禅宗庭園の成立に関して,その文化的背景について研究を行った。

@禅宗庭園の基盤である禅宗思想の本質

 本研究では,中国禅宗を日本に伝えた中国禅僧の系譜を辿ることにより,禅宗庭園を形成する思想的な背景を把握した。禅宗思想の本質には,中国官僚階級である士大夫の教養文化としての漢詩文や水墨画などの影響が存在し,その背景には老荘思想に裏打ちされた山水思想や孔子の儒教思想などがあった。

 このことにより,禅宗庭園の形成背景を考えると,仏教としての禅宗思想ではなく,むしろ中国の世俗的文化である山水思想や儒教思想,士大夫の文化の影響がより大きいことが幾分か指摘できた。 

A禅宗芸術発展に伴う庭園の形成背景

 禅宗庭園と同系列にある禅宗美術としての水墨山水画と五山文学の成立背景を理解することにより,禅僧の文化的志向を把握した。そのことにより,十四世紀末期から塔頭の拠点として,五山文学や水墨画などによる臥遊精神に中国思想の起源を見出すことができた。このことにより,枯山水などの禅宗庭園は禅の造形化ではなく,詩画の境地を造形化したものと考えられた。

 また枯山水の解釈とその形成には,物理的条件としての書院造建築との関わりがあり,そのことにより庭園による配置関係に法則を発見した。禅僧の生活空間である書院の間に付随した北庭には写意的な山水形式が多く,個人的な空間としての趣味的な庭園として形成されたことを示した。また公的空間である方丈の間に付随した南庭側である方丈庭園には,大空間に対応した瀟湘八景などを題材とする枯山水を形成したと考えられる。これは,禅林における山水の題材と居室の用途に対応した構成を使い分けた中で形成されたものと考えられる。 

 枯山水の形成を支えたものは,修禅として拡大解釈までされた五山文学とそれに融合していった水墨山水画に内包される中国思想・文化であり,これが,禅僧の想像力を高めた結果,庭園として枯山水が禅宗美術から派生したと考えるのが妥当である。

B中国思想から発達した日中両庭園の比較

 文人庭園を中心とした中国庭園の文化性を検証して,中国禅宗が士大夫の庭園文化として,日本禅宗に伝えたと考えられる内容について比較した。これは,禅宗を媒体に,中国の士大夫の影響により,日本の禅宗庭園に影響を与えていたと考え,その伝播が廃れだすと,禅宗庭園は日本では形骸化していく。

 以上のように禅宗庭園は,禅宗思想の造型として,発展しているのではなく,中国文化を担った士大夫の文化性が大いに影響を与えていると考え,そこに禅宗庭園の成立における文化的背景があると考える。