- 『官能小説・洋子の核戦争(前編)』作・オクムラユウスケ
- 《1》
- 暗がりに一人の女が、一糸まとわぬ姿で、膝を抱え震えていた。
まるで何かに怯えているように、キョロキョロと辺りを世話しなく見回している。
- その視線の先に恐ろしい顔をした怪物でもいるかのように…
- 女の頭上で車の停まる音がした。数人の男が車から降りて、何か話をしている。
女は全神経を聴覚に集中して男達の会話を聞いた。
「来たか…」
女はそう呟くと、おもむろに立ち上がり、鉄梯子を登りマンホールの蓋を勢いよく開けた。
「いたぞ!女だ!」
一人の男が仲間に叫んだのとほぼ同時に、女はむきだしになった豊満な乳房を揺らし、男の頚部に噛みついた。
大量の返り血を浴びた女は息をつく間もなく残り二人の男に襲いかかった。
片手で一人の目玉をえぐり、もう片方の手で最後の一人の首を絞め上げた。
目玉をえぐられた男はよろめきながら、女が身を隠していたマンホールの中に落ちて行った。
「なぜ私を追うんだ!」
首を絞められ、手足をジタバタさせている男に、女は鋭い口調で言う。
「お…お前は危険すぎるのだ…お前の体には超高性能核爆弾が仕込まれている…も…もし、お前があるキーワードを口に
- すればたちまち核爆弾のロックが解除され、ば…爆発してしまうんだ」
白目を剥きながらも男は話し続けた。
「お…お前は我々がか…開発した《人型核爆弾》だ…もう人間ではない…そ…その証拠にお前は…
- 過去の記憶を全て忘れているはず…だ…」
あまりにも唐突な話であった為、首を絞めている手が一瞬、力を失った。
その隙をついて男の膝が、女のみぞうちを蹴り上げたが、女はびくともしなかった。
「う…うわさ以上だ…お前は最強の核兵器だぜ…そ…そんなに可愛い顔をしてるってのに…まったく、お…恐ろしい女だ…」
女の顔に凄まじい殺気が宿り、絞め上げていた手に再び力が込められると、鈍い音をたてながら男の首がはじけ飛んでしまった。
-
- 月灯りに照らされた女の裸体は、血で真っ赤に染まっていた。
女は足元に転がる死体を眺めながら、呼吸を整えると、踵を返し、猛然と走り出した。
自分の中で一番古いおぼろげな記憶。
殺人マシーンとして目覚め、そして逃げ出したあの場所へ・・・
-
- 《2》
どのくらい走ったのだろう。
女は街外れの【たこ焼き屋】の前に立っていた。
店の立て看板にデカデカと書かれた《商売繁盛》という文字とは裏腹に、客は誰一人いなかった。
「おい…」
雑誌を読み耽っていた店員が、慌てて顔をあげると、大量の血を浴びた女の裸体が、仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
「開けろ!」
店員は化け物でも見るような顔で女を見上げた。
「お前…戻ってきたのか?」
「開けろ!」
女の勢いに押され、店員はカウンター下のレバーを引いた。
すると、たこ焼き製造機が、異様な機械音とともに左右に開き、中から地下へと続く階段が姿を現した。
「なぜ戻ってきたんだ!復讐か!一度死んだ女が生き返っただけでも有り難いと思え!」
「一度…死んだ…」
「そうだ!お前は昔、事故で一度死んでいるんだよ!」
「う…嘘だ…嘘だ〜!」
女は店員の胸ぐらを掴み、そのまま真上に放り投げた。
店の天井に頭ごと突っ込んだたこ焼き屋の店員は、宙吊りのまま体を痙攣させて死んだ。
戸惑いを隠せないまま、地下へと続く階段を一歩一歩下っていった。
地下通路は無気味なほど静かだった。
コンクリートで塗り固められた灰色の壁が、ただ永遠と続いている。
しかし、一番奥の突きあたりに、重厚なドアがひとつだけあった。
女は一瞬ドアから顔を背けた。
研ぎ澄まされた野生の本能が、ドアを開けるなと命じているようだった。
《逃げるな!あのドアを開けろ!》
呪文のように叫び、女はドアに手をかけた。
意外にもカギはかかっていなかった。
女は容易に秘密基地の中枢に入り込むことができたのだ。
研究室。
一目見てわかった。
おびただしい数のシリンダーや注射器、所狭しと並べられた精密機械、人体実験用のベット・・・
おぼろげな記憶が、徐々に確信へと変わった。
「そうだ、私はここで目覚めたんだ。そして、その後…その後…」
思い出そうとする女の目に、人影が映った。
薄暗い研究室の隅に、パイプ椅子に腰掛けた男が、じっとこちらを眺めていた。
-
- 後編に続く・・・