごめんなさい」 慶太はぶすっとしたまま、いえ、と短く答えた。 必要な事以外答えなくなってしまった慶太の代わりに、涼平と龍一は普段の倍以上もしゃべりまくり、インタビューはひとまず終了した。 控室へ戻っても、慶太は一言もしゃべらなかった。 「慶太、そろそろ機嫌直せよ」 「そうだよ、あの人だって、悪気があって言ったんじゃないから」 龍一と涼平が、代わる代わる声をかけるのだが、慶太はむっつりと椅子に座っているだけだった。 失礼なことを言ったのは自分もだ、とよくわかっている。龍一と涼平がわざと変な方向にもっていってくれたのも、インタビュアーが慶太を立てるように質問の意図を変え、謝ったのも。 女の子みたいな、という言葉は、さらりと受け流せばいいのだ。そんなことは百も承知だったはずなのに。 「ねぇ」 なだめすかす二人に背を向けたまま、慶太は声をかけた。 「僕がもし、こういう顔とか声じゃなかったら、どうする?」 うーんと龍一は唸り始めたが、涼平はそうだね、と慶太の側に立った。 「そうだね……慶太がそんな格好でなかったら、そしてその声を持っていなかったら、きっと『w-inds.』は無かったろうね」 いつもの優しい声で、だがきっぱりと。 慶太はくっと唇を噛んだ。容姿も声も、紛れもなく自分自身だ。なのに何故こんなに悲しくて悔しいのだろう。涼平の言い種が酷いのではない。この声が無ければ、というのは事実なのだ。 ビジュアルや声への興味。それが第一歩だ。一度向けられた目をずっと虜にしていくのは、自分たちのパフォーマンスにかかっている。そしてそれは間違いじゃない。おそらくはファンの多くが、その過程を経た上で、今の「w-inds.」を支えていてくれるのだ。 それでも。 僕は、僕でしかない。 女の子のよう、天使のよう、そんな形容なしに、「僕だけ」を見て欲しいんだ。 早く、一秒でも早く。 それには何よりもまず、自己の研鑽が必要だということも、嫌と言うほど分かっている。では磨くのは何だ? 今まで磨いてきた結果が、こうじゃないのか? 「慶太が、声や容姿のことを色々言われるの、嫌がってるって知ってるよ。けどさ、僕はそれを……何て言うのかな、すごく強い……」 細かく震える慶太の肩に、気づいていないような静かな調子で、涼平は続けた。 「そう、すごく強い『運命』みたいなものだと思ってる。慶太が、今の慶太でなければ、『w-inds.』は結成されなかった。龍一が龍一でなければ、僕が僕でなければ、というのと同じようにね。僕らを作る要素の、何か一つでも違っていたら、僕らは巡り会うことはできなかったんだよ?」 涼平は、慶太の頭をぽんぽんと優しく撫でた。 「慶太が自分のエレメンツを厭わしく思うのは自由だけどね、これだけは覚えておいて。慶太が慶太だったから、今、僕らはここにいるんだ」 涙が出た。 嬉しかった。 女の子のよう、と言われるのは、やっぱりまだ嫌だけれど、誇りを持てる。三人をつなぐ大事な要素なのだと。 しかし。 「ちょ、ちょっと涼平! 何やってんだよ! あんま酷いこと言うなよ、慶太泣いちゃったじゃねーか!」 「違ッ! 何で泣くんだよぅ慶太ァ! ああ、もう、泣くなってば!」 勘違いだと告げたいが、慶太は涙が溢れて声にならない。 「じゃあ、じゃあさ、慶太こう考えれば?」 龍一はバタバタと鉛筆を取り出すと、メモ用紙に線を引き始めた。 「マイナスだと思うことはさぁ、」 描いていた線を、マイナス、というところで落とし穴のように深く曲げる。龍一は鉛筆を置くと、紙を慶太の目の前にかざした。 「こうすりゃいいじゃん」 そして紙をくるりと逆さにする。落とし穴の絵は、一瞬にして高い山の絵になった。 「マイナスはさ、くるっとするだけでプラスになるんだよ。ほら、すげーだろ!」 得意そうな龍一に、慶太の涙は呆れて止まった。が、そんなことは二人には関係ないらしい。 「おお、止まった! さすが龍ちゃん!」 「だろー?」 脳天気な二人のやりとりに、慶太は思わず噴き出した。次いでぽろぽろと涙が零れる。 「嘘ッ!?」 「だめじゃん、龍ちゃん……」 やいのやいのと口論を始めた二人の間で、慶太は久々に思い出していた。 涙は、嬉しいときや、楽しいときにも出るんだな、と。
おわり。
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2002.9.10.