聴かずに死ねない〜Marcus Miller

今回の「聴かずに死ねない」はジャコ・ピチカート神・パストリアスに続いて筆者の人生を大きく狂わせたベース奏者、マーカス・親指神・ミラーについて語ってみたい。

筆者がマーカスを知ったのはまだ中学のころ、姉のバンド仲間T氏に教わったのが最初である。1981年か82年のある日、T氏に渡辺貞夫のグループ(デイブ・グルーシン絡み)に新人ギタリストであるボビー・何処に消えた?・ブルームと一緒にマーカスが参加していたビデオ(メンバー全員ハッピ着用!)を見せてもらったのが最初だった。恐らく「Orange Express」発売後のツアーか何かだと思う。その時は「このマーカスってのが凄い新人なんだよ」というT氏の熱い説明を聞いても「ふ〜ん、そうか」くらいであった。ベースを弾き始めて1年前後だったし、何がどう凄いのかよくわからなかった。

その頃のマーカスはヒゲを生やしていて何やら今よりFUNKYなんだけれど、第一印象は「痩せてて指が長いなあ」くらいのものだった。青二才の筆者にはルイス・ジョンソンやスタンリー・クラークのほうが派手だし凄いように思えた。それに「ZEPPELIN最高!RAINBOW最高!」の筆者には、ナベサダ/グルーシンの音楽がずいぶん軟弱に聞こえた。

しかしその後クルセイダーズの「Standing Tall」(1981)でのマーカスが凄いと評判だったので借りて聴いてみたら、確かにかっこいい。このアルバムにはもう一人別のベース奏者が参加しているが、二人のレベルが違うのが素人の筆者にもわかった。そもそも音色がそれまでのベーシストとはまったく違っている。ギラっとしているのに太く重い。「ウペッ!」とはじく時の「ペッ!」の音色が異次元、そういう感じがあった。グリッサンドひとつとっても、聴いた事がないような音色だった。太いのにきらびやか。相反するものが同居する矛盾。これはひょっとして好きなベースかもしれない、とおぼろげながら思いはじめていた。




そんなある日のこと、T氏にベンソン派ギタリスト、ボビー・ブルームのソロ作「Clean Sweep」のカセットをもらった。これで完全にハマってしまった。「おお!ファンキーや!しかもポップでjazzyや!」ということでマーカス教に入信することとなった。このアルバムはデイブ・グルーシン、バディ・ウィリアムス、オマー・ハキム参加の名盤であるが、今もってCD化されていないのが残念。

マーカスのベースは抑制されていて、でももの凄くファンキーで控え目なのに一つ一つのフレーズが目立っていた。しかもリズム・キープが完璧。リズム感の悪い筆者は激しく憧れた。聴いているうちにだんだんルイス・ジョンソンやスタンリー・クラークが「ドババババ」と弾いているのが「脳みそ筋肉です」的でバカみたいに思えてきた。




そうこうするうちに、レコードを買うときはマーカス参加かどうかを確認してから買う、というような状態になっていた。 その過程でマイルス・デイビスの復帰作「The man With The Hone」(1980)と出会う。1曲目「Fat Time」の低く地を這うベースラインに脳天カチ割られてしまい、マイク・スターンのギターで脳髄が耳から垂れ流し状態となり、「Ursla」の4ビートの空ピッッキングを多用したラインに悶絶しつつ、ますますマーカス好きとなってゆき、当然ながら「We Want Miles」(1981)なども聴き込む。


この頃、マーカスの仕事で重要なのは言うまでもなくデビッド・サンボーンとの仕事なのだが、サンボーンには思い入れがあり、話が長くなるのでサンボーンについてはまた後日別に書くことにしよう。




そんなこんなで、いくら聴いても聴き足りない。もっとマーカスが聴きたい。聴かせてくれ。そういう飢餓状態にあったあの頃。そんな1983年、最初のソロ作「Suddenly」が発売される。マーカスに飢えていた筆者は速攻で輸入盤を購入。1曲目「Lovin' You」のイントロで失禁・脱糞・失神・絶命した。しかも歌まで歌うとるやないか・・・。「ハンサムで足が長くてマルチ・プレイヤーで、そのうえ歌まで・・・」全人間的に敗北した気がした。

痺れた。ほんとうにシビレ切った。天を仰いだ。サビの

Lovin' You, lovin' you,
it's such an easy play to do,
it's so easy to do, yeah

という歌詞は今でも体で覚えている。

待ってたんだよ、これを。ず〜っと待ってたんだよ。ベーシストのアルバムなのに歌モノ、敢えてウベウベ弾きまくらないところに「なんてクールなんだ!若いのに!」と感動した。この「出し惜しみする美学」に完璧にやられてしまった。

このファーストアルバム発売のころはまだまだ日本での認知度が低かったマーカスだけれど、その後ジャマイカ・ボーイズで活躍したり、有名アーティストのバックをやったりするうちに日本で最も人気のあるベース奏者となってしまった。今やそう音楽に詳しくない人でもマーカスの名前を知っていて、筆者など「なんで知ってるの?」と驚いてしまうくらいである。

正直なことを言えば、ジャマイカ・ボーイズ以降、ソロでリーダー作を出すようになってからのマーカスにはあまり興味がない。こんなことを書くとマーカス信者に殺されそうであるが、マーカスは裏方に徹した時にこそ光り輝く、そう云うタイプのミュージシャンであると信ずるのである。「出し惜しみする美学」もなしに超絶技巧をこれでもかと繰り返すマーカスなど聴きたくない。「音楽的」であることがマーカスのマーカスたる所以であって、超絶技巧などというものは二次的な問題である。だから筆者にとってマーカスとは1980年から1990年代初頭にかけて「誰かの後ろで黙々と弾いている」頃がベストなのである。楽曲のなかで時おり顔を出す常人離れした「マーカス節」にもだえること、それこそがマーカスというベース奏者を楽しむ本来の姿ではないのか。

熱狂的マーカス信者には申し訳ないが、16分の3連がどうの6連符だの、ライトハンドがどうの、とそういった「奏法」的なものに筆者はいささかの興味もない。「ッペ!」の一音でノックアウトさせてくれたマーカスなのである。その彼がなにゆえ見世物か曲芸師のような演奏ばかりしなければならないのか、そう考えると気分が憂鬱になってくる。

しかし、何はともあれ筆者の青春をほぼ全面的に支配したベーシストはこのマーカスとジャコだけであり、その影響は計り知れない。誰がなんと言おうと1980年から1990年にかけてマーカスが参加したすべての作品(いったい何枚あるのか??)は個人的には「聴かずに死ねない」のである。

2004年3月31日  




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