多様かつ起伏ある物語、音楽へのこだわり 月9「愛し君へ」
「東京ラブストーリー」「101回目のプロポーズ」などのヒットドラマを手掛けたフジテレビの大多亮プロデューサーが今年、同局の看板ドラマ枠「月9」の企画・プロデュースを担当している。木村拓哉主演の「プライド」に続く第2作は、さだまさしの「解夏」が原作の「愛し君へ」。「ラブストーリー」というベースの上で、衝突、感情の爆発、和解といった多様なエピソードを幾層にも積み重ねて「起伏」を作り出したり、音楽に強くこだわったりする制作手法に、ドラマの作り手としての個性、そして円熟味が感じ取れる。
描かれるのは、研修医の友川四季(菅野美穂)と、ベーチェット病を患い失明の危機に直面するカメラマン安曇俊介(藤木直人)の恋愛ドラマ。病気に苦悩する小学校教諭の視点に立った原作とは対照的に、物語の中心は四季。間もなく最終回を迎えるが、「病気」という“かせ”のある2人の関係を中心にしつつ、四季の実家や小児病棟での人間模様なども盛り込まれ、厚みのある作品に仕上がった印象を受ける。
クイーン人気を呼び込んだ「プライド」に続き、今作では森山直太朗の楽曲が前面に押し出されている。小児病棟の子供たちが「散りゆくさだめ」という「さくら」を歌うシーンなど、選曲、使用法などが実に巧み。主題歌と内容に関連性のないドラマが多い中で、大多プロデューサーの仕事ぶりは丁寧で、細かい。
一方で残念というか、苦心している様子なのが、ドラマの中心人物のキャスティング。冷めたまなざしの菅野に、失明の恐怖に苦悶する俊介を包み込む四季の深い優しさを醸し出すことは期待できないし、つたない演技」力が際立つ藤木にも、俊介の苦悩を表現できていない。「プライド」でも女優陣に輝きがなかったが、いずれもテレビ局が同じタレントをローテーションを組んで起用してきた“つけ”なのかもしれない。そんな中でも、泉谷しげる、時任三郎、若手の森山未来をはじめ、周辺部でのキャスティングで底力を見せたのはさすがだ。
30代で「トレンディードラマ」のブームを巻き起こした大多プロデューサーは、現在40代半ば。単なるトレンディードラマの焼き直しだった「プライド」に対し、「愛し君へ」は四季と鉄雄(泉谷)、俊介と母良枝(八千草薫)の親子関係などを丁寧に描写するなど、年齢に応じたテーマの広がりも感じられる。次のクールの「東京湾景」では、ヒロインの設定が在日韓国人とか。今後も明確なテーマを掲げつつ、普遍性のある「人間」を描写し続けてほしい。
(2004年6月25日執筆)