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アメリカはジョージア州のアトランタに2年近く住んでいた。正確に言えばアトランタではなくてピーチトゥリー・シティという所である。日本流にいえば「桃ノ木町」だろうか。ハーツフィールド国際空港から南に車で30分ほど行ったところにある。この桃ノ木町には日本企業の工場などがいくつか集まっていて、比較的日本人の多い地域である。近所にクローガーというスーパーがあったが、そこでは冷凍うどん麺や納豆、餃子の皮など、日本食も少しだが売られていた。だから生活にはまあ不自由しなかった。
ここで書く「アメリカ」は基本的にこの郊外である「桃ノ木町」であることが多いので、ここでの描写をもって「アメリカはこうである」ということは出来ないことを留意いただきたい。
竜巻の恐怖
アトランタ近郊は気候的には比較的穏やかなところで、日本と同様きちんと四季もあるし暮らしやすい所である。しかし、気候について日本との大きな違いが一つだけあって、それが竜巻だった。竜巻以外にもたまにスコールというか、土砂降りの雨が降ることもあって、そういう時には、高速道路を走る車が路肩に車を停めて雨が収まるのを待つくらいの激しい雨である。何度かそういうスコールに出くわしたけれど、ほんとうに強烈な雨で、前がまったく見えなくなって驚いた。で、「やっぱり外国の気候は違うなあ」などと驚いていたら、それどころではない大物すなわち竜巻がやってきた。竜巻というのは台風とは違って進行方向の予測がつかないし、当たれば必ず家が吹き飛ぶ。だから竜巻が来たら手の打ちようがない。地下室があればいいのだろうが、あいにく住んでいたのは木造のアパートだ。竜巻のニュースだけは真剣に見たものである。自然て怖いんだな、と初めて実感した。
メロン
渡米して驚いたのは果物の安さだ。特に驚いたのはメロンである。あの「病気のときにだけ食べることを許される」メロン(時代だね)、あれが1個2ドル程度である。最初スーパーで発見したときには我が目を疑ったが、どう見てもメロンである。貧乏学生時代の怨念を晴らすべく早速買って帰った。で、食べてみるとまさしくメロンである。それで一時期メロンばかり食べていた。そして食べ過ぎた挙げ句の果てにメロンが嫌いになってしまった。「過ぎたるは・・・」である。
オイスター・クレイジー
今や米国に住んでいてもおいしい寿司を食べることは難しいことではない。寿司バーは人気スポットで、アメリカ人も多く訪れる。しかし、それはあくまでも大都市での話である。桃ノ木町のような郊外に住んでいるとおいしい寿司にはまずありつけない。刺身も入手困難だ。近所にパブリックスというスーパーがあって、ここの鮮魚コーナーには「刺身あります」という日本語の貼り紙もあるのだけれど、逆にその貼り紙がなんだかこわくて買う気にならない。で、刺身への欲求は日々募ってゆくことになる。そういう「刺身欠乏症」状態のまま、家人とニューオリンズに旅行したときのことだ。
ニューオリンズにはオイスターバーがたくさんある。名物なのだろう。日ごろ刺身に飢えきっていた我々夫婦はレストランに飛び込むや否や生牡蠣を注文した。「オイスター、3ダースちょうだい。それと生ビール」そう言うとウエイターは驚いた。「3ダース?そんなに?」我々二人は大きく首を縦に振った。「そう、3ダース、早くちょうだい」ウエイターは「理解できない」というふうに首を振り厨房に消えた。 彼らアメリカ人にとって生牡蠣はあくまでもアペタイザーであって、バカみたいにむさぼり食べるものではないようだ。しかし我ら刺身欠乏症夫婦にとって生牡蠣こそが旅の目的、みたいな感じになっていた。やがて3ダースのオイスターが運ばれてきた。テーブルの上はさながらオイスター市場の様相を呈している。周囲のアメリカ人観光客は目を丸くして我々のテーブルを見ている。大ぶりの身がうまそうな生牡蠣、夢にまで見た生牡蠣。「これだよな」「これよね」そして一口食べる。目の前に閃光が飛び散る。うまい、いや、うますぎる。そして無言でむさぼり喰う日本人夫婦。「うめーー!」「かーッ、たまんねー」あっという間に3ダース平らげ、さらに1ダース追加してしまった。
オートクルーズ
ジョージアからニューオリンズまでは車で13時間くらいかかる。何時間アクセルを踏みつづけても景色はまったく変わらない。いわゆる「オートクルーズ機能」(設定速度で自動的にアクセルを調節してくれるので、アクセルを踏まなくてよい)というのはこういう大陸を走るときにこそ威力を発揮するものなのだと実感した。途中何度も休憩しながら15時間くらいかけて到着した。家人は免許がなく一人で運転したため、ふらふらであった。途中、ミシシッピあたりの田舎町で高速を降りて「ワッフル・ハウス」という安レストランに入ると客席は殆どが黒人で、じろじろ見られた。日本人が珍しい地域なのかもしれない。 「ディープ・サウス」だなあと感慨にふけった。「ミシシッピーでブルースを聴く」という体験ができなかったので、次回チャンスがあればその時こそはブルースを聴いてみたい。
2002年09月06日 15時37分59秒
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