不出来な「マーケティング・ドラマ」 月9「東京湾景」


 今期のフジテレビ系の「月9」は、芥川賞作家、吉田修一の恋愛小説が原作の「東京湾景」。在日韓国人のOLと船積み倉庫作業員の恋を描くラブストーリーである。ヒットメーカーとして知られる大多亮プロデューサーの企画で、在日韓国人が主人公として初めて描かれるとあって、その出来に期待していたのが、ふたを開けてみれば、往年の「トレンディードラマ」を焼き直しただけ。残念ながら、「韓国ブームに乗っただけ」と評価されても仕方のない、お寒い出来映えだった。

 ヒロイン木本美香(仲間由紀恵)は、在日韓国人であるがゆえの障害を乗り越え、和田亮介(和田聡宏)と恋に落ちる。国籍の違い、美香と母(仲間2役)の恋の関係から、運命的な物語を紡ぎ出そうという狙いが伺えるが、今のところ、そのドラマ性が画面からあふれ出すことはなく、単なるチープなラブストーリーに陥っている。

 在日韓国人という設定は原作にはなく、大多プロデューサーらの発案という。その意欲、着眼点は買いたいが、サッカー・ワールドカップを経て、日韓関係が深まりつつある今日、時代背景を反映した恋愛ドラマの“かせ”として、ふさわしい設定なのだろうか? 本作は「冬のソナタ」の大ヒットなど、いわゆる“韓流”に目を付けただけとしか見えないのだが…。

 もう一点、気になるのは、自局のドラマプロデューサー(『ムコ殿』などの栗原美和子氏)に脚本を任せたこと。コンペを経て、複数の脚本家の中から選んだというが、話題性の演出という意図があるのは明らかだ。それは戦略としてよしとしても、脚本家の存在を否定することにならないか? 「トレンディードラマ」が定着した1990年代以降、プロデューサーが権限を強める一方、新たな脚本家が育ちにくい環境にあるが、それを象徴するかのような寂しい現実を突き付けられた気がする。

 芥川賞作家の原作、韓流ブーム、プロデューサーが脚本家、“旬”とされる女優…。8月には、「冬のソナタ」で人気を集めたパク・ヨンハがゲスト出演するという。まさに、話題作りに精を出し、高視聴率を狙っただけの「マーケティング・ドラマ」である。しかし、視聴者が求めているのは「形」ではない。現状のままで視聴者の心をつかむのは困難だろう。

☆もう一言=「母の日記」は韓国映画「ラブストーリー」から引用か。映画は劇的なメロドラマで魅了された。

(2004年7月31日執筆)