「寿々方 山本周五郎語り」
シリーズに寄せて
寿々方
日本舞踊の踊り手だったからでしょうか、江戸の人情小説の好きな私は、山本周五郎の時代小説にかぎりなく魅かれておりました。
周五郎の短編小説には、心やさしく、自ら厳しい信条や、不屈の志を持った人々が登場します。ほろっと涙する人情の機微をからませながら。
‥‥‥しかも美しいことばに乗せて‥‥‥
それは時代を越えた真実だからこそ、周五郎ファンの心を魅了してやまないのです。
『憎いあん畜生』は、江戸の芝居小屋を舞台として展開するせつない男と女の愛の物語、『梅咲きぬ』は小説日本婦道記の中の短編小説で、武家の妻としての厳しい生き方を姑が諭す物語。この2作品は、周五郎の描く感動の世界へと皆様をお誘いすることでしょう。私も心をこめて語らせていただきます。
舞踊家であった私は、語りは素踊りだと思っております。素踊りとは屏風一つをバックに、役柄を特定しない衣裳を着け、男になったり女になったり、また情景描写を踊り分けます。その心得は演りすぎてはいけないことで、品の良さ格調の高さが命です。
語りも、一人の語り手が何人もの登場人物を語り分け、情景や主人公の心の動きを小説の本通りに語ってゆきます。芝居ほどリアルにではなく、お客様のイメージの中に絵が描けるほどに品良く。素踊りを踊る心で語ってまいります。
寿々方(すずかた)
suzukata。東京・神田生まれ。本名・手塚京子。立教大学文学部日本文学科卒業。6歳より
人間国宝・花柳寿楽(はなやぎ・じゅらく)師に師事。舞踊家・花柳寿々方(はなやぎ・すずかた)として数々の
舞台、テレビに出演。「花柳寿々方リサイタル」を主催し、古典と創作作品を発表。現在、株式会社ヒューマンウェア研究所取締役文化部長。和の文化の講演のかたわら、1996年より、なかの芸能小劇場にて主に山本周五郎作品を取り上げた「手塚京子の語り」をスタートする。そして、「寿々方 山本周五郎語り」と改め、彩の国埼玉芸術劇場等での公演を重ねている。