破壊工作B


田原は、電話を
切ったあと、
もう一度ベッドに
横になり、
3時間ほど眠った。

起きてみると、
10月の6時は
すでに暗かった。

目が覚めても、
虚ろな視線を
天井に向ける。
30分ほど、呆然と
考え事に
耽った。

シャワーを浴びる。
黒のレザーパンツに
灰色のシャツを
まとった。
その上に羽織る
ジャケットも
用意しておくが
まだ着ない。

黒いろのチャッカ
ブーツを履き、
クーペフィアットに
乗り込んだ。

97年のモデル
なので、左
ハンドルだ。

ピニンファリーナが
内装をデザインした
ことを示すため、
リアにはきっちりと
エンブレムが
貼ってある。

一見するとフェラーリの
新型かと見間違うほど
綺麗なエクステリア
だが、しっかりと
フィアットという
文字が刻まれて
いるため、
隠せない。

田原はエンジンの
キーと近くにある
スターターボタン
のようなプッシュを
押し、エンジンを
かけた。

官能的な
音がする。

キャブ車では
ないのだが、
一度アクセルを
吹かせる。

タコメーターが
カクッと上がる。

田原はクラッチを
つなぎ、車を
スタートさせた。

車高が低いので、
ガレージを出る前は
スピードを
抑えた。

住宅街を抜け、
広めの国道に
出たとき、初めて
車の性能を
発揮させる。

排気量1996cc、
最高出力は
5750回転で
220ps、
最大トルクは
2500回転で
32.0kgだ。

田原はクーペフィアット
をスムーズに
走らせ、平均170キロ
ぐらいで突っ走る。

途中、方向指示器も
出さずに車線
変更する馬鹿が
いても、
ブレンボ製の
ブレーキと
エンブレで
急激な制動を
行いやり過ごす。

絶対に追い越し
車線を頑として
譲らない4トン
トラックとそれに
並走するような
形でトロトロ走る
ヴィッツの馬鹿に
4キロ以上も
延々と
進路を塞がれたのには
閉口した。

右折レーンができ
一瞬、3車線に
なったときに、
マナー違反だが、
圧倒的な
加速力で
追い越す。

パンッという
破裂したような音を
残しターボエンジンが
唸る。

田原は50分ほど
かけて、横浜の日吉に
存在する
ある大学の駐車場に
いた。

その大学は日本屈指の
私立大学だ。

田原はその大学の
創設者の像を
過ぎた所にある
図書館に入った。

蔵書数はかなりの
ものだ。

受付のカウンターを
乗り越え、数台の
パソコンが置かれた
部屋に入る。

田原はその部屋の
壁に接して
置いてある本棚を
右に強く押した。

するとさっきまで
あった本棚の
後ろに普通の
ドアより一回り
小さな鉄の
扉が顔を出した。

ドアの横には
計算機のような
ものがあり、
4桁の数字を
押せば扉の
カギが開くように
なっている。

1192

とおした。

田原はいい国と
覚えている。

カシャンッと
いう音とともに
ドアは開いた。

中に入る。
そこには松村の
秘書である杉村
が屈強そうな
ボディーガード一人と
ともにソファーに
座って待っていた。

「やあ、人殺し君。」

「まあ、何とでも
いってもらって
構いませんがね。」

「怒ったのか?」

「いえ、別に・・。」

杉村は中に
ぎっしり詰まった
封筒を持ち出した。

「今度はこの中に
入ってる奴らを
順番に罠に
かけてもらいたい。」

「随分と狙う
相手がいるもの
ですね?
奴を処刑する
仕事に便乗して
気に入らない人間は
全部この世から
消してしまおうという
魂胆ですか?」

「馬鹿なことを
いってはいけない。
我々は奴とは
違ってこの日本を
これからも
支えていかなくては
ならない選ばれた
人間なんだ。
その為には
邪魔なくずには
この世界から
消えてもらう必要が
ある。この
封筒の中に
ある人間は
クズばかりだ。
君は遠慮なく
遂行してほしい。
仕事の途中で
君が感慨にふける
必要なんか
ないんだよ。」

田原は日吉から
近い横浜の
保土ヶ谷に車を
向けた。

急勾配の坂を
ギアを1速に入れ
上っていく。
右はガードレールが
ありその向こうは
谷になっている。
その手前に
一段盛り上がって
歩行者用の小さな
道がある。

近くに中学校が
ある。

道路には
スクールゾーンという
文字がついていた。

だが、学校関係者
以外の車は
滅多に通らず、
近所の住人が時たま
使用する程度だ。

午後3時を過ぎ、
下校する
学生が見え出す。

田原はその学校を
過ぎてから
少しいったところに
ある別荘風の
建物に近づいた。

車を止める。
敷地の中には
クラウンマジェスタが
停められていた。
広い敷地なので
無造作に停車
させられていた。

田原は車の中から
かばんを出して、
クラウンに近づく。

建物から隠れる
ように膝を折って
しゃがむ。

鞄から硝酸の
ビンをだす。

そしてそれを
クラウンのブレーキ
パイプにぶっかけた。

不気味な音を
立てながら、
パイプが溶けた。

ブレーキオイルが
こぼれおちる。
下は土なので
オイルの漏れは
パット見では
わからないであろう
から、田原は
そのままクラウンを
後にし、
クーペフィアットに
乗り込む。

田原はさっき
きた道を再び
下った。
中学校を
過ぎたあたりで
車を止める。

そこで携帯を使い、
さっきの建物の
住人に電話をかける。

「はい、香芝
ですが?」

40ぐらいの
男の声がした。

「すぐ病院に
戻ってきてくれ。」

「どうしたんだ?
なにがあったんだ?」

「それは来てくれないと
いえない。」

田原はそう言い、
電話を切る。

香芝はクラウンに
乗り込み、
アクセルをふかす。
オートマだから
下手糞でも
アクセルを踏み、
ブレーキを使えば
運転はできる。
猛スピードで
クラウンを走らす
香芝が見えた。

焦っているため
必要以上に
飛ばす。
ブレーキを
踏んだり、レバーを
Dから2や1に
して、必死に
抵抗したのだろうが、
一瞬遅く、
そのクラウンは
簡易歩道を歩く
女子中学生の
列に突っ込み
6人ほどを
はねた。
ぶつかる直前に
ハンドブレーキを
使ったらしく、
危ういところで
車は谷に落ちずに
済んだ。

田原は110を
押し、

「横浜の○○
中学付近の坂で
川崎322の
ほ42−XXの
クラウンマジェスタが
中学生10人ぐらいを
轢きました。」

と電話をかけた。

田原はニヤッと
笑い、その場所を
後にする。

坂を下る最中、
サイレンを鳴らして
突進してくる
パトカーと
救急車、
火事ではないの
だが、消防車も
ついてきている。
事件や事故があまり
ない田舎なので
ショッキングな
交通事故の通報に
色めきだったのだろう。

「馬鹿どもが・・・。」

と田原は
呟き、颯爽と
駆け抜ける。


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