| 電撃!「鬼馬狂想曲」鑑賞記 |
長いので適当に飛ばして読んでください。
| ★「あー、馬鹿だ馬鹿だ」。午後2時12分発の列車のホームに向かいながら僕はつぶやいていた。そしていま僕は電車の中だ。成田エクスプレス25号――そう、僕はいま成田空港に向かっている。香港に飛ぶためだ。香港はつい先日出張で行ったばかりである。その香港に今度は有給休暇を取って私用で行くのだ。2月2日(月)から4日(水)までの三日間。格安チケットにありがちなことだが、夜到着で帰国便は朝早く飛ぶ。したがって初日は行くだけ、三日目は帰るだけ。動ける日は真ん中の一日のみ。しかし一日あれば十分だ。その二十四時間のうちに任務を遂行すればよい。今回の目的はたった一つ――現在封切り中の映画「鬼馬狂想曲」を見ることである。ついでにだが、もし★◎△のDVDなどあれば○×■△◎♪□▲ねばなるまい。 ★「Mr.Boo!」のリメイクが作られるらしいという噂が広まってから封切りになるまでは、さすがは香港だけあってあっと言う間であった。始まったら有給休暇取って見に行くぞと安上がりさんにはメールで冗談めかして言ってはいたものの、心の準備もないまま公開となり、仕事に追われていたこともあって、「鬼馬狂想曲」にまつわる狂想曲ぶりを外から眺めている他はなかった。ある晩行きたいなあ・・・と手帳を眺めていると、どうしても抜けられない用事と用事の間に三日間の隙間があるのに気づいた。脳天に電撃が走った。そして悪魔の考えが浮かんだ。以前利用したことがある旅行社のサイトをのぞいてみる。ここは二日前でもチケット予約OKで料金も安い。チケットの空きはあるようだ。胸が高まり、血が頭に上った。決めた。朝になったら予約しよう。有休も取ろう。職場でこの大変な時期に有休?とか文句が出たら「権利」とかいうやつを主張してやるんだ。むひーむひー!(←目が血走っている)――で、有休もチケットも拍子抜けするほどあっさり取れてしまった。ついにやってしまった。一本の映画を見るためだけに香港に行く。馬鹿である。大馬鹿だ。香港映画という病毒がついに僕の脳を侵し始めたのである。 ★「行く前にやる仕事リスト」を一つずつつぶし、「帰ったらやる仕事リスト」を作り、準備は万端。後は行くだけ。問題は1月15日に封切りとなった「鬼馬狂想曲」がまだ上映されているかどうかである。なかなか評判がいいのでロングランが期待できるが、サイトで確認すると、Twins主演の「見習黒[王久]瑰(黒バラ修行中)」が3日から封切りになるのだ。う〜む、これも面白そうだ・・・とかうなっている場合ではない、どっちもTwinsだしコメディだしかぶる可能性もある。つまり「鬼馬狂想曲」と入れ替わりで上映! そうしたらこの旅行記は「鑑賞記」でなく、「すれ違い記」となる予定である。今の時点ではまだ本当に分からない。(以上成田エクスプレス車中にて) ★香港に着くまでは様々な試練が待ち受けていた。まず旅行の準備をしながらパスポートがないのに気がついた。当分海外に出ることはないだろうと思い、どこかにほったらかしになったままだ。まあ、いつものことだが。しかしどこを探しても見つからない。だんだん焦ってきた。その時、前に帰国したら妙に寒いので、それを期に衣替えをしたのを思い出した。パスポートはコートのポケットから出てきた。まあこれは試練ではなく自業自得である。 ★SARSにニワトリのインフルエンザ、こんな時期に香港に行くのはちと勇気がいるが、僕にとっていま一番の敵は最近始まった腰痛である。朝起きたら奇跡的に直ってないかと思ったが、それはなかった。それどころか外を見たら雨が降っている。ひぇ〜。これは試練だ。香港映画の神が僕に与えたもうた試練に違いない。僕はトランクに東京都推奨半透明ゴミ袋をかぶせ外に出た。トランクのタイヤが石をはねたり、段差にぶつかったりする度に腰に衝撃が走る。駅の中の滑り止めのぶつぶつ一つ一つが悪魔の手先のようだ。ひょっとして香港よりも病院に行く方を優先すべきなのでは・・・僕は心の中で「馬鹿だ馬鹿だ」とつぶやいていた。 ★空港のカウンターでは時間が遅かったにも関わらず窓側の席が取れた。ただし特別な席だとのことで、英語の説明とか分かりますかと念を押された。なるほどそれは非常出口の横の席であった。緊急の場合は乗務員の手伝いをしなくてはならないのだそうだ。かっこいい! でも逃げるのは一番最後になりそうだ。座るなりインド人っぽいスチュワーデスが英語で話しかけてきた。なんだか分からずポカーンと口を開けていると、おそらく僕に与えられた特殊任務が書かれているであろう英語のパンフレットを手渡された。幸い下の方には日本語が。そこには英語のできない方はこの席には座れませんと書いてあった。まあ何もないことを祈るだけだ。それはどうでもよくて、目の前には非常出口の分厚いドアが突き出しており、足を伸ばすこともままならない。つまり体を右側にねじって座り続けることになる。これはどう考えても腰に悪い。スチュワーデスに空き席があったら移りたい旨伝えたが。「没有」とにべもなく断られてしまった。こんなオフシーズンに満席である。みんな「鬼馬狂想曲」を見に行くのだろうか? これも試練に違いない。それに耐えたあかつきにはきっと素敵なごほうびが待っているはずである。(以上ノースウェスト17便機内にて。以下は帰りの機内やら帰国後やらに記す) ★僕は最近「豊かさ」とは何だろうかとよく考える。食生活に関して言えば、小さい頃はめったに食べられなかった寿司やうなぎがいつでも食べられるようになった。手頃な値段でスーパーに並んでいる。卵は一パック百円以下が当たり前になった。しかし、考えてみると、子供の頃は唐揚げでも与えられようものならば、一日中骨をしゃぶっていたではないか。いま寿司やうなぎを食べて、そんな感動があるか。中国から来た留学生は日本の野菜やトリ肉は味がしないという。僕らは所詮そんなものを食べているのである。物質的な豊かさと引き替えに大切なものを失っているのだ。挙げ句の果てに牛に共食いをさせて、それが狂牛病を引き起こしているらしい。トリのインフルエンザだって恐い。何を食えばいいのか。スチュワーデスが機内食を運んで来た。「ビーフ オア チキン?」。今のご時世、これはブラックユーモアでしかない。究極の選択で僕はチキンを選んだ。豊かさとは感動のある生活をすることであろう。僕が今回の香港行きを選択したのも自分にとっての豊かさを選択した結果である。当然、仕事のことや資金、体力などの犠牲は払っているわけだが。とりあえずこれで憧れのプラズマテレビから一歩どころか三歩ほど後退することになった。 ★足下に置いた手荷物をひざの上に載せれば、別に足をねじる必要がないことに、到着の十分前に気づいた。試練は自分で勝手に作り出していたようだ。空港に到着して立ち上がると思ったほど腰にダメージはなかった。それどころか軽くなっている気がした。ひねりがよかったか? ★香港へは夜九時過ぎに到着した。小走りで入国審査のゲートへと向かう。急いでいるのはもしかしたらオールナイト上映が見られるかも知れないと思ったためだ。荷物を受け取ってバス乗り場へ走る。宿は佐敦(ジョーダン)。空港からはいつもA21番バスで街に出る。乗るやいなやバスは発車した。少し幸運の女神がほほえんでくれた。宿にチェックインしたのは11時。最初、宿に行く前に映画館に行こうかとも考えたが、宿のおっちゃんを待たせると悪いのでそれはやめた。二重になっているドアの一枚目、鉄の扉をガシャーンと開けて木の扉をノック。のぞき窓からおっちゃんが手を挙げてハローハローと近づいてきた。おっちゃんは言う。「さっきちょうどチェックインした客がいてさ、あの窓のない部屋に入れてやったよ。いつもあんたが泊まる部屋だ」。おお、ラッキー。いつもならば窓のある部屋は夜通しネオンの光が差し込んでいるため、窓のない部屋に入れられてもかまわないのだが、なにしろ換気が悪くて不衛生。SARSが恐い。たしかその部屋ではゴキブリと夜通し格闘したこともある。今回はネオン部屋がベストだ。荷物を置いてすぐに宿から駆け出す。ちんたら地下鉄に乗っているヒマはない。タクシーに飛び乗り直接映画館へ向かう。目指すは旺角(モンコック)の百老匯(ブロードウェイ)。事前の調べでは「鬼馬狂想曲」の上映館リストに入っている。 ★タクシーの運ちゃんとおしゃべりしながら行った。 「旺角のブロードウェイまで」 「ブロードなに?」 「ブロードウェイだよ。電影館(ディンイングーン)の」 「ああ、戯院(ヘイユン)ね」 「そうそう電影館」 「香港人はふつう戯院って言うんだよ。あんたどこの人?」 「日本人」 「え、日本人? オレは日本は好きだよ。行ったこともあるしね」 「へえー、どこ行ったの」 「東京と大阪と・・・」 「どっちが好き?」 「それぞれにいいところがあるさ。ところであんたは香港のどこが好きなんだい?」 「どこって・・・? 僕は香港の映画が好きなんだ。特に許氏兄弟のがね」 「何兄弟だって?」 僕は広東語の発音にかなり難があり、ホイ兄弟と言っても通じないことがしばしばある。そういう時には経験上まずサミュエルの名前を出すといい。続いてマイケル。 「許冠傑とか、許冠文だよ」 「ああ分かった。知っているかい? ホイ兄弟ってのは実は四人なんだぜ。名前をつなげると文武英傑さ」 この運ちゃんもなかなかのものである。言っておくが作り話ではない。僕は「あと妹のジュディね」とオタク的知識を披露しかけてやめた。そしてタクシーは百老匯のある西洋菜街の南端に停まった。「ここからは入っていけないんだ。百老匯はすぐその先だよ」。「多謝晒!」僕はタクシーを降りて走った。百老匯に飛び込む。居並ぶ上映中・次回上映のポスターの中に「鬼馬狂想曲」のを見つけた。まだやっている。窓口に駆け寄り、「鬼馬狂想曲」の今晩の上映はまだあるとかと尋ねる。「ありますよ。11時半からです」。時計を見ると11時35分だ。「わあー、一枚ちょうだい。急いで急いで!」 ポカーンとする切符係の女性。「まだ大丈夫よ。12時半からだってば」。僕は12(サプイー)を11と聞き間違えていた。広東語初習者にありがちなミスである。う〜ん進歩がない。60ドルだった。え、他の席は45ドルなのに? 僕が指定した席は特別なの? 値段は謎のままだが、ともかくチケットはゲットした。あと1時間後には「鬼馬狂想曲」が本当に見られるんだ。 |
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| これを見つけた瞬間、来てよかったと思った | 放映時間表なり。書いているのは翌日の分 |
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| 待ち時間に撮影 | 旺角ブロードウェイの看板 |
| 待ちどおしいその時が来るのを僕は店が閉まりかかっている女人街を眺めたり、腹ごしらえのワンタンメンを食べて過ごした。再び百老匯に向かう時に路上のDVD売りを見つけた。まさかと思ったが「鬼馬狂想曲」はあるかと尋ねるとなんと! →★★★ |
| ★こうして任務の一つは達成した。そして上映5分ほど前に入場開始となった。深夜にも関わらず人数が多い。数えたところざっと七十数名。ほとんどが若いカップル。後は不良少年とおぼしきグループ。オサーンは我一人なり。リッチー・レン(任賢斉)の新作などの予告編が流れる。面白そうだがもはやどうでもいい。やがて一瞬の静寂が訪れ、画面には「1969年 香港」の文字が。「鬼馬狂想曲」が始まったのである・・・・・・。と、その時ひと席空いて隣の男の携帯が鳴った。憎々しげにチッと舌打ちする僕。この男、世が世なら不敬罪で死刑である。2秒ほど集中がとぎれる。やがて画面に三人の男が、よく知っている恰好で現れた。ヤター! しかし、あれっ?
「Mr.BOO!(半斤八両)」がベースと聞いていたが、この恰好はどう見ても別のあの作品の・・・(詳しくはレビューを参照してください)。そう、この「鬼馬狂想曲」には過去のホイ兄弟作品からのネタが随所に盛り込んであるのであった。そういうシーンが登場するたびに嬉しくなってしまう自分がそこにいた。若い観客たちよ、君たちにはたしてこれが分かるかな?と思ったが随所でクスクス笑いがもれているところを見ると案外分かっているのかも知れない。たびたび起こる大爆笑には僕もスタッフのようにうれしくなる。何様だと自分にツッコミを入れつつも。そしてラストシーンにマイケルが登場した時、明らかに館内がどよめいた。おお、来たって感じ。そして感動のフィナーレ・・・・・・のはずだが、実はシュールな終わり方で、僕はそのシーンに「ええっ?」と驚いたが、香港人の彼らには意味が分からなかったようで、「あら、終わり?」「いま何て書いてあったの?」という感じで顔を見合わせている。僕はエンディングロールを見ながら最後のシーンを頭の中で再放送し、う〜むそう来たかあと余韻にひたっていた。僕は一番最後まで席に座っていた。時計を見るともう2時半を回っていた。あっという間であった。宿に帰って持っていったノートパソコンでゲットした◎×▲を見ると・・・あれっ・・・これは大陸版だ。タイトルが違う。しかも見たことのないシーンから始まっている。こんなシーンあったか? そうか映画が始まった時に携帯が鳴ってその時に・・・いや、やはりこんなシーンはなかったよ。待てよ、じゃあラストは・・・・あああああっ全然ちがーう。これじゃ元のおもしろさが台無しだー! さて、何が起きたのかはレビューをご覧いただきたい。ともかく僕は「鬼馬狂想曲」を見ることに成功したのであった。これで僕も影「迷」の仲間に加えていただけるかも知れない・・・そう考えながら眠りに落ちていった。 任務完了! |
| こうして初日ですべての任務を完了した僕には一日の余裕が生じた。 以下は二日目の簡単な記録である。 ★一年半前に訪れた深水ポー(土+歩)のCD屋abcd訪問。店のアニキが僕のことを覚えていてくれた。しばし「鬼馬狂想曲」談義。彼の評価ではマイケルはそっくり。ここまでは僕と評価が一致。彼はさらにリッキーもまあまあ似ているとの評価。僕はそうかなあと思いつつも相づちを打つ。サミュエルはちっとも似てない。これは同意。彼は続けて林亜珍も激似だとほめ、彼女のずり落ちたメガネをしきりに戻す動作を何度もやって見せてくれた。林亜珍については、彼から有益な情報を得た。 ★その後電脳城に向かう途中、テレビ番組のロケに遭遇。女優の郭羨ニー(女尼)を大勢の群衆が取り囲んでいた(もちろん誰だか分からず人に聞いた)。なんでも「鴨寮街下金蛋」という番組で、スタッフの手にしていた台本をのぞき込むと第25集と書いてあった。要チェックだ。僕が写っている可能性がある。電脳城の中で幸運にも石天主演でいま話題の「滑稽時代」のVCDを発見して購入。 |
| ★旺角の百老匯にまた行く。まずこの日封切りの「見習黒[王久]瑰」のチケット購入。開演までまだだいぶ時間がある。まず女人街にあるなじみのCD屋で陳美齢(アグネス・チャン)のCDを一枚購入。前回ここで買ったのは落丁で音飛びかするので買い直し。さらに信和中心の旧品坊へ。今回はこれというものはなかったが、それでも非ホイ兄弟関係資料をいくらか入手。 ★「見習黒[王久]瑰」、面白し。やっばTwinsはいいねえ。途中「酔拳」のパロディシーンがあり、けっこう笑いを取っていた。そんなことをしているうちに二日目も終了。途中DVDを売っている店を見るたびに入ってちょこちょこ購入したので来たときは空っぽ同然のトランクはあっという間に埋まる。一時に寝て朝の五時起床。出発の準備して、チェックアウト。適当な店で朝食を食べエアポートバスで空港へ向かう。・・・そして僕はふたたび東京へと帰ってきたのであった。家が近づくにつれて現実の世界でやらねばならないことを少しずつ思い出しつつも、心の中は満足感で満ちあふれていた。(完) |