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自宅で録音というより、最近はDTMという言葉のほうが通りがいようである。早い話が自宅でオリジナルを作曲して、それをCDに焼くということだが、この作成プロセスがハイテクの進歩のおかげで一昔前とは比較にならないほどお手軽になっている。筆者が宅録を始めた頃というのは、カセットMTRでの多重録音が一般的だった。
<昔の宅録>
筆者が宅録を始めた頃(1985年前後)は丁度MIDI規格が一般的になり始めた時期と重なっていて、様々な音楽機材がアナログからデジタルへと移行する時期でもあった。今やビンテージシンセであるDX-7が画期的であるとされ脚光を浴びていた時代である。MC-500という「使える」シーケンサーがローランドより登場し、「打ち込み」という作業が一般化した。
そのころはリズムマシンでドラムパターンを組み、シンセなどのシーケンスを組んでシーケンサーで走らせ、ミキサーでリバーブなどをかけつつカセットMTRにベーシックトラックをステレオ録音するというのが基本的なスタイルだった。現在でもこのプロセスは基本的に変化していない。ただ、記録媒体がカセットからハードディスクなどのデジタル機器に変わったことによって編集の利便性が飛躍的に向上したのだ。
<復活>
2000年の暮れ、久々に宅録再開しようと思い、懐かしのTEAC246(4トラックマルチ)に電源を入れ、テープを回そうとしたらなぜかまったく動かない。どこをどうしてもNG、というわけで一挙に機材の刷新に踏み切った。まずはレコーダーだが、ローランドVS880が登場した頃羨ましげにカタログを見つめていたトラウマを克服すべく、HDRはVS1880に即決。続いてサンプラーであるが、サンプラーの購入は初めてで何を買ってよいのかわからなかったが、とりあえずヤマハSU700を購入した。シーケンサーは音源も入っているのでQY700にした。この三つでとにもかくにも始めようと思った。MC303、MKS-50やTX-81Zなど既存の機材とあわせるとかなりなシステムである。
さて機材が揃ったはいいが、いざ使う段になると多機能ゆえに操作がややこしく、基本的なことが(リアルタイムレコーディングしてクオンタイズ、など)なかなかできなくて苦労した。マニュアルの日本語が意味不明であることも操作を複雑に感じさせた。VSのミキサー部の構造にしても、いったん把握してしまえばどうということはなく、むしろ「よく工夫されているな」というぐらいであるが、最初は随分悩んだ。設定パラメーターが多すぎて、どのパラメーターが自分の要求に対応するものなのかが、なかなか分からないのだ。これはパソコンなどでも同様で、多機能ゆえに設定が煩雑という、なにやら本末転倒なことになっている。あまりにも複雑すぎて、一時は録音への情熱さえ失いかけたのだが、とあるリミックスコンテストに応募することを決めたため、機材を使わざるをえず、それが結果的に機材に慣れ親しむ好機となった。
いざ使い方が分かると最近の録音機材は本当に便利である。例えばレコーダーだが、トラック数が18トラックもあり、各トラックがそれぞれ16のバーチャルトラックを有しているため288ものテイクを(実際には使わないが)録音することが可能である。レコーダーに内蔵されたテンポマップでシーケンサーを動かして録音すると、あとで小節単位でのコピー、ペースト、イレースが簡単にできる。これはカセット時代には考えられなかった夢のような作業である。内臓エフェクターは強力で、他にアウトボードは必要ないのではないか、とさえ思われる。
他にも、たとえばモノラルでギターカッティングを録音する。何小節か弾いてみて一番グルーヴしている箇所を選んでコピー、ペーストすると、全編グルーヴしたカッティングが出来上がる。これを隣のトラックに丸ごとコピーしパンで左右に振り、さらに貼り付け位置を若干(20msくらい)ずらすと、簡単にショートディレイ効果のギターがステレオに広がって聞こえてくる。かくして、こと編集に関する限り、デジタル機材は圧倒的に便利であることを思い知ったのだった。バーチャルトラックがあるので、リズムマシンでもキック、スネア、ハットなどを別々のトラックに録音し、各トラックごとに異なるEQ、エフェクトなどをかけ、音量調節しながらステレオにまとめる、などというのも簡単である。しかも!音質の劣化がほとんどない!
しかしながら、これだけ出来ることが多いと、使う側のセンスがシビアに問われることにもなる。また、作曲、編曲という一番重要な作業以外にエンジニアリング作業のパラメーターが増加するため、かなり自分をしっかり保たないと、ある時点で音楽をやっているのかエンジニアリングをやっているのかわからなくなってしまう。このあたりが最新機材を使う場合の落とし穴であるといえよう。最新デジタル機材を使う場合はやみくもに「全ての機能を使おう」とせず、「やりたいことだけをやろう」というスタンスでないとやがては機械に振り回されることになるので注意が必要である。
よくインターネットの掲示板などを見ると「Y社の音はよい」とか「R社の音は悪い」とか書いている人がいるが、そういうことは実はさして重要ではない。音の良し悪しを追求するならプロ仕様の機材でやるしかないのである。むしろ、重要なのは楽曲自体のクオリティである。いい曲は録音媒体が何であれいい曲だし、どんな機材で録音してもダメな曲はダメである。だから、これから自宅録音を始めようという人は、そういう「音質云々」という噂に惑わされないように注意すべきである。はじめに「やりたいこと」を明確にすれば、自ずと必要な機材は絞られてくる。
・・・・と自分に言い聞かせてみる秋の夕暮れ。
2002年09月10日 10時36分45秒
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