show me your style 02
「ソロで勝負してみたいんだ」
叫ぶように言った後、慶太は恐る恐る涼平と龍一の顔を見た。涼平は、
「ソロ?」
と目をぱちくりさせ、龍一は首を傾げた。
「今回は俺と涼平のラップは入ってないよな。コーラスを抜くってこと?」
「違うんだ、そうじゃなくてさ……あのね、ダンスもなにも無しで、一人で、歌ってみたいんだ」
涼平と龍一はまじまじと慶太の顔を見た。
「本気、慶太?」
龍一が呟くように尋ねた。
「俺らはいらないわけ?」
弱々しい、泣き出しそうと言ってもいいほどの声。慶太もそれを感じたのだろう、慌てた様子で言葉を続けた。
「違うよ龍一くん。CDはちゃんと三人で出すよ? コンサートの時だけを俺一人でやってみたいだけなんだ」
「それがいらないってことじゃんかよ。そう思うだろう、涼平?」
龍一が同意を求めるように涼平を睨み付ける。慶太もすがるような顔でこちらを見ており、涼平は困ったように頭をかいた。
慶太の、一人のボーカリストとしての欲求を誰が止めることができるだろう。しかしグループとして活動しているからには、一人だけ突出するわけにはいかないのも事実だ。歌いたいから歌いたいように歌う、では子どもの唱歌と一緒だ。歌うこと・踊ることで糧を得ているからには、いくら慶太が望んだとしても生半可なものは見せられない。
「とにかく葉山さんに相談しなくちゃ。僕らがどうこう言っても、楽曲に手を加えていいのは葉山さんだけだもの。それにコンサートスタッフのみんなにも言わなきゃね。ソロでは無理だとしても、おまけコーナーで何か工夫して貰えるかもしれない」
涼平の提案に二人は頷いた。
すぐさまマネージャーに頼み込んで葉山に連絡を取ってもらい、またコンサートスタッフの各チーフも次々に呼び集められた。
ソロを、との提案を受けたスタッフたちは一様に眉をしかめた。コンサートの準備は八割以上進んでいる。慶太のソロを入れるとなると、涼平、龍一のソロコーナーも作らなければ会場は納得しまい。曲の順番を始めアレンジまでも変えていかないと、予定時間内に収めることができなくなってしまう。ファンにとっては上演時間が伸びることは大歓迎だろうが、スタッフにとっては会場費や照明などの光熱費、スタッフの人件費など、はっきりとした「金額」として返ってくるのだ。予算内にきちんと収めることも、コンサートを開催する上で大事な要素の一つでもあった。
返答を渋るスタッフを横目に、うんいいよ、と拍子抜けするぐらいあっさり頷いたのは葉山だった。
「俺の作った曲をどう表現するかは、お前らに全て委ねてる。お前らが思った通りにやればいいよ」
「ありがとうございます!」
葉山の言葉に、慶太はぱっと顔を輝かせ、額が床に付くんじゃないかと思うほど深く深く頭を下げた。
「俺、絶対頑張りますから!」
「そうしてくれなきゃ俺も困るよ」
葉山は肩をすくめて悪戯っぽく笑った。
「俺だって、俺の曲を世に知らしめたいって野望ぐらい持ってるんだぜ。いいか、お前らはオレ様の世界征服のためのコマなんだから、しっかり歌ってくれたまえ」
そして葉山はバッグから楽譜の束を取り出すと、その中から数枚を抜いて更に二組に分けた。葉山はそれを涼平と龍一に一つずつ差し出した。
「お前らの曲だ」
驚いた顔で、涼平と龍一は葉山を見上げた。楽譜にはもう歌詞も入っていて、すぐにでも歌えるようになっている。
「次のアルバムにボーナストラックで入れようと思ってたソロ曲だよ。もし必要なら今回のツアーで使ってもいいぜ。歌ってもいいしインストで踊ってもいい。もちろん使わなくってもいいがね」
葉山の言葉は有り難かったが、涼平は受け取った楽譜を見ながら複雑な気持ちでいた。龍一を見れば彼もまた困り切った顔をしている。自分の創り出した音楽に絶対の自信を持っている葉山は、慶太のアイデアを許さないと思っていたのだろう。涼平もそう思っていたから、この葉山の言葉にはどうしていいか逆に分からなかった。
「まぁ、俺はこの提案はいいと思うからこう言ってるだけだけれど、コンサートで実際にやるかどうかはスタッフとの相談次第だ。やりたけりゃスタッフを納得させるんだな」
葉山はにやりと笑って、すたすたと部屋を出ていってしまった。残されたのはにこにこ顔の慶太と、呆然とするその他大勢。しかし立ち直ったのは流石にスタッフが早かった。
「台本持ってきて。いや時間表の方が早いか、時間表を誰か人数分持ってきて」
「俺、各会場の賃貸料をチェックしてきます」
「ついでにアクセス状況も見てきて!」
「わかりました」
「バンドさんと連絡取れる? あとダンサーさんも。大至急リーダーさんを掴まえて!」
「やって貰えるんですか!?」
驚いたような慶太の問いに、スタッフは一瞬だけ動きを止めた。
「さあね、まだ分からないよ。台本を徹底的に見直したって、ソロなんて入る隙間はないかも知れない」
「でも、もしその隙間があったら……?」
チーフは片目をつむって見せた。
「『w-inds.』を最高に格好良く見せるのが、俺たちの仕事だからね。その辺は任せといて」
慶太の顔がぱっと輝く。
慌ただしく動き始めたスタッフたちを、涼平と龍一はただ見守るしかできなかった。慶太はというと既にチーフへ自分の構想を伝えていた。
「早ぇなあ、慶太。やる気満々だな」
「僕らも何か考えておいた方がいいかもね。この分じゃ慶太のソロは通りそうだよ」
「……俺はやだな」
慶太の背中を見つめながら、ぽつりと龍一は言った。
「折角三人でいるんだぜ? 俺はさ、三人でしかできないことをやるべきだと思うんだ。ソロなんて、どうせ……どうせ解散したらできるんだしさ」
「龍ちゃん」
涼平は意外なほどきつい調子で友の名を呼んだ。
「三人でしかできないことをすべきだってのには賛成だけどね。解散したらソロ、なんてそんな風に考えるのは良くないよ」
「ホントのことだろ、いいじゃねえか。あーあ、ボーカルはいいよな。ダンサーなんてそれだけで喰ってる奴は何人いる? 三人でいる内からこんなことしてたら、俺らの立場がねえっての」
「龍ちゃん!」
「涼平はどうなのさ。慶太のこの案に賛成なわけ?」
「僕は……」
涼平は言い淀んだ。友として、そしてメンバーとして、慶太、龍一それぞれの気持ちはよく分かる。では自分はどうしたいのか?
「僕は、ファンのみんなが喜ぶ方を選ぶ」
「……優等生だな」
龍一はちっと舌打ちをした。そのままドアから出ていこうとする。
「龍ちゃん?」
「踊ってくる。決まったら呼んでくれよ。どう転ぼうとそれに従うからさ」
振り返らずに、龍一は出ていった。
部屋には資料が次々に集められ、また他のスタッフやバンドメンバー、ダンサーたちが集まってきた。
アレンジはバラード。伴奏もダンスもなし、スタンドマイクとピンスポットだけのシンプルな舞台で、一人歌う。これが慶太の提案だった。時間は三分と少し。
その三分少々を捻出するのに、大勢の人間が額を付き合わせて議論しあった。皆既にソロを入れるという方向で話し合っている。それは、説明する慶太の情熱故だった。
「どうしても一人で歌ってみたいんです。いつも二人に頼ってきたけど、これからの自分の進む道を、自分で掴み取りたいんです。一人の歌い手として」
その言葉を聞いたとき、涼平の心も固まった。時間を計算するスタッフへ告げる。
「ここからここまでの曲を削って下さい。そうすれば、十分ぐらい時間ができますよね」
「うん。正確には九分半だね。慶太を三分半として、残りの六分はどうするの?」
涼平は凛とした口調で言った。
「僕と龍一で踊ります」
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01
☆龍一視点の話……と思いきや、涼ちゃん視点になりつつあります。
次回は慶太か?(笑)。職場が変わってしまったので、今まで以上に思うように
小説が書けないでいます。ストレス発散のためにも書きたいです。
……ってか、ストレス溜まりすぎて更新ペースが上がるのも微妙だわ(笑)。
ツアーが終わるまでには……なんとか……。 (03/08/10)