- 『官能小説・洋子の核戦争(後編)』作・オクムラユウスケ
- 《前回までのあらすじ》
記憶を無くした女は、謎の組織に追われていた。
組織の男は言う。
女の体内には核爆弾が仕込まれていて、あるキーワードを口にすればたちまち爆発するのだと・・・
女は自らの過去を求め、再び組織へ帰ってきた。
そして、女の目の前には、怪しく見つめる一人の男の姿が・・・
- 男はパイプ椅子に腰掛けたまま、何も喋らずじっと女を見つめているだけだった。
痩せぎすで、青白い顔をした男の顔は、今にも倒れてしまいそうに、疲れ切っているようだった。
しばらく沈黙が続いた後、女が絞り出すように言葉を吐いた。
「は…博士…」
「おかえり、洋子」
博士と呼ばれた男は、スッと立ち上がり、女の方へと歩み寄って行った。
「く…来るな!洋子って誰だ!」
「お前の名前だよ、洋子」
博士はやさしく微笑んだ。
「ヨウコ…私の名前は…ヨウコ」
「そうだよ、洋子。ほら、そこを見てごらん」
博士の指さす方向に目を向けると、そこにはおびただしい数の死体が山積みにされていた。
どの死体も白衣を着用していたが、血で赤く染まったソレは、もはや白衣と呼べるような代物ではなかった。
「こ…これは…」
「この基地の研究員たちだ。すべて、お前が殺してしまったんだよ、洋子」
「わ…私が、すべて…」
あまりにも凄惨な光景に言葉を失った洋子に、博士は話し続けた。
「かつて、お前は我々の仲間だった。特殊工作員としての洋子は完璧な戦闘員《ソルジャー》だったんだよ」
洋子は呆然と死体の山を眺めていた。
「しかし、3年前、お前は事故で死んだ。
その時、我々の手術…いや、この場合、改造とでもいうべきかな…
お前は生まれ変わったんだ。
感情を持たない《人型核爆弾》として…」
洋子はまだ死体の山を見つめている。
「だが、僕は一つだけ大変な過ちを犯してしまった!お前に…洋子に、わずかだが人間としての感情を残してしまったんだ!」
博士の顔が歪む。
「《改造》後、数日間は何事もなかった。
しかし、突然、洋子の自我が目覚めてしまったんだ。
そして、その直後、お前はこの基地の全研究員を殺してしまった。只ひとり、僕を残して…」
洋子はようやく死体の山から博士へと、視線をそらした。
「なぜだ…何故、博士だけが殺されなかったんだ」
「それは・・・」
博士は口ごもり、うつむいた。
「なぜだ!言え!」
洋子の鋭い眼光が博士に向けられた。
「それは…僕と君が恋人同士だったからだよ!」
「こ…こいびと…」
ひとり言のように呟き、立ち尽くす洋子に、博士がゆっくりと歩み寄っていく。
そして、しなやかな筋肉を帯びた、洋子の裸体を強く抱きしめた。
「君にはもう過去の記憶はない。しかし君は僕の恋人なんだ!洋子!洋子!」
その時、洋子の目からひとすじの涙がつたい落ちた。
「ヤ・・・ヤスオさん・・・」
洋子の口から自然に飛び出したその名前に博士は驚愕の声をあげた。
「何故、僕の名前を!記憶を無くしたはずなのに!」
「わからない…ただ、すごくなつかしいの…」
溢れ出る涙を抑えきれず、かがみ込んだ洋子の身体を、ヤスオが精一杯の力で抱き上げた。
「洋子!」
ヤスオは再び洋子を抱きしめると、そのまま人体実験用のテーブルに押し倒し、全身で洋子の躰を愛撫した。
洋子は抵抗しなかった。
むしろ、激しく体をのけぞらし、ヤスオの愛撫に答えた。
二人はもつれあいながら、お互いを求め、何度も何度も唇を重ね合わせた。
「ヤスオさん!ヤスオさん!」
「洋子!洋子!」
地下で研究に明け暮れていたヤスオの体は、色白で痩せ細っていた。
しかし、体とは正反対に、ヤスオの黒光りするトーテムポールは、不釣り合いなまでに逞しく、男らしさを誇示していた。
やがて、ヤスオのトーテムポールが洋子の濡れた桜貝の中に、淫美な音をたてながら吸い込まれていく。
「ああ!ヤスオさん!」
激しく腰が揺れるたび、研究室の中に洋子の喘ぎ声がこだました。
「ああ!ヤスオさん!イク!イッちゃう!」
「洋子!一緒にいこう!」
お互いの名前を叫びあい、二人が絶頂へ向かっていこうという、その時であった。
「ヤスオさん!愛してるぅ!」
洋子の体がビクンッと大きく痙攣した。
- その瞬間、全てが消え去っていた。
- 研究室はおろか、世界中が一瞬にして焼け野原と化してしまったのだ。
洋子の体内に仕込まれた核爆弾のキワード・・・それはヤスオがプログラミングした言葉であった。
キーワードは【あいしてる】。
-
そびえ立つ高層ビルも、立ち並ぶ家々も、山も、人も、跡形もなくなってしまった。
ただ、大地が果てしなく続いている。
そして、満天の星空には巨大なハート型のきのこ雲がどこまでも、どこまでも、立ちのぼっていた。