「聴かずに死ねない」シリーズ第2弾は、筆者の人生をある意味決定づけた(狂わせた?)魔性のレコード「Jaco Pastorius」(1976年)である。
このレコードをはじめて聴いたときの衝撃は筆舌に尽くし難いものだった。

アルバム冒頭を飾るのはジャズの神様チャーリー・パーカーの必殺「Donna Lee」である。パーカッションとベースのみで、ビバップの巨匠に果敢に挑む若きジャコ。フレットレスなのに完璧なピッチ、淀みなく流れる三連符にきらめくハーモニクス、ゴムのように伸び縮みするグリッサンド、バードも真っ青な高速フレーズ、何もかもが「なんじゃこりゃ?」であった。
そしてその衝撃の余韻に浸る間もなく2曲目「Come on, Come over」のブレッカー兄弟も参加しているホーンによるイントロが炸裂する。ナーラダ・マイケル・ウォルデンのチキチキ・グルーヴィ・ドラムと絡み合うソウルフルなベースパターンに乗って大御所サム&デイヴの熱唱が始まる。ここで完全にはまってしまった。ボクシングで言えば1ラウンドKOである。めった打ちをくらった挙句にアッパーカットでマットに沈められたようなものである。
3曲目の「Continuum」はフレットレス・ベースのサウンドを限界まで引き出す美しいメロディとトーン。「これ、ベースか??」そして絶句・・・・という感じであった。
そして圧巻は妻トレーシーに捧げた「Portrait of Tracy」。ここではハーモニクス(チューニング以外で使った事がなかった)を使った限りなく美しい世界をソロ・ベースで構築してみせた。もうフラフラである。
現在恐らく世界でも最も上質なエレクトリック・ベース奏者であるマーカス・ミラー(←もちろん神様)は若いころ、このレコードをいつもターンテーブルにのせていて、他のレコードを聴くときはこのレコードの上に重ねて置いた、というエピソードがある。
ベース奏者としてのみならず、作曲家としても高い才能を見せつけたこの1976年のアルバムは、彼の短くも輝かしい(そして悲劇的な)経歴のめくるめく幕開けであった。(実は75年に既に盟友パット・メセニー(←やっぱり神様)名義で「Bright Size Life」なるアルバムを作っており、そこでも既にぶっ飛びにイキまくりであるが)
ベース奏者のみならず、全ての音楽愛好家におススメしたいこの1枚、あなたは聴かずに死ねますか?
※追記・・・・・ジャコはこの年、ジョー・ザビヌル、ウェイン・ショーター率いるウェザー・リポートに参加し、いきなり「第3のメンバー」としてウェザー黄金期を形成する。特に「Heavy Weather」「8:30」「Night Passage」あたりは必聴である。
また、カナダの歌姫ジョニ・ミッチェルの諸作も要チェック。ジョニのライブDVD「Shadows & Light」ではジャコ、パット・メセニー、マイケル・ブレッカー、ライル・メイズ、ドン・アライアス(なんちゅうバックバンドやねん)という「オール神様メンバー」による素晴らしい演奏が聴けるので必見である。ここではデジタル・ディレイを使ったベース・ソロ(昔真似しました)で観衆を沸かせる若きジャコの溌剌とした姿が見られて泣ける。
2003年2月7日