伝説のALT(2)
週に一回のオーラルコミュニケーションの時間。
私にとって、悪夢としかいいようのない時間。
そう、彼女の時間です。
彼女は、自分の紹介・自国の紹介などをします。
どうやらアメリカ出身らしい。
さすが自由の国。
彼女を受け入れるなんてたいしたものです。
いえ、正しい選択かもしれません。
彼女がいれば、向かうところ敵なしですからね。
ある意味、彼女は 国家財産 です。
彼女の家は、どうやら農家らしいです。
牧場をもっていると言っていました。
牛やブタ、馬など多くの動物をかっているそうです。
その時点で、ベジタリアンなんて
真っ赤な嘘だと証明されました。
だってそうでしょう?
自給自足の生活を送っているわけですよ?
それぞれの動物の役割を考えてみてください。
牛はミルクを。
まぁ肉にもなりますけど、
とりあえずベジタリアンを前提に理解してみましょう。
馬は交通手段。
じゃあ
ブタは?
食用ですよね?
それ以外に何が考えられますか?
趣味・ペットだとでも?
ありえないよ、そんなこと。
彼女の体型からみても、
間違いなくブタは食用にしていたはずです。
彼女は自ら、自分がベジタリアンではないということを
証明してしまったわけです。
ベジタリアンといったのは聞き違いだったのだろうか?
と思いたくなるほど見事な証明ぶりです。
これ以上の証拠はありません。
しかしそれにも関わらず、またも彼女は言いました。
「 But we are vegetarian, so we provide them for ××. 」
(でも、私達は菜食主義者だから肉は××に提供してたわ。)
教室は異様な空気に包まれました。
まだいうか!?
というみんなの心の声が充満しています。
聞き違いなんかではありません。
だって二回もいったんですよ?
しかも自分だけでなく、自分の家族もみんなベジタリアンだと!
彼女、めちゃめちゃ太ってるんですよ!?
野菜だけ食べてて、どうしてそんなに太るんですか!?
魚のせいだっていうんですか!
そんなバカな!
肉を食べずに、あの体格になることは
不可能です。
それだけ太ってます。
彼女は、自分がおかしいことをいっているなんて
これっぽっちも思っていない様子。
笑顔(もちろん不気味)で話しています。
もしかしてこれが、
アメリカンジョークってやつですか?
笑うとこなんでしょうか?
笑っときますか?
ゴメン、無理。
そんなの自殺に等しい行為、私にはできません。
ジョークであるはずがないんですから。
彼女の授業の後は、いつもクラスが静かです。
あのオーラに、みんなやられています。
しかし、一ヶ月もすると、人間というのは不思議なもので
慣れてくるんですね。
みんな、彼女へ恐怖心が、次第に薄れてきたようです。
話しかけるヤツまででてきました。
私も実際、少し慣れてきました。
彼女への恐怖がなくなったわけではありません。
その恐怖に慣れてきただけです。
そんな中、事件が起こりました。
油断大敵とは、まさにこの事です。
ある一人の男子が、よほど疲れていたのでしょう。
あろうことか、彼女の時間に
居眠りをしていたのです。
私とM子は、いち早く彼の居眠りに気がつきました。
もう気が気ではありません。
あのバカ!なにやってんだよ!
思いはただ一つ。
彼女が気がつく前に起きてほしい。
それのみです。
私が彼の席に近かったなら
なんとしてでも起こしたことでしょう。
しかし、物事はうまくいかないものです。
起こすことができる距離ではありませんでした。
彼の前後左右のクラスメイトは、
彼の居眠りに全く気がついていません。
この空気の中では、
他人を気にしている余裕なんてないのでしょう。
そして、ついに、彼女は気がついてしまったのです。
彼の居眠りに!!
クラスの空気は、一瞬にして凍りつきます。
彼女は彼に近づいていきました。
もう見守ることしかできません。
お願い、もう起きて!
今ならまだ間に合うかもしれない!
そんな思いも彼に届くことはなく、
ついに彼女は彼の席にたどりついてしまいました。
彼は眠っています。
彼女は彼をじっとみつめています。
寝ているのを確認したようです。
これから何が起こるんだろう?
彼女は彼をどうするのだろう?
緊迫した雰囲気の中、
彼の後ろの席の男子(A)が、
彼を起こそうとしました。
すばらしい勇気です!
しかし、彼女は、右手をAの前に突き出し、
「静止」
を意味するポーズをとりました。
「まちなさい、私がやるわ。」
といったところでしょう。
そして、私達の方に振り返り、人差し指を口に当て
「シーッ」
(コレは私の獲物。手を出すんじゃないわよ。)
といいました。
そして、彼の耳元にそっと近づきます。
彼女の顔は、やたら楽しそうです。
どうやら怒ってはいない様子。
そして、スッと息を吸い込むと、
彼の耳元に向かって、大きな声で
「 Good morning !! 」
と叫んだのです。
同時に、寝ていた男子は
ビクッ
と体を震わせ、ガバッと顔を上げました。
彼女は、彼の肩をバンバンと叩き、
「 AHAHAHAHAHAHAHAN !! 」
と大笑いしています。
イタズラに成功した子供のように。
みんな、あっけにとられています。
彼女のとった行動は、予想外でした。
Wake up !!(起きなさい!)ならまだわかります。
耳元でグッドモーニングですよ!?
やってくれたよ!アイツ!
寝ていた男子は呆然としていました。
何が起こったのか理解できていないのでしょう。
無理もありません。
そして、彼女は何も言わず教壇へ戻り
何事もなかったかのように授業を始めました。
彼女の顔は満足感に満ち溢れていました。
そして、いつもよりハイテンションで授業を進め、
上機嫌で教室をでていきました。
私達はまだ、状況を理解しきれていませんでした。
しかし、その事件のことを口にするものはいませんでした。
クラスメイトは、彼女の恐ろしさを再認識たことでしょう。
その後の彼女の時間に、
居眠りをする者がいなかったのが、なによりの証です。
このように、彼女は想像もできないような行動を、平然と当たり前のように行います。
予測できないんです。
つかみようがないんです。
ほんと、ドキドキしますよ。
恐ろしい出来事は、さらに続きます・・・・
−続く−
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