show me your style 03



 ソロダンス、各々一分半。
 二人のコラボレーションダンスが二分。
 ユニゾンが一分。
 このように編曲して欲しいと涼平に告げられ、
「OK」
 葉山はにやっと笑った。
 涼平が差し出したのは、彼と、そして龍一の分のソロ曲の楽譜だった。二曲を六分に編曲してそれで踊りたい、と涼平は葉山に申し出たのであった。
 コンサートでの慶太のソロボーカルは、涼平の予想通り追加されることになった。それに対し、涼平と龍一は二人で踊ることにしたのだ。
 この提案に龍一も頷いた。いや、実際は涼平がどんどんと話を進め、龍一はしぶしぶ従っているのだが。w-inds.解散説が常に噂されているのだから、いたずらに煽るようなことは止めた方がいいと龍一は思ってるようだし、何よりも「何故今回のツアーでやるのか」という意義が彼自身に見いだせないらしかった。反対とまではいかないが、今までのようにどんどんアイデアを出してコンサート作りに参加していく気分にはなれないようだった。
「リュウは踊るかな。あれも相当頑固だからね」
「踊りますよ、大丈夫」
 葉山の心配を、涼平はにっこりと笑って消した。
 龍一はきっと踊る。乗り気ではないかもしれない。だが、お小遣いやバイト代を貯めて、決して安くはないチケットを買って見に来てくれるファンのために、踊るだろう。彼は優しいから。誰よりもファンの思いを知っているから。
 そして何よりも、彼はダンサーだから。
 出来次第連絡を貰うことにし、涼平は葉山の元を去る。その足で真っ直ぐダンススタジオに向かった。先に龍一が練習しているはずだった。歩きながら、ビルの窓に乱反射する真夏の太陽に帽子を深く被り直す。
 昨日、六分を二人で踊ることにした、と龍一に告げたとき、彼は少しだけ目をすがめて涼平を見て、そう、とだけ言った。涼平にくるりと背を向けるとまた練習を始めた。背筋のピンと伸びた、いつも通りの美しい背中だったけれど、それ以上涼平は龍一に声をかけることができなかった。慶太は慶太で、何をしていてもソロのことが気にかかるのだろう。その日の夕方の練習ではもうすっかり上の空になっていた。そんな態度がますます龍一の神経を逆撫でしているようだった。
 練習後の帰り道。たった一人で涼平は歩いていた。いつもは慶太や龍一とバカ騒ぎをしながら帰るのに、今日はたった一人だった。
 こんな気持ちになったのは初めてだ、と涼平は思った。
 三人の心がバラバラになってしまったように感じる反面、この二人にだけはどうしても負けたくないからこれでいいんだとも思っている。互いが互いの刺激となって感性を高めあっていたのが今までのw-inds.だとすれば、ずっとつないでいた手を離し、一人で立つための試練とも言えるんじゃないか、と。
 支え合うのは悪いことじゃない。しかしそのバランスが取れていれば取れている程、ほんの僅かの狂いが生じただけで崩れ去ってしまうかもしれないのだ。
 慶太は、単純に一人で歌ってみたくてソロを提案したのかもしれない。けれど涼平はそれを挑戦と受け取った。三人がもう一つ上へ行くための、挑戦。
 その為に自分は何を成すべきだろう。ふと立ち止まった時、携帯のメール着信が鳴った。葉山からだった。
『曲ができたよ』
 素っ気ない一言。
 だが涼平には天啓に思えた。
 橘慶太、緒方龍一、そして千葉涼平。
 この三人を巡り合わせたのは葉山だった。その人が言っているのだ。やってみろ、と。
 やろう。
 思うとおりにやってみよう。
 吉と出るか凶とでるか、大きな賭けだけれど、やってみる価値はある。
 涼平は携帯をしまうと、今来た道を逆に走り始めた。葉山のスタジオに向かって。

 曲を聴いた龍一は、僅かに眉をしかめた。
 ちょっと難しいね、という言葉を辛うじて飲み込む。そんな弱みは見せたくない。
 曲は、今までw-inds.として踊ったことの無いタイプのものだった。抽象絵画のような序盤、一転して民族音楽的な奔放さのある中盤。二つは徐々に絡み合い、完全に一つになったとき生まれる音楽はw-inds.的な要素を残しつつも全く新しい音になっていた。
 あの時渡された楽譜は少ししか見ていなかったが、こんな風にアレンジされるとは龍一には予想もつかなかった。改めて葉山の才能に驚かされる。
「ソロA、ソロB、コラボレート、ユニゾン、という構成なんだけど、ソロパート、どっちを踊る?」
 涼平の問いに、
「どっちでも」
 短く龍一は答えた。
「じゃあジャンケンで」
「OK」
「勝った方が前半ね」
「うん」
 何かを決めるとき、昔から二人はジャンケンをしてきた。マックがいいかモスにするか、トイレをどっちが先に使うかなど、他愛も無いことばかりだった。重いものがのしかかることなど一度もなかった。
「じゃーんけーん、ぽい!」
 結果は、涼平が抽象的な部分を、龍一が民族的な部分を踊ることになった。僅かだが、不安が心をよぎる。どちらかというと逆の方が互いの持ち味を活かせるのではないかという気がしたからだ。ともあれ結果を覆すことはできない。ジャンケンの結果は、今まで一度も変えたことは無かったからだ。
「いつまで?」
「三日後のスタジオリハーサルまで。朝の9時から始まるから、明後日中には見せられるトコまで持っていきたい」
 二日で各々のソロと、コラボレート部分の振りをつけろって? 龍一は内心ニヤリと笑う。昔から涼平は難しいことをさらりと言う。ユニゾン部分の振りは涼平が作るから、条件はどちらも一緒だけれど。
「OK」
 龍一は頷いて、ダビングの終わったMDをデッキから取り出した。
「基礎練習以外は別のスタジオにしたい。いいだろ涼平?」
「うん。ともかく時間が無いからね。集中してやらないと」
 涼平の顔つきが変わっていた。龍一と言葉を交わしながらも、既に自分の世界に入っているのだ。こんな時の涼平は、誰が何と言ってももう聞こえない。一度に一つのことしかできない不器用さは、反面怖ろしい程の集中力を生む。
 おもしろいじゃん。
 龍一は不敵に微笑んだ。
 札幌にいた頃から、誰がダンスバトルを仕掛けてものらりくらりとかわしてきた涼平に、真っ向勝負を挑めるのだ。これ以上ないチャンスだ。
 そして慶太にも。
 彼の持つ歌という表現を、自分の持つダンスという表現は凌駕できるのか。言葉の世界と言葉のない世界がぶつかり合ったとき、何が生まれるのか。
 龍一はもう一度笑うと、向かい側のスタジオへ入っていった。

 スタジオリハーサルの当日。
 やつれた顔で現れたのは、意外にも慶太だった。おはようと挨拶をした声はしっかりしているから、トレーニングがきついというわけでは無いらしい。たった一人で自分を表現するというプレッシャーをまざまざと感じているようだ。しかし目だけは炯々と光っており、負けず嫌いな彼の性格がありありと見えた。
 涼平はというと帽子を目深に被り、表情はよく見えない。周りに気を取られずに集中したいのだろう。ストレッチをしているが軽いもので、このスタジオへ来る前に別のスタジオでかなり躍り込んでいたに違いない。
 龍一はバッグから三本目のタオルを取り出して顔を拭った。朝日が昇ると同時にここへ来て、ずっと踊っていたのだ。とても調子がいい。隅々まで身体の動くのを感じていた。
「じゃあ、一旦それぞれのパートを見せて。それから本番の順に通していこう」
 舞台監督の声に涼平と龍一は頷いたが、慶太は
「僕、二人のは見ません。廊下でストレッチしてるので、終わったら言って下さい」
 そういうと、さっさとドアから出ていってしまった。
 舞台監督は呆気に取られたような顔をしていたが、龍一は内心ほっとしていた。例え慶太といえども本番まで手の内は見せたくなかった。彼は強力なライバルなのだから。涼平にもそれはいえるが、一分交代ではそうもいかなかい。MDをセットして、龍一はスタジオの右手に寄った。涼平は中央に進み出て、ポーズを取った。
 曲が始まる。
 涼平のダンスを見て、龍一は背筋が凍った。
 伸びやかで温かな今までの踊りとは全く違う世界が目の前で展開されていた。かちりかちりと動くロックダンスをベースに、パントマイムにも似た身体の動きを取り入れて、無機的にアレンジされた音楽にピッタリと合っていた。
 龍一は唇を噛んだ。涼平には絶対に合わないと思っていたパートを、こうも鮮やかに踊られては。いつも見せているものが涼平の本質だとしても、果たして彼は一体幾つの引き出しを持っているのだろう。
 見守るスタッフたちの目も大きく見開かれ、涼平に集中していた。近未来的な硬質さを漂わせつつも、涼平の持つ人を惹きつける華は失われていなかった。
 龍一は、涼平から離れようとしない目を無理矢理閉じて自分自信に集中する。
 龍一が振り付けたのは、風を受けて飛ぶ鳥のような、ための長い、ゆったりとしたものだ。いつもは、早いビートに複雑なステップをどんどん積み重ねてゆくのが好きだったから、今までとは全く違う踊り方になる。自分でもどうしてこんな振りを思いついたのか、踊るたびに首を傾げたくなるが、この音楽を踊ろうとすればどうしてもそうなるのだ。ステップの数自体は自分でも驚くほど少ないし、それ程難しいものでもない。技術の高度さよりも踊りとしての繋がりを重視した振り付けだから、ドラマチックに緩急をつけていかないと、だらだらとした印象しか与えられない。しなやかな腕の動きなどは、かえって涼平に向いているのではないかと龍一は思っていたぐらいだ。
 しかし、目の前で彼の圧倒的な踊りを見てしまった今、不安を抱えてはいられない。曲から受けたイメージと、自分の身体を信じて踊ってゆくしかない。
 一羽の鳥として。
 音の演じ手として。
 曲の転調が近づく。あと四拍で龍一の出だ。
『five,six,seven,eight....!』
 そして一歩を踏み出した。




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☆ツアーが終わるまでには……と思っていた連載も、順調に伸びています・゚・(ノД`)・゚・
 5回予定だったんですが、6回ぐらいになるかも……。
 もう少し上手く話をまとめられるようになりたいです。
 次回か次々回あたり、三人にどえりゃー災難が降りかかる予定ですが、
 あくまでもフィクションですので、剃刀とか送ってこないようにしてください、と
 今からお願いしておきます……(何をするつもりなんだー!!)。 (03/09/15)


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