〜撮影〜

 

 ここのところ、ドラマで医療系のものが多くなった。医者役や看護師役に現場の人が、手技を役者に教えることが多い・・・。

 港北医大の医師も例外ではない・・。

「え?ドラマに出る役者に、手技を教えろって?・・・この忙しいのに?」

 馬場が神林に詰め寄る・・。後では冷静に神林をみる城島・・。たまきはため息をつく。

「・・・そんな事言っても、上からの命令だもん・・。なんでも、救命関係のドラマらしくってさぁ・・。とりあえず現場の動きを見せてくれって・・。」

 情けない顔で話す・・。神宮に上手く丸められたのだろう・・。

「・・・それで、いつなんですか?」

 進藤が苦笑して、神林に訊ねる。

「あのねぇ、今週の終わりだって・・。」

「あ〜、最悪・・。あたし仕事だ・・。」

 ため息をついてうなだれるたまき・・。

「・・・やった。俺休みだ。」

 馬場が喜んで声をあげると、たまきが恨めしそうににらむ。

「・・・変わってくれない?お願い・・。」

「いやだよ・・。」

「二人とも、どっちみち一週間だから、頼むよ・・。協力してよ・・。」

「・・・わかりました・・。」

 二人は肩を落とし、残念がった・・。

 

〜当日〜

 続々と俳優と監督がやってきた・・。

「初めまして、救命物語の監督をします、杉山といいます。」

 厳しそうな監督だ・・。その隣には、今人気絶頂の俳優がたっていた・・。

「初めまして、ドラマで主演をさせてもらいます。武田敏弘といいます。」

 にわかに賑わう救命・・。

「初めまして、ここの医局長代理をしてます。神林です。えっと、とりあえず現場の空気をわかってもらうために、ここから見ていてください。この下が初療室になってまして、患者が運ばれて最初に治療をする場所です。」

 というと、一本のホットラインがなる・・。

『50代男性。突然倒れて現在、心肺停止状態です。』

 メンバーの顔つきが変わる・・。

「到着まで何分だ!」

 進藤が訊ねる。

『・・5分です。現在、心臓マッサージとバックで蘇生開始してます。4分間続けてます。』

「すぐに連れて来い!」

 すぐに下に急ぎ、準備に取り掛かる。

「・・・心臓か脳だね・・。」

 みんなは頷く・・。患者が運ばれてきて、そこはもう戦場とかしていた・・。

「・・・血ガス・血算・生化・モニター。ルート急げ!」

 進藤がすぐに指示を出す。指示通りにみんなは動く。

「・・・挿管します。チューブ。」

 たまきがすぐに呼吸のルートを処置する・・。

「ルート取れたか?じゃ、エピクイック・・。」

 進藤が心臓マッサージをしながら、指示を出す。

「・・・DC200でチャージだ。」

 みんな必死で救おうと必死だ・・。上で、俳優たちが見ている・・。圧倒されているようだ・・。

「・・すごいですね・・。」

 独り言のようにそれぞれが呟いている。

 

「・・・・進藤先生、もう・・。」

 何も反応を示さない患者を見て、絶望感が漂う・・。

「・・・10時15分・・。死亡確認・・。」

 原因がわからない・・。

「・・・家族は?」

 たまきが桜井に尋ねる。

「・・・もうすぐ来ると思うのですが・・。」

「そう・・・。原因がわからないとね・・。やっぱり心臓かしら・・。」

「・・・わからないな・・。今となっては・・。」

 結局わからず、死亡解剖に回すことになった・・。

 

〜医局〜

 医局に戻ったメンバーは、釈然としない表情をしている・・。原因がわからない死・・。

「・・・気持ち悪いね・・。なんだったんだろう・・。原因がわかっていれば、まだなんとかなったかもしれない・・・。」

 神林が呟く・・。

「・・・今更何言っても、仕方ないですよ・・。助けれなかったことが事実です・・。」

 たまきが冷たいとも言える言葉を、呟く。

「・・・冷たいですね・・。」

 その武田という俳優がたまきに向かって話しかける。

「は?あなたに何がわかるの?・・・事実は変えられないものよ。あなたにそんなこと言われる筋合いはないわ。」

 冷たく言い放ち、医局を出て行く・・。

「・・・ごめんなさいね・・。香坂先生も助けたい一心でがんばってるんです。責任感強い人だから・・。」

 神林がフォローを入れる・・。

「・・・いえ・・。何も知らず・・・。俺のほうこそ・・。」

 その俳優はドアのほうを見つめた・・。

〜屋上〜

「ったく・・。何よ・・。むかつくやつね・・。」

 たまきは、苛立ちながら、空の向こうを見つめる・・。

「・・・先ほどは申し訳ございませんでした・・。」

 たまきは声のするほうを見ると、先ほどたまきにむかって冷たいといった武田だった・・。

「・・・なんで、ここがわかったの?」

 苦笑して、訊ねる。

「・・・他の人に聞いたら、ここだって・・。みなさんが言ってました、香坂先生は責任感が強い人だから、口ではああいったけど、本心は違うって・・・。」

 たまきは、はにかんだように少し微笑むが・・。

「そんなことないわ・・。医者は患者の命を救うのが仕事よ・・。でも、救えないことも多いわ・・。それは仕方ないことだって、わかってるけどね・・。」

 前を向いて、ため息をつく・・。武田はたまきの横顔をじっと見つめる。

「・・・すごいですよね・・。本当に、何も知らないであんな事言って、すいませんでした。」

 たまきは、苦笑しながら、首を横にふる。

「いいのよ・・。別に気にしないで・・。よく言われるわ。冷たいって・・。まぁ、いいんだけどね。あの時、救えなかったっていう気持ちが強くて、ついきつい言い方しちゃったし・・。こちらこそごめんなさいね。」

 すると安心したような顔になる・・。

「・・・先生って、いいですね。・・・俺、初対面の人にあったら、絶対に騒がれて話すことできないから・・。」

「それは、あなたが芸能人で、人気があるからって?・・・ばかばかしい・・。悪いけど、芸能人とかに興味ないのよね・・。まぁ、かっこいいなとは、思うけど。仕事で精一杯だわ。」

 苦笑して、武田の方を見ると、進藤が複雑な顔をして、たまきをみていた・・。

「あら・・。進藤先生も来てたの?」

 進藤は、武田にお辞儀をして、苦笑する。

「来ちゃ悪いか?・・・邪魔したか?・・・。」

 たまきを睨み、タバコを取り出す。

「いいわよ。別に、私だけの場所じゃないから・・。」

 苦笑して、進藤を見る。

「・・・お二人はお付き合いしてるのですか?」

 二人は武田を見る。

「どうして、そう思うの?」

 首を傾げて武田を見る。

「いや、なんとなく・・。そうかなぁって・・。」

 たまきは進藤の方を見て、

「そうなの?」

「そうなのか?」

 二人はにらみ合う・・。武田は不思議な顔をするのだった・・。

 それからは、3人は他愛の無い会話をして、仕事に戻ったのだった・・。

 

「心臓マッサージは、ここから2横指上のここを、手をこうやって重ねて・・。」

 たまきは、丁寧に心臓マッサージを教えている。武田も真面目に習っている。

「はぁぁ・・。大変ですねぇ・・。これを心臓が動き出すまでやるんですよね?」

 額に汗を掻きながら、人形に向かって行っている・・。

「そうね・・。まぁ、カウンターショックを使ったり、薬を使ったり、最悪の場合は、直接心臓を手でマッサージしたりね・・。交代でやったりね・・。まぁその時は必死だから、大丈夫なんだけど、あとで辛いわね・・。」

 苦笑しながら、手ほどきをしている・・。進藤はその二人を後ろから、複雑そうな顔で見ていた・・。

「医者の役って、初めてなんですよねぇ・・。香坂先生って、そういう医療系のドラマとかって、見てます?」

「え?ああ、見てないわ。っていうか、忙しくてテレビどころじゃないもの。テレビつけてても、他のことしてたら、見てないことのほうが多いのよね・・。」

 苦笑して立ち上がる。その時、フラッとたまきの体が揺れる・・。

「おい!大丈夫か?」

 たまきを見ていた進藤がたまきの体を支える。

「え・・ええ・・。立ちくらみよ・・。大丈夫よ。そんな顔しないで。」

 苦笑して、進藤から離れる・・。

「大丈夫ですか?すいません・・。無理させて・・。」

 謝る武田を見て、首を横に振る。

「大丈夫よ。たちくらみだから・・。たいしたことないわ・・。」

 しかし、ずっとたまきを見ている進藤がたまきの腕を取り、医局のソファに座らせる。

「ちょっと、大丈夫だってば・・。・・・わかったわよ・・。休んでるから・・。」

 苦笑して、進藤の顔を見る。

「大丈夫か?貧血か?」

「そうよ・・・。こればっかりは仕方ないでしょ・・。止めるわけにもいかないんだから・・」

 進藤は苦笑して、たまきの頭を軽く叩く。

「・・・そうか・・。まぁ、休んでろ・・。処置中に倒れられても困る・・。」

 たまきは笑って言葉に甘えることにした・・。

 休んでいたたまきが起きてきたところで、監督が声をかける。

「あの、香坂先生、演技とかって、興味ないでしょうか?」

 突然の質問に驚くみんな・・。

「え?興味ないですね・・。どうしてでしょうか?」

「ドラマに出てもらいたいなと思って・・。」

 たまきは苦笑して、監督を見る・・。

「すいません・・。私は医者で、芸能人じゃありません・・。お断りします。」

 監督は残念そうにしているが、仕方ないとすぐに諦めた。

「・・・香坂先生が女優に?まぁ、カメラ映りは良さそうだけどなぁ・・。その性格じゃねぇ・・。」

 馬場がからかっていると、たまきに睨まれ視線を外す馬場・・。

「香坂先生、綺麗だから、そっちでも成功するだろうなぁ・・。」

 矢部が、その姿を想像しているのだろうか、あっちの世界へいってしまう・・。

「矢部君、それっていやみ?医者のあたしは、役立たずってこと?」

 矢部を睨むと、矢部は首をすくめ、首を横に振る・・。

「違います・・。そんなこと言うわけ無いじゃないですか・・。」

 慌てる矢部をみて、全員が爆笑する・・。

 その日の夕方、武田がたまきに声をかける。

「香坂先生、今日これで終わりですよね?」

 たまきは声をかけられ、首を傾げる。

「はい?そうですが・・。何か?」

 たまたま通りかかった進藤は、怪訝な顔で物陰に隠れる・・。

「この後さ、一緒に食事でもどう?美味しいとこ知ってるんだ。」

 優しく微笑んでたまきを誘っている・・。進藤は、心配そうにたまきの返事を待つ・・。

「ごめんなさい・・。あなたと一緒に食事して、雑誌とかに載るのは、ごめんだわ。それに、約束あるから。」

 やんわりと断る・・。進藤は安心した。

「そう・・。じゃいつならいい?食事だけだからさ・・。」

「だから・・・。そういうスキャンダルになるような言動とかは、辞めた方がいいわよ?私も、関わりたくないの。」

「僕は、君とだったら構わないよ。」

「・・・どういったらいいの?嫌なの。それに、私好きな人とじゃないと、食事を一緒にしたくないの。」

 不機嫌な顔をして、医局に戻る・・。ホッとしていた進藤に武田が声をかける。

「そんなに心配ですか?・・・盗み聞きなんてよくないですよ?・・・今回はあなたの勝ちです。悔しいですが・・。でも、次は負けませんよ。」

 と言い残して、帰っていった・・。

「・・・・参ったな・・。」

 たまきは、好きでもない男と二人きりで会うようなことはしないだろうが、いつ誘いに乗るんじゃないかと心配していた・・。

 

 撮影最終日・・。

「今までありがとうございました。香坂先生、お礼も兼ねて食事どうですか?やましい気持ちはありません・・・。」

 堂々とみんなの前で誘う・・。たまきは困った顔をする。進藤は焦った顔を・・。

「だから、前もお断りしましたよね?好きでもない人と一緒に食事をするつもりなんて、ありません・・。同じ職場の人となら、まだありえるだろうけど・・。」

 それでも、諦める気配がない・・。

「いいじゃないですか・・。一回くらい。」

 すると、進藤が立ち上がる。

「嫌がってるのに、諦めたらどうだ?男らしくないぞ。」

 武田をきつく睨む・・・。みんなは、進藤らしくない行動に思わず見つめる。たまきは、進藤の後ろに隠れる・・。

「香坂先生、この進藤先生の誘いだったら、受けますか?」

 意地悪そうな顔をして、訊ねる。たまきは答えに詰まるが・・。

「・・・当たり前じゃない・・。言ったでしょ・・。好きな人とだったらって・・。」

 恥ずかしそうに、呟くとみんなは、今まで見たこともないくらい嬉しそうな進藤の顔を見た・・。

「・・・嬉しそうだぞ・・。進藤先生・・。」

 ボソっと呟くと、進藤に聞こえたのか、軽く睨まれ慌てるみんな・・。

「そうですか・・。参りました・・。進藤先生、香坂先生を泣かせたら承知しませんからね。」

「お前に言われなくても、泣かせない・・。」

 たまきは後で照れているが、顔は嬉しそうだ・・。

「・・・ドラマがんばってね・・。あたしが教えたんだから、きっと大丈夫よ。」

 武田は完全に参ったという顔をして、微笑む。

「わかりました。香坂先生をはじめ、ここの人たちに恥をかかせないためにも、成功させてみせます。」

 といって、帰っていった・・。

「いやぁ、最後に良いもの見させてもらったって感じだなぁ・・。二人の意外な顔を見れて良かった・・。」

 というと、二人に睨まれ首をすくめる城島だった・・。

〜屋上〜

「ありがとね。心配してたでしょ?あたしが、あんな誘いを受けるわけないでしょ?あなた一筋よ・・。言わせないでよ・・。」

 照れたたまきを嬉しそうに見ている進藤・・。

「すまん・・。ついな・・。俺もお前一筋だ・・。」

 嬉しそうにいつまでも、見詰め合ってる二人だった・・。

〜END〜            

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