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映画「ある探偵の憂鬱」シナリオ(途中まで)
〈1〉アパート・一室(夜・6/中)
- フェード・インで映し出される水道の蛇口。その先から印象的に落ちる水滴。
- キャメラ移動して・・・ゴミのたまったシンク・・・積み上げられた新聞紙・・・。
- テーブルの上の紙屑とワープロ・・・その周りに食い散らかされたカップ麺の容器・・・。
- 隅に丸められた寝袋。殺伐とした部屋を演出する忘れられた存在の数々。
- その間にキャスト・ス タッフタイトル、イン。
* * *
床に置かれたモニター。その映像だけが異様に生々しい。
ゆっくりモニターに近付くキャメラ。
* * *
モニター画面・・・マンションのベランダの映像。レースのカーテン越しに人影がる。
* * *
移動し続けるキャメラ・・・窓際にスコープとビデオカメラが据えられているのが見える。
一人の男がフレームインしてスコープを覗く。
〈2〉スコープの中
向かいのマンションのベランダが見える。
その窓のカーテンの隙間から窓外を見やる一人の初老の婦人。静かにカーテ ンを閉る。
〈3〉元の部屋
- スコープを覗いている男。その憔悴した顔。
スコープから目を離し、手にしたマイクロレコーダーに何かを吹き込みながら、
- カーテ ンの隙間から外を確認する。
-
- 〈4〉向かいの窓
部屋の明かりが消える。
〈5〉隙間から覗く男の顔
静かに閉められるカーテン。
〈6〉タイトル
『ある探偵の憂鬱』
〈7〉雑居ビル・廊下(4/初)
靴音だけが響く薄暗い廊下。
ゆっくりドリー・インするキャメラ。
ある部屋の前『前嶋探偵事務所』と書かれたドア。
〈8〉前嶋探偵事務所・中 《殻の中の自己》
デスクの前に目を閉じて座っている男。
名前は前嶋清一郎(30)。この部屋の主人。
前のシーンの疲れ切ったイメージと違い、きちっと七三に分けられた髪。メ タルの丸眼
鏡。ワイシャツにネクタイ姿の彼は一見サラリーマンか公務員の 様な印象を受ける。
ドリーインを続けるキャメラ・・探偵の顔のUP。急に開かれる目。落ち着かない目線。
その先は・・飛ぶ蝿を目で追っている。
近くにあった新聞紙を注意深く丸める探偵。
デスクの上にとまる蝿。
慎重に狙いを付け、振り降ろす。
『バシッ!』間一髪逃げる蝿。
探偵「クソッ」
すでに蝿を殺すことしか頭に無い探偵。
蝿がデスクの遠い端にとまる。
慎重にデスクの上に這い登り、新聞紙を振り被る探偵・・・その動きが止る。
いつのまにかドアの前にステッキをついた老紳士が立っている。
慌てて机を降り、取り繕いながら老人に近付く探偵。
探偵「どういったご用件で?・・・」
老人「・・・・」
探偵「まあ・・・どうぞこちらにお掛け下さい・・・」
老人を応接ソファーに促す探偵。
お茶を入れながら話を続ける。
探偵「皆さん悩みに悩んだ末ここにおいでになるんですが、いざ依頼するとなると躊躇してしまう・・・大げさに考えなくていいんですよ。途中でやめることも出来ますし・・・まあ気軽に相談相手くらいに思っていただければ。どうぞ」
お茶を出し、ソファーに座る探偵。
探偵「で?・・・どうしました?」
老人黙って懐から「依頼書」と書かれた封筒を取り出し、テーブルの上に差
し出す。
訝し気に老人を見つめる探偵。
探偵の声「探偵は単なる駒・・・話す必要もナシってことか・・」
封筒を手に取る探偵。中の書類に目を通す。
探偵の声「依頼は単純なものだった・・あるマンションに住む女性の監視。通常行なわれる尾行、電話を含む室内の盗聴、本人との接触及び身元調査等は一切禁止。まさに「監視」それだけだ。調査目的は不問。週に一度所定の場所に報告書を郵送し、報酬はそれを確認後任意の口座に振込まれる。調査期間は限定されず、目的を達成した場合、その連絡をもって終了となる」
〈9〉事務所前・廊下
ドアが開き、老紳士が出てくる。
探偵の差し出した手を無視して歩き去る老紳士。
探偵の声「以後依頼人へのコンタクトも禁止。それらの条件が守られなかった場合その時点で依頼はキャンセルされる」
老人の後ろ姿を見送る探偵。
探偵の声「仕事としては地味な仕事といえた。日がな一日部屋を見張るだけでいい。行動は一切なし・・・」
〈10〉パチンコ屋
台に向かい玉を打つ探偵。
探偵の声「それにしては報酬が良かった。週12。月で50。ここ数ヵ月たいした依頼がなかっただけにおいしい仕事だった・・・」
玉が無くなっても打ち続けている探偵。
〈11〉探偵の顔のUP
何かを追っている目。
〈12〉『バシッ』振り降ろされる新聞
〈13〉探偵事務所
不適な笑みを浮かべる探偵。
探偵の声「俺はその仕事を引き受けることにした」
〈14〉潰れた蝿のアップ
〈15〉住宅街
桜の花びらが舞う中。荷物を乗せたキャスターをひいて歩いてくる探偵。
〈16〉あるアパート・一室
ドアが開き探偵が入ってくる。
* * *
窓際へ来て外を見る探偵。
探偵の声「完璧な場所だった。まるで張込みのために存在している。そんな部屋だった・・・」
カーテンを閉める探偵。
* * *
監視用のスコープをセッティングする探偵
* * *(時間経過)
完成したスコープを窓際に据える。
探偵の声「そして張り込みが始まった・・・」
外からばれないようカモフラージュされたスコープをのぞき込む探偵。
〈17〉見た目の窓
品の良い初老の婦人がロッキングチェアーに座って刺繍をしている。
探偵の声「成程・・推理するまでもない・・よく有る話か・・・」
〈18〉マイクロレコーダーに録音する探偵
探偵「張り込み初日、4月13日 土曜日 天気晴れ。11:25 居間にて刺繍」
カーテンの隙間から向かいを見る探偵。
〈19〉台所
凄い勢いで料理を作っている探偵。
額から汗が流れ落ちる。
探偵の声「何十年も一緒に暮らした妻からいきなり三行半を突き付けられる夫・・・取り敢えず離婚を前提とした別居となる・・・」
〈20〉向かいの窓
優雅に昼食をとる婦人。
探偵の声「一人になり悠悠自適の妻とは反対に夫の方はその原因を思い悩む事になる・・・」
〈21〉スコープを覗く探偵
テーブルに食い散らかされた料理。
探偵の声「考え抜いた挙げ句たどりつくのは妻の浮気・・・」
〈22〉向かいの窓
読書している婦人。
探偵の声「そして俺たちの出番となる・・・」
* * *
婦人。コーヒータイム。
〈23〉探偵の部屋・窓の前(夕)
レコーダーに録音する探偵。
* * *(時間経過)
夜。向かいを見ている探偵。
探偵の声「しかし大概は夫の妄想にすぎない・・・」
〈24〉見た目の窓
ロッキングチェアーでテレビを観ている婦人。
しばらくして立ち上がり奥の部屋へ消えて行く。
〈25〉探偵の部屋・窓の前
スコープから目を離し肉眼で確認する探偵。
探偵の声「そんな妄想のために何人の探偵が街を徘徊しているのだろうか・・・・」
〈26〉シットアップする探偵
探偵「78、79、80、81、82・・・・・」
〈27〉向かいの窓
ナイトガウンを羽織った婦人がカーテンを閉める。しばらくして消える明かり。
〈28〉スコープ前
見ている探偵。レコーダに録音する。
探偵「22:05 就寝・・・本日以上」
〈29〉新聞記事を切りぬいている探偵
「殺人に関するファイル」と書かれたスクラップに切りぬいた記事を貼りつける。
〈30〉洗面所
念入りに剃刀で髭を剃る探偵のモンタージュ。
〈31〉寝袋の中の探偵
寝ながら探偵小説を読む探偵。
* * *(時間経過)
翌朝。『リィィーン』目覚ましベルが鳴る。
探偵起きだしてベルを止め時計を見る。
〈32〉探偵の部屋・窓の前
カーテンを開ける探偵。
〈33〉向かいの窓
同時に開けられるカーテン。
〈34〉窓の前
慌てて身を隠す探偵。
〈35〉張込みのモンタージュ
・スコープをのぞく探偵。
・レコーダーに録音する探偵。
・ビデオカメラとモニターをセットする探偵。
・モニターに映しだされる向かいの窓。
・本格的な食事を作る探偵。
・汗をかきながらそれを食べる探偵。
・シットアップをする探偵。
・新聞記事を切りぬく探偵。
・髭を剃る探偵。
・『スペンサー』の本を読む探偵。
・刺繍、読書、婦人の変わらぬ生活。
探偵の声「劇的な展開を期待してもいたが、彼女の周りには事件の匂いはまるでなかった。健全すぎるほど彼女の生活は規則正しく。毎日の報告書はそのままコピーでいいくらいだった。そして俺の生活も彼女に合わせて非常に単純なものになっていった。彼女とともに起きそして眠る・・・」
〈36〉探偵の部屋(夜)
イヤホンでレコーダーの再生を聞きながらワープロで報告書を作成している
探偵。
探偵の声「何事もなく最初の一週間が過ぎた・・・」
〈37〉ワープロ画面
老婦人の行動と時間が羅列される。
〈38〉煙草に火を点ける超クローズアップ
〈39〉ホテル一室
ベッドの上で煙草を吸っている探偵とその恋人。
恋人「そんな事言ったって一万も違うのよ、同じデパートで・・・信じらんない。もう絶対三越で買わない・・・」
探偵「分かんないな・・・」
恋人「何よ?」
探偵「いっぱい持ってるだろ?バックなんて・・・」
恋人「ずっと欲しかったの。プラダの新作。キョウコがお正月フランス行ったでしょ。それで買ってきてさ・・・向こうじゃ○○フランだって・・・全然安いのよ。シャネルなんか半額近いって・・・やってらんないて感じ」
探偵「・・・・」
恋人「ネェ、たまにはさ旅行にでも連れてってよ」
探偵の方を見る恋人。
探偵「無理だよ・・・」
恋人「どうして?ヨーロッパじゃなくてももシンガポールとか?香港でもいいし・・・ネェ連れてってよ」
探偵の肩にしだれかかる恋人。
〈40〉暗い探偵の部屋の窓
〈41〉向かいの窓
窓外を見ている老婦人。目線は定かでない。
静かにカーテンを閉める。
〈42〉ホテル・一室
ベッドで抱き合う二人。
〈43〉夜の街並
〈44〉探偵の部屋の窓
明かりが灯る。
〈45〉探偵の部屋
カーテンの隙間から向かいの窓を見ている探偵。
〈46〉電気のついた向かいの窓
〈47〉23:56を指している時計
〈48〉窓の前
探偵の声「寝てる時間はとっくに過ぎていた・・・」
スコープを覗き込む探偵。
〈49〉向かいの窓
その瞬間、電気が消える。
〈50〉見ている探偵
〈51〉ワープロの画面
『22:10 消灯』と打たれる文字。
〈52〉ポストの前
ポストに報告書を投函する探偵。
〈53〉探偵の部屋(翌朝)
カーテンの隙間から向かいの窓を見る探偵。
〈54〉向かいの窓
時間通りにカーテンが開く。
〈55〉見ている探偵
〈56〉張込みモンタージュ(4/下〜5/下)《内省〜不安》
張込みを続ける探偵。
何の変化のない婦人の生活。
恋人との関係。
探偵の声「不思議なほど何も起こらなかった・・・」
〈57〉新聞記事を切り抜いている探偵
探偵の声「世の中にはくだらない事件が溢れ・・・」
〈58〉シットアップを繰り返す探偵
探偵の声「単調な日常が延々と繰り返されていく・・・」
〈59〉カーテンを閉める婦人
〈60〉ホテル一室
ベッドで恋人と抱き合う探偵。
探偵の声「目の前に横たわる膨大な時間・・・」
* * *
向かいの窓。カーテンを開ける婦人。
* * *
探偵の部屋。シットアップをする探偵。力尽き起き上がれない。
* * *
探偵の声「それは重なり合い俺にのしかかってくる・・・」
ホテル一室。恋人の上でぐったりしている探偵。
〈61〉向かいの窓
婦人の生活モンタージュ。
コーヒータイム。刺繍。読書。植物の世話。
探偵の声「平凡な日常の中に隠れている狂気。それは突然牙を剥き襲ってくる・・・大概、事件はそうして起こる・・」
〈62〉新聞記事を切り抜く探偵
スクラップに貼られる殺人の記事のアップ。
〈63〉ホテル一室
ベッドの上の探偵と恋人。
恋人「冗談じゃないって感じよ。最近の若い娘は何考えてんのか分かんない・・・一回会ったじゃない、銀座で。覚えてるでしょ?志乃ちゃん。ロングの・・・」
探偵「・・・・」
恋人「覚えてないの?会ったじゃん・・・去年クリスマス「エスカドーレ」で食事したでしょ?その帰り。マリオンの前でさ・・・向こうも彼氏連れてたじゃない」
探偵「ああ」
恋人「あの娘。先月仕事引き継いだばかりなのよ。結婚するんで辞めますだって。よく言えると思わない。まだ2年目よ。それじゃなくてもウチの部、人がいないっていうのに・・これ以上忙しくなるなんて信じらんない・・・ああいうのがいるから女子社員はいつまでたっても扱いが低いのよね。最低・・・」
吸っていた煙草をもみ消す探偵。
〈64〉向かいの窓(昼)
人影がない。
〈65〉探偵の部屋
煙草を吸いながらモニターを見ている探偵。
〈66〉向かいの窓
買物から帰ってくる婦人。
〈67〉スコープを覗く探偵
買物の中身を一々チェックしている探偵。
〈68〉ワープロ画面の文字(夜)
事細かに婦人の行動が打ち込まれていく。
探偵の声「毎日入力され続ける膨大な文字と記号・・・俺はその中から何らかの意味を見いださなければならない・・」
〈69〉寝袋の探偵(夜中)
なかなか寝付けない探偵。
起きだして向かいの窓を確認する。
〈70〉向かいの窓(6/初・梅雨入り)
電気が消えた窓。
* * *(時間経過)
翌朝。雨が降っている。
〈71〉探偵の部屋
変化のないモニターをじっと見つめる探偵。
〈72〉モニター画面
誰も居ない部屋が映っている。
〈73〉探偵の幻想
前方に見える不気味なトンネルに向かって歩く探偵の後姿。
〈74〉ホテル一室(日替わり)
ベッドの上で絡み合う二人。
何となくぎこちない探偵の動き。
恋人「どうかしたの?・・・」
探偵あきらめて女から離れる。
探偵「・・・・」
煙草に火をつける探偵。
恋人「一体どうしちゃったのよ?」
探偵「別に、何でもない・・・ちょっと疲れてるんだ」
探偵の煙草を奪って自分が吸う女。
探偵「・・・・」
ベッドから降りて服を着はじめる探偵。
恋人「どうしたのよ?・・・何よそれ。私のせい?」
〈75〉国道
流れる車の光芒。歩いてくる探偵。
〈76〉探偵の部屋
帰ってくる探偵。向かいの窓を確認する。
〈77〉向かいの窓
電気が消えている。
〈78〉探偵
動揺する探偵。時間を確認する。
探偵の声「寝るには早すぎる時間だった・・・」
* * *(時間経過)
煙草を吸いながら落ち着かない探偵。
〈79〉灰皿のアップ
消される煙草。
〈80〉探偵
向かいの窓を見ている探偵。
〈81〉向かいの窓
電気が消えた窓。
〈82〉探偵
携帯電話が鳴りだす。
探偵「・・・・」
電話をとる探偵。
恋人の声「自分から呼び出しておいて・・・どうゆうつもり・・冗談じゃない・・・いい加減に・・・」
電話口で延々と文句を並べ立てる恋人。
現実感のない探偵の虚ろな目。
* * *
切られる電話。部屋は静寂を取り戻す。
〈83〉向かいの窓
明かりがつき、外出から帰ってくる婦人。
〈84〉安堵の溜息をつく探偵
〈85〉向かいの窓
入浴後。ガウンを羽織って窓辺に立つ婦人。
何かを思い出し笑みを浮かべる。
〈86〉探偵
探偵の声「あんな婦人の顔を見るのは初めてだった・・・」
スコープをのぞく探偵。
〈87〉向かいの窓
婦人が探偵の部屋の方を見る。目が合う。
〈88〉とっさに隠れる探偵
慎重にカーテンの陰から向かいを見る。
〈89〉向かいの窓
カーテンが閉められ、電気が消される。
〈90〉寝袋の探偵
なかなか寝付けない様子。
〈91〉雨が降っている
〈92〉向かいの窓
レースのカーテンがひかれている。
〈93〉探偵の部屋
落ち着かない様子の探偵。
〈94〉梅雨の風景
〈95〉雨上りの風景
〈96〉探偵の部屋
向かいの窓を眺めている探偵。
〈97〉向かいの窓
婦人の姿が見える。外出する様子。
〈98〉探偵
迷っている探偵。
〈99〉住宅街
歩いている婦人。その後から尾行している探偵。
〈100〉公園のベンチ
座って文庫本を読んでいる婦人。
その向かいのベンチで婦人を見つめている探偵。
* * *
梅雨の晴れ間。公園の閑かな風景。
芝生の上で遊んでいる母と子を執拗な眼差しで見ている探偵。
* * *
探偵の目から突然涙が流れだす。
* * *
目を閉じている探偵。
〈101〉暗闇
子供の楽しげな声がリフレインする。
〈102〉フラッシュ・窓辺の婦人
ふり仰いだ目線はこちらを見つめている。
〈103〉元の公園
ハッとして目を覚ます探偵。向かいのベンチに婦人の姿がない。
〈104〉婦人を探す探偵
しかし婦人の姿はどこにもない。
探偵「・・・・」
公園の池。橋・・・慌てた様子で探しに来る探偵。
〈105〉木立の中を歩いていく婦人
〈106〉木陰にひそむ探偵
婦人を見付け彼女の後を追う探偵。
〈107〉暗いトンネルの中
いつの間にか迷いこんだ探偵。
靴音が響く方向に歩いていく。
〈108〉暗闇の中を歩く探偵
〈109〉屋内の通路
階段を降りて来る探偵。建物の内部に出る。
警戒しながら前に進む探偵。
〈110〉劇場・ホール
突然、探偵の目の前に無人の観客席が広がる。
いつの間にか舞台に立っている探偵。
〈111〉窓枠に切り取られた空(7/中) 《精神的な逃避》
夏の雲がわいている。
探偵の声「梅雨が明け、気温が7度上がった」
〈112〉誰も居ない探偵の部屋
向かいのベランダが映っているモニター。
探偵の声「相変わらず見張りは続いていた・・・」
〈113〉向かいの窓
婦人の姿はない。
探偵の声「俺は婦人と良好な関係を築きつつあった・・・お互いに尊敬しあい。決してでしゃばらなかった・・・」
〈114〉探偵の部屋
扇風機が回る室内。壁にもたれ煙草をくゆらす探偵。
探偵の声「彼女の姿が見えなくても俺は不安を感じなくなっていた・・・」
〈115〉向かいの窓
椅子に座って刺繍をしている婦人。
探偵の声「頭の中で想像すればいい・・・今、彼女が何をしているのか・・・現実なんて何の意味も持たない。決して何も起きないのだ・・」
〈116〉向かいの窓
ベランダで植物に水をやる婦人。
* * *
探偵自身がベランダに立って婦人を見ている。
〈117〉スコープを覗いている探偵
〈118〉スコープの中
こっちを見ている探偵。
〈119〉大きく紫煙を吐く探偵
扇風機の風が煙を吹き飛ばす。
〈120〉婦人の姿はなくロッキングチェーアーだけが揺れている
※ ここまでで御免なさい。後は劇場で観てください。
* このシナリオは「撮影稿」です。実際の完成した映画と多少違っています。
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