バタフライ・キスの物語は複雑ではなく、登場人物も少ない。いわゆる“ハリウッド映画”の様に派手なSFXやアクションもないし、奇麗でグラマーなオーチャンは出てこない。舞台は北イングランドのランカシャー州という所で主人公はミリアムとユーニスの女性二人。女性二人のロード・ムーピーと言うと「テルマ&ルイーズ」を思い出すが、この二人はあの二人とは似ていない。あの二人は、エンディングはどうあれ、たくましかった。あの二人にはパワーがあった。この二人にはあの強さはないように思う。もっとも、旅をしている理由自体が違うのだけれど。
ミリアムは片耳が難聴で、祖母と二人でアパート暮らしをしていた。ある日、働いている街道沿いのガソリン・スタンドに「ジュディス」という名前の女性を捜しているユーニスが来て、ミリアムは変わる。毎日を過ごすだけの人生から、職場と自宅の往復の人生から飛び出し、自分で何かをする道を選んだ−−選んでしまった。ジュディスを探して放浪するユーニスを追って家も仕事も後にした。(ここでミリアムの祖母がどうなったかなんて考えてはいけない。きっと近所の人がミリアムの代わりに親切に世話をしてくれていただろう。)そして、ミリアムは発見してしまう。ユーニスの歩く後に残された屍に。彼女が築いてきた死体の山に。それでもミリアムはユーニスの後を追う。「何故?」そんなミリアムの疑問にユーニスは答える、神様は自分の存在を忘れてしまっているのだと。だから、自分がいくら人を殺しても、神様は自分を罰してはくれないのだと。それは悲痛な響きだった。ユーニスは神様への呼び掛ける。「私に気付いて」と。「私
はここに居るのに」と。
ユーニスは殺人を犯す。「あんたに私が救えるの?」と問うかの様に。ミリアムは追う。彼女しかユーニスを救える者はいないのだと信じているので。残虐な、そして孤独なユーニスに惹かれてしまっているので。
二人は一つの答えに辿り着く。静かな海。寄せては返す波。誰もいない砂浜。無邪気に波の間で戯れるユーニスとミリアム。子供の様に、何もなかったかの様に。
そして、そのシーンに重なるように、クランベリーズの「ノー・ニード・トゥ・アーギュ」が流れる。
「There's no need to argue anymore. I gave all I could but it left me so sore. And the thing that makes me mad is the one thing that I had. I knew I knew I'd lose you. You'll always be special to me...to me...」 そしてユニースがミリアムに合図をする。