show me your style 01


スタジオは冷房が効いているはずなのに、中にいる二人は汗びっしょりで踊り続けていた。腹や背中にTシャツが張り付いて動きづらい。汗を吸収・発散しやすいタイプのものを買ってきたはずなのに全然効果がなかった。
「だから。そこのところはもっと大きく回りたいんだよね。曲が盛り上がっていくとこだしさ?」
 こういう感じ、と涼平はステップを踏みながらフロアに円を描いた。が、龍一は首を横に振る。
「そんなに大回りじゃ、さっき決めたサビの振りに間に合わないよ。もっと小さく回んないと」
「でもそれじゃ格好悪いだろ? サビのとこ、ちょっと変えればいいじゃん」
「やだよ、なんでこっちを変えるんだよ。三人でびしっと揃えて決めようって言ったじゃん」
 二人とも頑として譲らない。気合いが入るのも無理はない。今度の曲は、一曲を通して初めて自分たちだけで振り付けをするのだ。
 今までも自分たちで振りを考えたこともあり、採用されたステップも幾つかあるが、大概は振付師によって変更を余儀なくされていた。しかもそっちの方が断然格好いいものだから、文句は言えなかった。
 だが今回は夏のコンサートで初めて発表する新曲に、最初から最後まで振り付けすることになった。誰もアドバイスをしない。自分たちより年上で経験豊富なバックダンサーたちへの支持も、三人がすることになったのだ。涼平も龍一も張り切らないわけがない。
 涼平は頭のタオルを外し、顔と首の汗を拭くと、また頭に巻き直した。赤く火照った頬で唇を尖らせながら言う。
「ねぇ龍ちゃん。サビんとこ、さっきは良いと思ったけど、やっぱあれは慶太が出来ないかもよ? あんまり激しいと声に震えが入っちゃうかもしれない」
 龍一はむっとした。
「……ンだよ涼平、自分が踊りたいからって慶太にかこつけるンじゃねーよ」
「そういうつもりで言ったんじゃないよ!」
 涼平は怒鳴った。
「譜面見たし、デモテープも聴いたじゃん。あんなの普通に立って歌ってたって難しいじゃないか。慶太なんかずっと歌ってなきゃいけないんだよ、もう少し負担を減らすべきだよ」
 ちっ、と龍一は小さく舌打ちをした。慶太に過保護なのもいい加減にしてくれ。これぐらいが出来ないようじゃ、『ダンス・ユニット』だなんて恥ずかしくて名乗れやしない。
 だが龍一はそれを言葉にはしなかった。今は自分も涼平も、疲れているし頭に血が上っている。振り付けを譲るつもりはこれっぽちもないが、冷静になってからでないと、何もできない。
 恐らく涼平もそう思ったのだろう。スタジオの隅に行って、スポーツドリンクをごくごくと飲んでいた。練習の合間はいつも一口か二口ぐらいしか飲まないのに、ボトルの半分以上が空になっていた。
「龍ちゃんさ、一回自分の思うとおりに一人でやってみてくれる? 僕、みてるから」
 言って涼平は鏡の前に立った。いつもはのほほんと優しい顔立ちが、厳しいぐらいに引き締まっている。ダンスだけは譲れないのだ。龍一と同じように。
 頷いて、龍一はフロアの中央に立った。イントロが流れると同時にステップを刻み始める。最初は静かに、段々と強く、激しく。涼平の視線が突き刺さってくる。
 大変なのはこっちの方だ、と内心龍一は思っていた。ダンスにラップ、おまけに今度は短いながらもソロパートもある。ただ踊っていれば楽しかった時期はとうに過ぎていた。そこから先の自分を表現したくて、貪欲に挑戦してきたし、それなりに結果を出してきた。
 だが改めて思うと、それらは皆どっちつかずの状態じゃなかったろうか? もちろんダンスも歌も極めてみたい。しかし二つの方向に向けられる努力を、一つに定めれば、よりいっそう飛躍できるような気がしないでもない。二度目のツアーが間近に迫った今、去年よりもクオリティを上げようと龍一は必死になっていた。
 最後のステップを確かに踏み、龍一はポーズを決める。一呼吸置いてから視線を涼平に投げかけた。うん、と頷きはしたものの、涼平はやはり納得しかねる表情で龍一に近づく。
「はっきりわかったよ。僕と龍ちゃんじゃあ、この曲の解釈が少し違うみたいだ」
「どう違うんだよ」
 怪訝そうな龍一にまあ見てて、と言い、今度は涼平がフロアに立つ。交代した龍一は、音楽をスタートさせた。
 涼平が踊り始めてすぐ、龍一には彼の言葉の意味が分かった。目の前のダンスは、如何にも涼平らしい伸びやかでダイナミックなものだ。振りと曲の構成がぴったりと合っていて、見ていてとても心地よい。しかしそれは龍一がこの曲で表現したいと思っているものとは違っていた。彼のダンスが嫌いだというのではなく、ただ「違っている」と分かったのだ。涼平も自分が踊っているのを見てそう感じたに違いない。
 個性はぶつかる。それは得てして不協和音を生むことになる。しかし衝突を避けようとしていくと、いつか馴れ合いになるのではないかという危惧を、オーディションに合格した当時から龍一は抱いていた。ダンススクールでずっと一緒だった涼平となあなあになってしまわないか。九州から突然登場した慶太に遠慮してしまわないか。波風立てずに仲良くやっていくだけが成長ではない。今まで取りたててぶつかったことはなかったが、ツアーを目前にした今、それが訪れるかもしれない、そう思って龍一は静かに深呼吸をした。
 踊ることが単純に楽しかったのが、何十年も昔のことのようだった。
 涼平が踊り終えても、龍一は声をかけなかった。曲の解釈が違うと言った涼平の言葉通りだったので、何も話す必要はないと感じていた。それは涼平も同じなのだろう。
「顔、洗ってくるね」
 それだけ言って、洗面所へ行ってしまった。
 入れ違いに、慶太がドアを開ける。
「ごめんね、遅くなって」
 ボーカルレッスンが長引いていたようだ。慶太の顔を見て、彼の到着を心待ちにしていた龍一はほっと息を吐いた。第三者の視点でダンスを見て欲しかったのだ。
「涼平くんは?」
「今、ツラ洗いに行ってる。待ってたんだぜ慶太ぁ、振り付け、すっげぇ難航中なんだから」
「うん……ごめんね」
 ぽんと両手を拝むように合わせ眉毛を八の字にして笑う慶太に、龍一は僅かな違和感を覚える。その正体を知る前に、ばたんとドアが開いて涼平が戻ってきた。
「お疲れ、慶太。ねえ早速で悪いんだけど、ダンスを見てくれないかなあ?」
「あ、待って!」
 すたすたとフロアへ出ようとする涼平を、慶太は慌てて引き止めた。涼平の手を離さず、更に龍一の手も掴んで、慶太は二人をじっと見つめた。
「あ、あのね、二人に聞いて欲しいことがあるんだ。今度のこの新曲のことなんだけど、あの……あのさ……」
 もごもごと慶太が口ごもる。珍しいな、と龍一は思った。いつもはどんなことでも、鋭すぎるほどはっきり言う慶太なのに。それは涼平も感じたのだろう。不思議そうな目をして慶太を見ていた。
「なに、慶太?」
「二人とも、怒らないって約束してくれる?」
「俺らが怒るようなことなのか? だったら言うなよなぁ」
 龍一が混ぜ返す。だがその冗談すら本気にしたように、慶太は俯いて親指の爪をかじり始めた。龍一と涼平は顔を見合わせた。
「いいよ、慶太。怒らないって約束するから」
「俺も」
「うん……俺ね、今度のこの曲は……」
 慶太は意を決したように大きく深呼吸をすると、ぎゅっと目をつぶって一気に喋った。
「ソロで勝負してみたいんだ」


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☆長くてびっちりでスミマセン。行間開けるとよけい長くなりそうなので詰めてみました(笑)。
5回ぐらいで終わる予定なんですがどうなるかはまだ分かりません。書きたいだけ書かせて下さい。
これもまた龍一くん視点の話になりそう。私自身は慶太くんファンですし、書いていて楽しいのは涼平くんですが
私が書く三人の中で、一番まともな感覚を持っているのが龍一くんのようなので、どうしても彼が狂言回しになります。
一応ツアーネタなので、ツアーが終了するまでには、書き終えたいです。


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