今回もまた今さらではあるけれど、ジャネット・ジャクソンを紹介しようと思う。歌唱という観点だけでいえば、ホイットニーやケリー・プライスら実力派シンガーに比べると声量はないし、「歌で聞かせる」タイプではない。しかしながら、レコードの作りが現代のポップスとしては最高峰の作り込みで、そのディレクションの的確さ、曲作りの巧さ、時代に対する嗅覚の鋭さは並外れており、今や完全に兄であるマイケル容疑者に勝っている。今回紹介するのはそんなジャネジャクの歴代最高傑作「Velvet Rope」(1997)である。ちょっと時期ハズレだけど・・・^^
例によって個人的な話で恐縮であるが、筆者がアメリカに赴任したころMTVやBET(ブラック・エンターテイメント・テレビ)でヘヴィ・ローテーションされていたのがこのアルバムからカットされたシングル「Got Till It's Gone」であった。巨匠ジョニ・ミッチェルの名曲をサンプリングした印象的なサビは、深く沈みこむような恐ろしくクールなヒップホップビートと絡まりあって至高のグルーヴを漂わせており、一聴即死である。「こんなクールな曲がヒットするアメリカ、恐るべし」と思ったものである。因みに、サンプリングのネタ元であるジョニ・ミッチェル本人がMTVのインタビューで、「あのサビ、かっこいいんじゃない?曲にちゃんと合ってるわよ。ふふふ」みたいな余裕のコメントをしていて、さすが巨匠は懐が深いなあと感服した。
この曲をプロデュースしたのは盟友ジャム&ルイスであるが、最も重要なスパイスとなっているのはA Tribe Called Questの頭脳である知性派ラッパー、Q-Tipである。ヒップホップ界で最も鋭いセンスを持つ(と筆者は思う)彼の言葉の選び、抑揚、グルーヴ、すべてがパーフェクトである。一度聴いたら忘れられない印象的な
Now why you wanna go and do that?
Now why you wanna go and do that?
のリフレインが鳥肌ものである。(thatは実際にはdatと発音している)
これこそヒップホップとポップスの奇跡的な核融合である。ヒップホップとポップスそれぞれのエッセンスがこの楽曲の中で完全に溶け合い、絡まりあって一つになっている。はっきり言えばこの1曲のためだけにでも買う価値があるアルバムであるが、恐ろしい事にこのアルバムは他にも名曲が目白押しでトータルで完成度が高い。収録タイトルは17もあり、曲数が多いが、それでもトータルのクオリティが低くならないところが傑作の傑作たる所以である。
シングルカットされた「Together Again」は「これがポップスじゃ、どや、ワレ〜〜〜」というハッピーサウンドの王道をゆく作りで、売れない訳がないキャッチーなメロディが素晴らしい。基本的にキック4つ打ちモノが嫌いな筆者だが(クラフトワーク、YMO除く)、ここまでポップにアレンジされたらひれ伏すしかない。巨匠ジャム&ルイス、やる時はやる、まさに現代R&B界の「やすし・きよし」いや「中田カウス・ボタン」である。(←?)
さらにシングルカットされた「I Get Lonely」のビデオクリップではブラック・ストリートの4人をフューチャーして「BPMは早くないのにダンサブル」という離れ技をいともたやすく決めてしまう。歌唱の弱いジャネットに強力ボーカルを擁するブラック・ストリートを絡ませることで、ジャネットのウイスパーな声と本格的なボーカルの両方を楽しめる心憎い仕掛けである。これまた徹底的にポップなR&Bの完成形である。細かいことだけれど、この曲のシンセベースはジミー・ジャムの仕事の中でも随一ではあるまいか???
これらシングルカットされたいずれの楽曲にも共通しているのは、テーマからサビまで、主となるメロディに強い力があるということである。それこそがポップスのポップスたる所以である。基礎にして帰結である。日本のエイベックス系ポップスとの違いはそこにある(いや、ホントは違う所だらけだけどさ^^)。日本の場合はとにかくCMで使えるサビの15秒間さえキャッチーならイントロがどうでもテーマ部がどうでもいい(と考えているとしか思えない)という、鑑賞者を舐めきった制作姿勢なので、今一度このアルバムの制作陣のようなストイックな姿勢を学んで欲しいものである。
女王ジャネットが自身の弱点(歌唱)から目を逸らさず、素晴らしいスタッフたちとトータル・プロダクションでの完成度を徹底的に追求したこの一枚、「エンターテイメント大国アメリカ」の威信をかけた名盤であり聴かずに死ねない。
<追記>Q-Tip率いるA Tribe Called Questはヒップホップ・グループだが、古いジャズをサンプリングしたり、ベースに元マイルス・バンドの巨匠ロン・カーターを起用するなど、意欲的な作品が多く必聴である。
2004年4月23日