misako流 味読 乱読 積読

フィクション

2001〜2002/2

「黒い家」「天使の囀り」「イエスの遺伝子」「ハリーポッターとアズカバンの囚人」
「ミスティック・リバー」「緋色の記憶」「死の記憶」「夏草の記憶」「夜の記憶」

「黒い家」
     貴志祐介

ホラー大賞読んでみたら面白かった。和歌山カレー事件の前に書かれたと聞いたが。生保のしくみがベースに有れば、何かしら面白い。確かに生保というものは、リスクの上に成り立っているそれは、命と引き換えに、ということは見えない命と言う物に現実的な金銭を支払っている訳で、これを受け取るということは、見えない物を見える物に変えていくということかもしれない。その過程を人為的に行えば犯罪なのだ。その方法が小説になる。旨く構成されている



「天使の囀り」
      貴志裕介
もう一冊読んだ。今度はどうだろうと期待してまた面白かった。天使の囀りが聞こえると言うのは、どういう状態なのかが旨く説明されている。ホラー小説では、あまりにも有り得ないとおもわれるような、基本的な部分に納得がいかないものは飽きる。読む意欲がなくなる。どんなに奇想天外なことであってもそれらしく読ませてくれれば楽しめる。知識のないものがそれなりに肯いたうえで恐ろしければなおよい。
寄生虫というような聞くだけで気味悪いイメージのもののうえに、カルトまがいの団体まである。献立も揃っている。

「イエスの遺伝子」
     マイクル・コーディ

また見つけた、そう言えばベストセラーだった.始まりから実に面白い。近未来には、遺伝子工学も情報機器もこのくらいまで進歩しているのかと思わせる。
そう もしというSFだろうか。人間のもつ神秘のなかに神が降りてくる。この発想からはじまる。
遺伝子情報の解読機器の説明もわくわくする。ジーンスコープ、IGOR、使いこなすワシントン博士もチャーミングだ。
遺伝子が組み替えられ,優秀なものだけが生き残っていくとする、奇蹟まで起こすことの出来る遺伝子があるとする。トム・カーターにだけその恩恵は与えられたのか。多少の無理は最後に説明されているが・・


「ハリー・ポッターと
アズカバンの囚人」
    J.K.ローリング

出た3巻目。ハリーは魔法学校の3年生になった。お馴染みの校長ダンブルドア先生も健在で、森の番人ハグリットは、「魔法動物飼育学」の先生になるが、可愛がっている生物を助けようとして先生をやめさせられてしまう。今回はこんなエピソードの中で、ハりーが精神的に一段と成長した姿が興味深い。
一巻にちょっと名前を見かけるシリウス・ブラックが登場。最後まで謎の人物としてとても不気味ではあるが、ハリーにとってかけがえの無い人だとわかる。「闇の魔法に関する防衛術」の新任教師ルーピン先生は、満月の夜に狼になるという苦しみのなかから、ハリーの今回の戦いを決めるパトローナス(守護霊)を呼びさます呪文を教える。
クィディッチではハリーのグリフィンドールが優勝、こわれたニンバス2000に代わってファイアボルトに乗ることになる。
妖精、魔法生物、時計絵画などとても面白い


「ミスティックリバー」
 Mystic River
  デニス・ルヘイン
加賀山卓朗 訳

家事の合間を縫って三日間読み耽った。最近の収穫、五つ星
物語は 主人公3人の11歳の時から始まる。ジミー、ショーン、デイヴ、という子供達はある日、いつものように遊んでいてちょっとした揉め事を起こしていた。その時デイヴが二人の偽警官に拉致される。4日後に帰ってくるが、性的虐待を受けたらしいこと以外はよく分からないままに、いつか疎遠になっていた。
この三人が25年後に再び繋がっていく。
ジミーの長女が行方不明になり、州警察の殺人課にいるショーンが捜査を始める。その夜デイヴは怪我をして、服に血をつけて帰ってくる。そして、3人のそれまでの背景が徐々に明らかになる。公園で死体となって見つかった娘に対するジミーの愛情と彼の過去、デイヴのアリバイは? 不幸な出来事から又出会った三人の現在が、職場、家庭生活を織り交ぜ密度の高い構成で話は進んでいく。
話は、事件の進展の合間に少しずつ明らかにされる、生い立ちや家庭の有様、環境の劣悪さに対する謂れの無い怒り、それぞれの中にもち続けているデイヴ誘拐の時の罪悪感。全ての背後にある深い哀しみ。これらの物語りへの関わり方を挿入する巧みさは、作者の筆力による。
他の登場人物にも配慮は行き届いて厚みを感じさせ、夫婦や子供の居る家庭の不幸の形が、人生の錘になって日常に深い翳を落としている。
暗い哀しい話が最後まで続き、晴れた日にでも読まないとちょっと気分が落ち込んでしまう。まぁ、警官であるだけにまともな将来が見えるようなショーンの話が最後に多少救いにはなる。425ページ、二段組、一気に読んでもなかなかのもの


「緋色の記憶」
THE CHATHAM SCHOOL
AFTER
    トマス・H・クック
  鴻巣友季子訳
         文春文庫

何かの本でクックの「記憶シリーズ」のことを読んでいた。時間があったので本屋で4冊買ってきたのだが、読むなら順があるだろうと思ったまま新年になり、最近やっと読み始めて、あっという間に終わってしまった。面白くて止められなかったからで、ミステリは暇があるときに楽しむだけのもの、という偏見はさらに改めなくてはいけないと思った。
文庫の奥付を繰って初版日で並べみると、この「緋色の記憶」が1998年3月だから最初のものになる。知らないと笑われるくらいファンの多い作者らしく、こういうところに紹介するのはいまさらの感もあるようだ。あとがきを読み解説を見ると、時間の浪費にはならないと決まった。そして、いつもの感想ながら、いくら読んでも面白い本を書いてくれる人が居て幸せ、ということになる。

原題の通り、ニューイングランドのチャタム校を巡って起きた事件である。
8月、海辺の小さな村に停まったバスから緋色の襟から襟足を輝かせた女性が最後にゆっくりと降りてきた。当時チャタム校の生徒であったヘンリーは教会の階段で本を読みながらそれを見ていた。それがミス・チャニングであった。海辺の片田舎の町にふさわしくない美貌の女性に出会ったこの時のヘンリーの印象は、後になって「時よ止まれ」と思わせるくらいに輝いて見えた。父はそこの校長で、彼女を黒池と呼ばれる沼のほとりのコテージに住まわせ、美術の教師にする。父親と世界を旅し自由な気風を身に付た彼女の授業は、男子校であり厳格な校風のチャタム校ではまず好奇心で迎えられる。
そして、そこには戦争で足が不自由になり木の杖をついている、レランド・リードという教師がいた。彼女は次第に彼に惹かれていく。彼は、黒沼に沿って回っていった先に妻と子供が住む家を持っていて、彼女は時々そこにボートを出しているリードの姿をみる事ができた。リードは彼女と二人でいつか海岸から船出して自由な世界へ出て行きたいという夢をもってしまった。
15歳の夏から始まるこの死と別れの話は後年帰省して法律事務所を開いた老いたヘンリーの記憶が呼び起こす物語である。
過去の出来事は現在の風景の中から現実のように思い出され立ち現れてくる。そして記憶の底にうずもれていた真実に突き当たるのである。ひとつの風景からちょっとした出来事から、過去の細かな出来事が蘇えってくる。クックの作風は時間を過去に引き戻しながら、最後には思いもよらない結論を導き出す。すでに人々の中では終わったはずのものたちの、、奥に隠された真実が心を打つ。
そして、長い回想のなかに生き生きと登場した人々が、いまはヘンリーとともに老い、すでに影でしかないということも深い闇の底を覗くようである.。


「死の記憶」
  MORTAL MEMORY
トマス・H・クック
佐藤和彦訳
文春文庫

事件が起きた時、スティーブは9歳であった。車の後部座席に座り、二人の大人が前に居て、一人が振り向いて何か話し掛けたことを覚えていた。その時秋の雨は灰色のカーテンのように景色を曇らせて降り続けていた。それは父親が彼の家族、母と兄と姉を銃で撃ち、行方がわからなくなった日でもあった。
父親は金物屋を営み、部品を取り寄せた高価な自転車を一台だけ組み立てて店の隅に飾っておき、まれに売れることがあると、また新しい部品を注文しては地下室に持ち込み、ただ憑かれたように黙々と組み立てている。そんな単調な日々に、倦み疲れた彼は生活から開放されるために家族を犠牲にしたらしい。

ごく普通の家庭であった。兄や姉は通過点である思春期の普通の悩みを持ってはいたし、母にはちょっとした過去があった。それも承知の上で父は結婚したのであったが、その頃には過去に縛られた母は無気力な中年女性になり毎日をただ生きているだけのように送っていた。しかし父はそんな生活を維持していくための責任は自覚しているように見えた。家族のエピソードは9歳までははっきりと思い出すことが出来た。
そして結婚して子供も出来た35年後、レベッカという女性の作家が尋ねてくる。
家族を犠牲にして失踪した父親達の事件を取材しているという。そして、スティーブの中にいつか埋もれていた当時の事実が掘り起こされていく。
なぜ父は家庭を破壊し犯罪人として逃げ続ける生活のほうを選んだのか。次第に普通に見えた家族の姿が鮮明に思い出され、小さな出来事が事件の時に集約されたかように感じられ始める。

クックはまた過去と現在を構成する時間を、だぶらせ分解する過程で、新たな驚くような出来事が隠されていたことを気づかせる。
暗い暗い影の中に、より暗い真相が見えてくる。最後はクックの世界にはまったまま読み終えてしまう。

ただ、レベッカは取材を終え、本にして送ってくる。その客観的な姿勢が、なかなか脇役としては薄味でいい。


「夏草の記憶」
  BREAKHEART HILL
     トマス・H・クック
芹澤 恵訳
             文春文庫 

高校時代の初恋の思い出である。美しい転校生の少女と、後年医師として同じ町に住み続けるベン(優等生というだけで、内向的な少年であった主人公)の思い出話、という一般的な組み立てでとくに目新しいものではない。しかしこのたった一年間は彼の回想の中で、もっとも暗い記憶である.と始まる。
美しく純真で一途な少女だったケリー・トロイは夏草の茂る丘で死んだ。
山間の小さ町で起きた殺人事件である。
ベンは親友のルークとともに当時を思い出してはなぜ?という質問に答えられないでいる。なぜあの聡明なケリー・トロイは死ななくてはならなかったのだろう。
そして、ベンの想い出は意外な真相に辿り着く。
「緋色の記憶」と同じ高校生時代の話である。クックのこの物語の形はこれも、同じように進行する。読み返すといたるところにヒントらしいものがある、それと知らずに風景や人々の心情などに引き込まれて、つい謎解きを忘れてしまう。
犯人当てが好きでその手には乗らないつもりで読み始めるのが普通のミステリとは一味違っている。


「夜の記憶」
INSTRUMENTS
OF NIGHT
     トマス・H・クック
         村松 潔訳
            文春文庫
いつでも自殺できる用意をして暮らしている、ミステリ作家ポールの記憶。13歳の時の悲惨な体験が書くことの核になってしまっている。
そこにまことに奇妙な依頼がくる。50年も前に殺された少女の事件を推理してほしいと言うのだ。かってはその土地の富豪であった家の女主人に招かれ、同時に来ていた劇作家の女性とともに考え始める。世捨て人の様な暮らしから出て行くつもりもなく、あまり気乗りはしなかったのだが、その女性に引かれて次第にのめりこんでいく。
ここにも理不尽に殺された無垢な少女がいて、みんなから愛されていただけにその死は不可解であった。
同時進行する物語がある。ポールの小説のシリーズに登場する刑事と殺人鬼も分身のように加わってくる。
その想像力で謎を解いてほしいと、望まれただけあって、周りの人たちに会えばみんな動機を持っているように思われ怪しい。となかなか込み入った作りになっている。
4作目ともなると、たいへんだ。