New York Drifters


第1話 夏の渋谷と冬のニューヨーク

もう4年以上も前の話しになる。

夏のある日、渋谷のHMVの視聴コーナーで、白黒のジャケットに写っているちょっとカワイイ女の子の顔につられて、一枚のミニ・アルバムを聞いてみることにした。

ジャケットを手にとって良く見ると、その子はサルの縫ぐるみを抱えていて、それが、まったくゲンズブールのパクりだとすぐに気がついた。

"Girly"と言う、当時としてはものの見事に的を得たタイトルのアルバムをリリースしたのが、カヒミ・カリィなんて、とても日本人とは思えない名前の女の子であることがわかり、思った通りのウィスパリング・ヴォイスで"ロリータ・ゴーホーム"を歌う彼女は、非常にほほえましく思われた。

ところが、その次に耳にとび込んできた聞きなれたメロディー!ヘナチョコなリズム(でもグルーヴィー!)とホーンが絡むなんとも哀愁漂う旋律。そう、なんと彼女は"ポルケ・テ・パス"をカバーしていたのである......ナゼ?

と、個人的な昔話しから始めると、なにを今さらそんな話しと思われそうだが、こんな事を思い出させる出来事が、ここニューヨークで起こったのである。

つい一月ほど前であろうか、ミッド・タウンに用事があって出かけた帰り、時間が空いてしまった自分は、観光客相手のディズニーの看板と土産物屋には用がないので、とりあえず45丁目にあるヴァージンに逃げ込んだ。いつも通り、輸入盤コーナーを一通りチェック(と、いってもチェックするのは洋盤ではなく邦盤。ここのヴァージンは輸入物として和物CDが大量に入ってくる.... なぜかニューヨークのヴァージンにはSPEEDとかの日本人アイドルなんかのアルバムも$35〜40[だったかな?]で売っている......)して、習慣通り地下二階のビデオ・コーナーへ向かう。一向に安くならないブレッソンの一連の作品群を確認して、相変わらずだなと、ふっと横を向くと、"Cria!"(邦題:カラスの飼育)が$29.95という信じられない安さで棚に山ほど陳列されていたのである。

Cria!

1975年制作のこの作品は、一連のアート・シアター系ブームに乗って86〜7頃に日本初上陸(?)を果たした、あのアナ・トレントの主演第2作目のスペイン映画である。日本では90年ぐらいにビデオが絶版となり、価格が上昇し始めていたと思う。今となってはDVDで復刻されているかもしれないけれど、そうでなければ、品揃えにこだわりがあるか、新作の回転が遅いレンタル店で見つけるぐらいしか日本で見る機会はないと思われる快作である。

この「カラスの飼育」の中で挿入歌として使われているのが、実は"ポルケ・テ・パス"で、アナ・トレントが劇中、口パクで歌うこの曲は、本国スペインで75年の公開当時大ヒット。その余波で日本人歌手にもカバーをする人達が現われはじめ、なぜか片平なぎさ(!?)がアルバムでカバーするといった珍事を生んだそうな。で、90年代。渋谷で原曲にものすごく忠実な楽曲でカヒミ・カリィがナゼかカバーするに至っていたのである。

つまり、寒くなってきたニューヨークで70年代スペイン映画のビデオを買ったら、蒸し暑かった夏の渋谷をなぜか思い出してしまったというお話し。

そう言えば、93年の「マルメロの陽光」公開時に現・東大学長の蓮實重彦がアナ・トレントにインタビューした時、彼女はニューヨークに住んでいると言っていたけど、今も住んでいるのだろうか?住んでたら、どこかのカフェとかですれ違ってたなんて事もあったのかな?もしかして。

でも、今だになぜ「カラスの飼育」が安く再販されたのかは不明。監督のカルロス・サウラがカンヌで賞もらったからかな?ナゾだ........うれしいけど。


次回へつづく.....

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