官能小説『洋子の忍法帖』作 オクムラユウスケ

 都心から少し離れた新興住宅街に建つ真新しいマンション郡。
この辺り一帯は、折からの不況でまだ入居者も少なく、夜になると一段と静けさを増す。
 洋子と明男はベットの中から、この、まるで眠りについたような街並みを見ていた。
ベットの脇に備え付けてあるダストボックスの中には、たった今使い終えたばかりのサックが無造作に捨てられていた。
「明男・・・」
「なんだい?」
「わたし・・・」
「どうしたんだい?」
「・・・今まで黙ってたけど・・・本当は・・・私・・・忍者なの。正確に言えば《くのいち》ね」
「へ?」
 明男は洋子の突拍子のない冗談に、おもわず吹き出してしまった。
「めずらしいな〜、君は冗談なんて言わない女性だとばかり思っていたよ」
「冗談じゃないわ・・・私・・・くのいちなのよ」
 洋子の真剣な眼差しに押され、明男の声が少し低くなった。
「よ・・・よせよ、いつまでもくだらない冗談は・・・いったいどうしたんだい?」
「そうよね・・・こんなこと急に言われたって信じろと言うほうが無理ね・・・ じゃあ、これならどう?」
 そう言うと、洋子は豊満な胸を激しく揺らし、真上に飛び上がった。一瞬、明男の視界から洋子の裸体が消えた。
「ここよ!明男さん」
 声は明男の頭上から聞こえた。見上げると、洋子が大の字に体を広げ天井にぴったり張り付いていた。
「忍法!蜥蜴隠れの術!」
「よ・・・洋子・・・おまえ・・・」
「やっとわかってくれたみたいね、明男さん」
 ヒラリと一回転して着地した洋子がニッコリ笑った。
「わたし、幼い頃から父にくのいちとして育てられてきたの。父からはいろんな術を習ったわ
火や水を使った術、身を隠す術、それと・・・男を騙して利用する術なんかもね・・・」
「お・・・おい、ちょっと待てよ。じゃあ、オレと付き合ったのも全て修行の為だっていうのか!」
「最初は・・・ね。『忍法・色騙しの術』っていうのよ」
「ふざけんなよ!」
 明男は大声で怒鳴りちらし、ベットの脇のダストボックスを蹴り倒した。
その拍子にサックが飛び出し、白い液がカーペットに飛び散った。
「じゃあ、いつだったか二人でオーストラリアに行って、コアラと一緒に写真を撮ろうねって言ったのも全部修行の為だっていうのかよ!」
「それは『忍法・甘えん坊の術』といって、特殊な声音で催眠術にかけ、男たちを・・・」
「うるさい!そんな説明なんか聞きたくない!」
 明男は頭をかかえ低く唸った。
「洋子・・・ま・・・まさか、セックスの時、激しくよがったりするのもひょっとして・・・
「ごめんなさい、実は『忍法・淫乱みだれ鳴の術』という、くのいちには絶対必要な術のひとつなの・・・」
 明男はうつむいたまま体を小刻みに震わせていた。
「本当にごめんなさい。でもね、最初はわたしも修行の一貫として明男さんとおつき合いしてたわ。
だけど・・・ある時気付いたの。わたし・・・本当に明男さんのこと愛してるんだって!」
 明男がうつむいていた顔を上げた。
「好きよ・・・明男さん」
 洋子が明男の唇にやさしくキスをした。
「どうせこれも忍法なんだろ?」
うふふ、『忍法・愛してるの術』なんてね!
「ハ・・・ハハ」
 明男が笑った。
「ウフフ」
 洋子も笑った。
「アハハハ」
「ウフフフ」
「アッハッハッハ!」
「エヘへへ」
「洋子!オレ、やっぱりお前が好きだ!くのいちだってかまわない!一生オレのそばにいてくれ!」
「え!それってもしかして・・・」
そう、『忍法・プロポーズの術』なんてね!
 洋子の頬にひとすじの涙がつたいおちた。
「もう・・・バカ」
 さっきまで薄暗かった部屋に朝日が差し込み二人の体を包み込んでいった。
 ニントモカントモニンニン。