今回はソウル界の巨匠にして伝説、今なお多
くのヒップホッパーやR&Bアーティストに絶
大な影響を与えつづける神様、カーティス・
メイフィールド(1942-1999)を紹介しよ
う。
筆者にとっての「カーティスの良さ」という
のは、煎じ詰めれば60年代から70年に至る米
国テレビドラマ、例えば「M*A*S*H」「刑事
コジャック」「白バイ野郎ジョン&パンチ」
「刑事コロンボ」などのサウンドトラックを
思い起こさせてくれるという一点に尽きる。
いつ聴いてもなつかしの幼年時代を思い出さ
せてくれる、きわめて大切な(個人的に)音
楽なのである。
さて、カーティスといえば、マーヴィン・ゲ
イ、ダニー・ハザウェイ、スティーヴィー・
ワンダーと並ぶ「ニュー・ソウル四天王」の
一人であるが、その実力、影響力の割には日
本での知名度は今一つではなかろうかと思
う。それがなぜなのか今一つ理由がわからな
いのだけれど、ひょっとするとそのモサっと
した「優しいパパ」的風貌が災いしているの
かもしれない。NHKの「その時歴史が動いた」
で取り上げて欲しいくらいだが。
彼はインプレッションズ時代にも名曲
「People Get Ready」(1965年)などをヒット
させているが、その後ソロとして多くの名盤
を世に送り出しているので、人によってどれ
が「最高の一枚」かは議論の分かれるところ
だと思う。筆者としては「すべて傑作」と言
いたいのだけれど。
今回紹介するのは歴史的名盤の誉れも高い傑
作、ソロとしての一作目にあたる「Curtis」
(1970)である。黄色いベルボトムがまばゆ
いジャケット写真も非常にクールで、愛娘
(多分)を肩車したショットのある内ジャ
ケットの写真は気分をハッピーにさせてくれ
る。
既にインプレッションズ時代に「People Get
Ready」をリリースしていたことからも分か
るとおり、彼の音楽はメッセージ色の強いも
のであるが、ソロになって以降は特に黒人の
地位向上を願うメッセージソングが多くな
る。生涯に渡って、黒人の地位向上をこれほ
ど持続的に、しかも商業ベースに乗せつつ音
楽に托したアーティストは少ないのではない
か、と思われる。
因みに筆者はいわゆるメッセージソングとい
うものがあまり好きではない。なぜなら音楽
は既にそれ自体でメッセージであるのに、そ
の音楽にさらにメッセージ(政治的なものな
ど)を乗せるというのは、余程の才能がなけ
れば確実に音楽の純度を下げるように思われ
るからだ。実際「We are the World」など、
あの豪華メンツにもかかわらずなんとも薄ら
寒い内容だったし、坂本龍一の「地雷ゼロ」
曲もひどかった。神様スティーヴィーでさ
え、80年代以降の何曲かでものの見事にコケ
ている。
しかし常に例外が存在するのがこの世のなら
い。ジョン・レノンやらディランやらジェー
ムス・ブラウン、そして今回のカーティスな
どはメッセージが音楽純度を下げない稀有な
アーティストである。
さて前置きはこのくらいにして内容を聴いて
いこう。
1.(Don't Worry) If There's a Hell Below,
We're All Going to Go
2.Other Side of Town
3.Makings of You
4.We the People Who Are Darker Than Blue
5.Move on Up
6.Miss Black America
7.Wild and Free
8.Give It Up
まずは地を這うファンク・グルーヴが炸裂す
る1曲目で軽く昇天する。「たとえ行く手
に地獄が横たわっていようとも、俺達は進む
んだ」と、非常に直球勝負なタイトルである
が、その「進む」という感じを重低音ベース
がうまく表現している。
3曲目はスローソウルの傑作、問答無用の名
曲「Makings of You」である。イントロは楽
しげな3拍子だが、いきなり4拍子スローにな
るトリッキーな展開さえもが「嬉しい裏切
り」である。もはや解説無用のカーティス・
ワールドが繰り広げられ、ただただその美し
いメロディに身を任せるしかない。死ぬまで
にこういう曲を1曲でも作る事ができるなら
悪魔に魂を売りはらってもいいのだが。
4曲目、「青よりもさらに暗い色の我ら」と
いう、ブルースとゴスペルが高次融合したス
ローである。ここには「Makings of You」的
なロマンティックさは無いが、聴けば聴くほ
ど味わいの増す「都こんぶ」のような曲であ
る。まさに表題どおり、青よりさらに暗い色
彩感覚が充満する職人技の一品。
そしてアルバムの白眉となる永遠の名曲にし
てカーティス一世一代の必殺アップ・ナンバー、「Move
on Up」の登場である。
イントロのブラスに酔い、ストリングスのア
レンジに酔い、スネアドラムのフラムに酔
い、カーティスのファルセットで失禁するソ
ウル・ミュージックの臨界点。ソウルフルで
ありながら強烈にポップでもあるこの楽曲は
ジャンル区分などというものをあざ笑って、
聴く者を天界へと導いてくれる。
この曲を聴いて「なんだかよくわかりませ
ん」と言う輩はソウル・ミュージックに対する感性が生理的に欠如していると諦め、大人しくクラシックでも聴いていただくしかない。
残念なことに、1990年にライブ会場の照明が落下してきてその下敷きとなったカーティスはその後車椅子での生活を余儀なくされてしまう。しかし96年にはアルバム「New World Order」で見事復活を果たす。往年の輝きは失われているものの彼をリスペクトするスタッフによる製作はなかなか好感が持てる内容だった。結局それが遺作となり1999年永眠。
アメリカ滞在中にMTVかなんかでカーティスをトリビュートするライブを見たが、その時は21世紀ニューソウルの筆頭であるディアンジェロと名人クラプトンがデュオをするという感動的なものだった。そして「あ〜、やっぱ皆カーティスのこと好きなのね」と思い知ったのだった。さらに無数のヒップホップ系、R&B系のアーティストが彼のサウンドをサンプリングし続けており、カーティスの音楽DNAは今も世界中に拡散している。
真摯なメッセージと極上のポップセンス及びファンクネスが結合した稀有の作品群を生み出したカーティス、その存在はあまりにも巨大であり偉大である。
追記
因みにこの「Move on Up」、読売系列の「ナイナイ・サイズ」という番組のオープニングで使われている。他にも「Miss Black America」など粒ぞろいの楽曲が収録された永遠の名作「Curtis」、聴かずに死ぬのは不可能である。
2003年09月18日