さて、そういうわけでこれまで以上に大反響間違いなし(?)の新企画、「聴かずに死ねる」シリーズの第一回目です(笑)。これは「聴かずに死ねない」というほどのこともない、或いは人によってはアレルギー反応があるかもしれない、でも個人的には好きだ or 気になる、というものをレビューしていこうという意欲的かつ斬新な(???)企画である。
記念すべき第1回目はモダンJAZZ界永遠のカリスマにして我が心の師、巨人マイルス・デイビスの電化アルバム「On The Corner」である。これに限らず、電化マイルスは毀誉褒貶が激しくて、中には「電気のマイルスは聴かない」などという偏屈マニアも存在するが、ここ数年このアルバムが一部で「ヒップホップの源流」みたいな扱われ方をしているらしく、それが筆者としてはやや疑問なのでとり上げることにした。
結論を先取りして言えば、このアルバムは結構とっつきにくい音である。早い話がポップさに欠けているのだ。そもそも1曲あたり20分を越えるようなものがとっつき易いわけない。だから「元祖クラブ系」とか「ヒップホップの源流」などというキャッチコピーに踊らされて購入すると痛い目に会う、そういう性質のものである。つまり「ヒップホップの源流」と呼ぶにはチト無理があるのだ。
参加メンバーは例によって超豪華で、ジョン・マクラフリン、デイブ・リーブマン、ジャック・ディジョネット、チック・コリアなどが名を連ねている。だからといって「ディッジョネットの華麗なドラミング」とか「チックの流麗なソロ」などというものを期待したらコケること必至である。ディジョネットは「チキチキチキチキチキチー」という16分のハイハットを延々叩いており、チックは「ふにょ〜」とか「ぽわ〜ん」とか「ぐぎゃ」とかいうエレピ関係で色彩感をつけている。
1曲目「On The Corner」など、なにがテーマなのかもよくわからない。コード進行もなく、一発ものでひたすら自由にジャムっているだけ、という感じである。マイケル・ヘンダーソンのベースはかなりファンキーなループを弾いているのだけれど、いかんせん基本になっているビートが「チキチキチキチキチキチー」なので、どうにもノリ切れない。JBのドラマーであるスタブル・クライドフィールドやジャボ・スタークスのようなシンプルかつ強烈なビートなら、多少ポップさが増すんだけれど、このハイハットが異様に目立つ「チキチキチキチキチキチー」は、どう転んでもポップになりそうもない。ギターもクールなカッティング・ループがないので燃えきれない。何やっとんねん、マクラフリン。
テーマらしいテーマもない以上、サビなどというものがある筈もなく、楽曲はある意味淡々と(しかし熱気を孕みつつ)進行する。ファンキーというよりは単調と呼んだ方がいいビートの上で、進行らしいものもないまま各自がインプロビゼーションをする、というこのサウンドにはマイルスが終生重要視していた「スタイル」への配慮が欠けているのではないかと思うのである。思うに、このころのマイルスはJAZZというフォーマットの凋落とロックやファンクの台頭という現実にうまく対応できていなかったのではなかろうか。後の「Man With The Horn」「We Want Miles 」などのほうがよっぽど洗練されていて格好いい。
ただ、筆者はこのトラックにおけるリーブマンは好きである。演奏フォーマットがどうあろうともビクともしないリーブマン魂のようなものを感じる事ができるからである。
2曲目は「Black Satin」。1曲目にくらべるとこの「Black Satin」はまだ若干ポップである。だから、何人かのアーティストがこの曲をカバーしていたりする。確かスライ・ダンバー&ロビー・シェークスピアもどこかでやっていたような気がする。一応テーマとなるメロディがあるので「この曲だな」と認識できる(笑)。イントロのパーカッションは非常に気持ちがいい。この曲はグルーヴも結構ポップだからとっつきやすい。とはいえ全体には混沌ビートなんだけれど。変なタイミングで入るハンドクラップがイケてるのかいないのか、よくわからない。それでもマイルスなんだからイケてるんじゃないか?と思わせるところがマイルスマジックである。
この曲以外はほとんどハイハットが「チキチキチキチキチキチー」となっていて非常に困惑する。
このアルバム、絶対に必聴かというと、とてもYESとは言えない。じゃあ完全に駄作かというと、それも違う気がする。まことに「こまったちゃん」なアルバムなのである。ただ、このアルバムからマイルスに入門すると失敗する確立が高くなることだけは保証する。そういう鬼っ子的存在である。
聴かずに死んでもいいんだけどさ。年に何回か聴きたくなる。夏のさなかに聴くと暑さ倍増間違いなし。
2004年3月3日 1時12分 って雛祭り!