鳳長太郎  島崎藤村作品より「初恋」



まだあげ初(そ)めし前髪(まへがみ)の

林檎(りんご)のもとに見えしとき

前にさしたる花櫛(はなぐし)の

花ある君と思ひけり



やさしく白き手をのべて

林檎をわれにあたへしは

薄紅(うすくれなゐ)の秋の実に

人こひ初めしはじめなり



わがこゝろなきためいきの

その髪の毛にかゝるとき

たのしき恋の盃を

君が情(なさけ)に酌(く)みしかな



林檎畑の樹(こ)の下(した)に

おのづからなる細道は

誰(た)が踏みそめしかたみぞと

問ひたまふこそこひしけれ
宍戸亮  島崎藤村作品より「相思」



髪を洗へば紫の

小草のまへに色みえて

足をあぐれば花鳥の

われに随ふ風情あり



目にながむれば彩雲の

まきてはひらく絵巻物

手にとる酒は美酒の

若き愁をたゝふめり



耳をたつれば歌神の

きたりて玉の簫を吹き

口をひらけばうたびとの

一ふしわれはこひうたふ



あゝかくまでにあやしくも

熱きこゝろのわれなれど

われをし君のこひしたふ

その涙にはおよばじな

長ちゃんのは片思いですが、宍戸のは思いッ切り両思いの詩です。
ああ、載せて幸せ……。