ニコンFといえば「伝説」である(らしい)。日本の一眼レフが世界にはばたく契機となった一台であり、多くの有名写真家が使った名機である(はずだ)。カメラコレクションという意味では一種「王道」であると言える(だろう)。
筆者は子供の時からこの「王道」「定番」に徹頭徹尾縁がなかった。
ミズノのグローブが流行った時も、アディダスのジャージが流行った時も、ミヤタの自転車が流行った時も、タミヤのプラモが流行った時も、いつもバッタもんで我慢させられた。そうして知らぬ間に「王道」「定番」に対して怨念と憧憬とが入り混じった複雑な感情が育まれることとなった。
さて、はじめてカメラを買って一月くらいが経過したころ、いろいろな雑誌を読んでいると「ニコン」が一眼レフの王道あるいは定番であるということがおぼろげながらわかってきた。雑誌記事で「やっぱりニコン!」などと書いてあると、もうムズムズしてきた。
初めて買ったカメラがミノルタであるというのは単なる偶然の筈だけれど、なんとなく「お前は所詮一流品には縁の無い運命じゃ」と神様に言われているような気がしてきた。(ミノルタは好きなメーカーであるが、この時はそう思っていた)
そこで「俺だって定番もの買えるんだ!」という事を既成事実とし、これまでのバッタもん人生と訣別せねばならない・・・と、まあ、そういう気持に若干なった(←ほとんどこじつけ)。
欲しいとなるといてもたっても居られなくなるのが凡夫の定め。そこで中古カメラ雑誌「シャッター・バグ」を隅々まで読んでみるとフロリダにあるローダーデールなる店にフォトミックのFがあった。ニッコール50/1.4も付いている。しかもまあまあ安い。というわけで件のカメラ店に電話で注文した。(当時アメリカに住んでいた)
小切手を送って待つこと数日、FEDEX便でそのニコンFはやってきた。70年代初頭に日本で製造され、外貨獲得すべく日本代表として米国に輸出され何十年かの時を経て再び祖国の人(つまり筆者)のもとへとやってきた伝説のニコン、その第一印象は「重い」の一語に尽きた。「これで人の頭を殴ったら確実に頭蓋骨陥没だなあ」と思った。いざとなれば殺人凶器にもなる、そのあたりが「伝説」なのかも、などと意味不明な納得をしつつ試写してみた。
上がりをみたらその色彩はどことなく70年代の色彩を帯びているようで、古いニッコールの写りに一気にはまってしまった。「カメラってタイムマシンみたいなものかな」とこのとき初めて思った。
巷の趨勢に従えば「ニコンFはやはりアイレベル・ファインダーこそが王道」らしいのだが、結局根が「バッタもん」な筆者は定番ニコンFのなかでも不人気なFTNファインダーのモデルを買ってしまったわけで、所詮「王道に縁なし」ということがはっきりしたのだった。しかし不人気モデルであれなんであれ「あのニコンF」を手に入れたという事実に、ミーハーな筆者は単純に興奮してもいたのだった。
角張ったボディは無骨にして洒落っ気ゼロ。巻き上げレバーはギザギザしていて何度も巻き上げていると親指の皮がむけてくる。シャッターボタンの位置もイマイチであるが、そういう文句を言うのが楽しいのだから困った話である。
いずれにしろ「コレクション対象としての中古カメラ」というものが意識に芽生えてきたのはこのカメラからであり、多分いつまでも我が家にいることになるだろう。
|