〜隠し事〜

 

 仕事が終わり、たまきは一人で帰っていた・・。進藤はまだ帰れそうにないからといって、先に帰った・・。二人はみんなには内緒で付き合っている・・。

「このまま、帰ってもすることないのよね・・。久しぶりにあそこにいって、飲もうかしら・・。家から近いし・・。」

 進藤と付き合ってないころ、よく一人で飲みにいったショットバーに行くことにした・・。

「いらっしゃいませ。香坂さんお久しぶりですね。どうぞ。」

 カウンターに座り、お気に入りだったカクテルを頼む。

「お久しぶり。元気そうね。相変わらず良い雰囲気よね。」

 目の前で作ってくれる姿を眺めながら、周りを見渡すと、そこには見覚えのある顔が・・。

「あ・・。矢部君・・。・・・見つからないようにしなきゃ・・。」

 顔が見えないように、座りなおす・・。

「はい、どうぞ。・・・変わりない美しさにあうカクテルです・・。・・・どうしました?」

 不思議そうにたまきに話しかけ、カクテルを差し出す・・。

「いえ・・。なんでもないんだけど・・。知り合いがね・・。ゆっくり飲みたいから、ばれたくないのよ・・。」

 すると、笑って、席を一番隅を空けてくれた・・。

「こちらへどうぞ。ここなら、見えないと思いますよ?じゃ、ごゆっくり・・。」

 たまきは微笑んで、カクテルに口をつける・・。

「・・・おいしい・・。」

 静かに飲んでいると、バーテンがカクテルを差し出す。

「ん?頼んでないわよ?どうしたの?」

 すると、反対側の男性を指し、

「あちらのお客さんが・・。」

 たまきは、苦笑する・・。こうやって、貰って飲んでロクな思い出がない・・。

「すいません・・。頂くことはできません・・・。あっそうだ。これ、もう一つ。」

「かしこまりました。」

 その男性は残念そうにしているが・・。運ばれてきたカクテルを飲んでいると、矢部の声が近づく・・。

「・・・トイレってどこですか?」

 たまきの近くにいたバーテンに訊ねる。

「・・・こちらです。」

 矢部がたまきの傍にくる・・。たまきは思わず顔をしたに向け、ばれないようにするが・・。

「・・・あれ?香坂先生?・・・どうしたんですか?こんなとこに一人で・・。」

 ばれてしまった・・・。

「・・・別に、一人で飲もうと私の勝手じゃない・・。早くトイレ行きなさいよ・・。」

 矢部は、しぶしぶトイレに行く・・。

「・・・ばれましたね・・。あの方が知り合いですか・・。」

 たまきは苦笑して、頷く・・。

「・・・一緒に飲みましょうよ。っていうか友達帰っちゃった・・。」

 自分の席のほうを見ると、さっさと帰ってしまった・・。

「・・追いかけなさいよ・・。私は、もう少しここで飲むんだから・・。」

 しかし、矢部はたまきの隣に座り、一緒に飲もうと頼む・・。

「もう、お開きだったんで・・。いいじゃないですか。」

 笑顔で話す矢部を見て、断りきれないたまき・・。

「・・・わかったわよ。」

 最初は、しぶしぶだったたまきも、矢部の面白い話で、酒も進んでいた・・。

「あ〜、久しぶりにこんなに笑っちゃったわ。フアァァア。」

 時計はすでに0時を回っていた・・・。

「そろそろ、帰りますか?・・・香坂先生?」

 たまきを見ると、机に頭を置いて寝てしまっていた・・。

「寝ちゃった・・。どうしようかな・・。このままにしとくわけにもいかないし・・。」

 たまきの体を支えながら、とりあえず自分の家につれて帰ることにした。

「・・・香坂先生って、着やせするのかな・・。でも、細い・・。」

 たまきの体の細さに驚きながら、胸の鼓動が高鳴る・・。

 家につくと、たまきを自分のベッドに寝かせ、たまきの寝顔をしばらく見ることにした。

「・・・かわいい寝顔だなぁ・・。」

 その時、たまきが寝返りを打つ・・。たまきの口から、悩ましい声が・・。

「ん・・。」

 矢部はドキっとする・・。しかし、抱きしめたくなる衝動を抑え、ソファに寝ることにした・・。

 

 その頃、進藤は・・。

「たまき?・・・帰ってないのか?・・・どうしたんだろう・・。」

 先に帰ったはずのたまきがいない・・。心配になり、あたりを探すがいない・・。

「・・・・どこいったんだ?」

 心配で眠ることが出来ない・・。

 

「ん・・?あれ?ここ・・・どこ?」

 喉が渇いて目が覚めたたまきは、自分がいる場所がわからない・・。男の人の部屋だというのはわかる・・。たまきは頭の中で記憶をさぐると、見る見るうちに、青ざめてくる・・。

「矢部君と飲んでたんだっけ・・。・・・服・・は、着てるから何も・・。帰らないと・・。」

 リビングらしきところに行くと、矢部がソファで眠っている・・。

「矢部君・・起きて。矢部君!」

 矢部の体を揺すり、起こす・。

「ん?あ・・・。香坂先生、起きたんですか?大丈夫ですか?あ、何もしてませんから・・。」

 たまきは苦笑して、矢部を見る。

「わかってるわよ・・。それより、今日のこと・・・飲んで矢部君の家に泊まったこと誰にも言わないでね。何もなかったにしろ、ね?わかるでしょ?」

 矢部は笑って頷く。

「わかってます。誰にも言いません。」

 たまきは少し微笑んで矢部を見る。

「ありがと。迷惑かけたわね。じゃ、かえるから。」

 というと、さっさと帰ってしまった・・。

「・・・まいったわね・・。酔いつぶれて・・・矢部君のところに泊まるなんて・・。一生帰ってるかしら・・。」

 急いでマンションに帰ると、明かりがついている・・・。

「・・・おきてるのかな・・。」

 そっと玄関から入ると、進藤がそこにいた・・。

「・・・一生・・。ここで何をしてるの?」

 すると進藤は不機嫌そうな顔で、たまきを見る。

「こんな時間まで、どこほっつき歩いてたんだ。」

 たまきは、視線を外す。

「心配して、ずっと起きてたの?・・・研究室に忘れ物があって、ついでに資料とかまとめてたのよ・・。気づいたらこんな時間だったの・・。連絡しなかったのは、悪かったわ。」

 つい、嘘をついてしまった・・。そんなたまきを進藤はずっと見つめていた・・。

「・・・本当だな?風呂入って、寝よう。」

 たまきの手を引いて、自分はすでに風呂に入ったので、たまきを寝室で待っていた。

 それから二人は眠ってが、たまきは、進藤の顔をじっと見つめ、自己嫌悪に陥ったのだった・・。

 

〜仕事中〜

 それからも、何事もなく時間が過ぎていったようだったが、進藤はよくたまきを見つめていた・・。

「何?私の顔になんかついてる?」

 その視線に気づいたたまきは、内心焦ったが、冷静を装い訊ねる。

「・・・別に・・。」

 そういう会話が何度か行われた・・。進藤が気になったのは、矢部の視線だ・・。たまに、たまきが何かを矢部に言って、矢部は大丈夫ですと、言っているようだ・・。

「・・・。」

 たまきに聞いても、何も答えないだろうが・・。進藤は矢部に目をつけた。

「なぁ、矢部、一昨日香坂と酒飲んでたか?・・・見かけたやつがいるそうなんだが・・。」

 矢部は、慌てた・・。その様子を見逃す進藤ではなかった・・。

「え?さっさぁ・・。」

「行ったんだな?正直に言え・・。怒らないから・・。」

 しかし、すでに進藤の顔は怖い・・。

「怒らないって、もうすでに怖いで・・。いえ・・。はい・・。行きました。でも、何もしてません・・。本当です。酔いつぶれた香坂先生を僕の家に泊めただけです・・。家わからなかったし・・。誓ってもいいです。何もしてません。」

 情けない声で進藤に白状する。そこへたまきがやってきて、二人を見て、嫌な予感がする・・。

「すいません・・。香坂先生・・。」

 たまきはため息をついて、進藤の顔を見ると、進藤の顔が怒りに満ちていた・・。

「いいのよ・・・。矢部君は、悪くないんだから・・。私が悪いの。矢部君を怒らないで・・。」

 ますます怒りを募らせる進藤・・。

「・・・ちょっと、来い・・。」

 たまきの腕を取り、屋上へ連れてった・・。

 

「・・・なんで、最初に言わなかった・・。何もなかったんだから、言えるはずだろ・・。」

 たまきは、静かに黙って進藤を見ている。

「・・・ごめん・・。本当にごめんなさい・・。嘘ついて・・。何もなかったにしても、あなたを傷つけると思って・・。」

 進藤はため息をつく。

「・・・嘘をつかれたことのほうが、相手が傷つくって考えなかったのか?」

 たまきは、俯く・・。

「・・・ごめんなさい・・。あの日、早く帰れたでしょ?だから、久しぶりに飲みたかったの・・。付き合う前に良く行ってたショットバーがあって、そこで飲んでたら、矢部君に会ったの・・。つい飲みすぎちゃって・・。これからは、一人で飲みに行かないから・・。」

 反省しているようだったが、進藤の怒りは、まだ収まらない・・。

「・・・お前は飲みすぎると眠くなるっていうのを自覚してないのか?ったく・・。矢部がああいう性格だからよかったものの、他のやつだったら、どうするつもりだったんだ・・。」

 たまきは、何もいえない・・。

「それは・・・。」

「・・・自分のこともっと、自覚しろ・・・。こっちはすごく心配してたんだぞ。お前に何かあったんじゃないかって・・。」

 たまきの肩が小さく震えだす・・。

「・・・ごめん・・。どうしたら、許してもらえるの?」

 進藤は、反省しているたまきを見て、ため息をついて、表情を緩める。

「もう二度と、こんな嘘は言うんじゃない・・。他の男とのみに行くなよ・・。飲みに行きたいときは、俺に言え・・。」

 たまきは進藤をじっと見つめ、やっと表情を和らげた。

「わかった・・。ごめんなさい・・。」

 こんなしおらしいたまきは、初めてかもしれない・・。進藤は苦笑して、たまきを抱き寄せた。

「もういい・・。ったく・・。仕方ないな・・。許してやる。こんなかわいいお前を見せられて、許さないなんて、いえないし・・。」

 たまきは微笑んだ・・・。

「ありがと。一生・・。大好き。」

 たまきを抱く力が強くなった・・・。

 

 やっと和解できた二人は、矢部に謝り、いつもの二人に戻ったのだった・・。

〜END〜

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