1984年(推定)の劇場への招待 映画浴入り口へ
はじめに
この文章は、およそ17年前、昭和でいうと59年頃だろうから、1984年ころのものと思われます。ミニコミ誌か自主制作の雑誌に載せようとしたものかと思われます。
青臭い文章と、表現、今では使われていない言葉やいいまわしなどもありますが、ご容赦を。これはこれで、当時の映画・名画座の雰囲気などを伝える資料にはなっていると思います。それぞれの劇場で見た映画の数々をも、思い出してきました。
では、以下が本文です。どうぞ。
<ロードショー>
交友関係から招待券を手に入れるのが最も賢明である。
が、個人的な思い入れや異性を誘うなどの事情があるときには、やむを得ない。何といっても、時代と話題を良い私設で先取りするのが、ロードショーの特長である。
<そこで名画座>
作品の評価を待ちたい、そのうえ安ければよいという人に向く。番組編成も良心的なものが多く、場内のうらぶれた風情もナキである。
<安ければハシゴで>
時間を有効に使うために、できるだけ数をこなす技術が必要だ。
が、体力的にも時間的にもハシゴは三館が限度だろう。ふつうは二館ぐらいがいちばんよい。昼に一度見て、オールナイトに行くという手もあるから、あまり焦ることはない。あとは、家からの一歩を踏み出す気力と意欲である。
<で、いかに安く見るか>
と、ゆーことでそのへんをひとつ。まず、交通費、これが浪費のチャンピオンである。定期券のきく土地で見るか、その付近がよいということになる。
私鉄と国鉄、地下鉄なんかを乗り継ぐだけでも往復で名画座の料金ぐらいにはなる。また、劇場のアンケートや雑誌でキップを当てるというのもいいが、確実性に欠けるためスケジュールがたてにくくなる。ここでは、酒も女もギャンブルもやめて、どれだけの金額を映画に注ぎ込むかが重要だ。
ストイシズムが全てを決めるのである。
<あえてオールナイト>
ここでは「毎土曜オールナイト」などのロードショウ館でのものは省いて、名画座系の深夜興業(ナイトショー)を指す。
ふつうは四、五本で関連のある作品を特集して組まれる。映画は静かに観るのが常だが、特撮映画大会などは眠気覚ましのためにも、異様に盛り上がることが多い。
また、客が愛好者だけならいいが、浮浪者が宿泊に使う場合もある。新宿などはそれが多い。深夜興業と昼の番組が重複していることがほとんどなので、それにも気をつけなければならない。
体調を整えることはもちろん、なるべく家から近いほうが帰りが早くてよい。酒を少しひっかけてから行くのもオツである。
<では、その情報は>
雑誌から番組を得ることが最良だ。
また、そういう本には割引の特典がついているから、雑誌代の元はとれることになる。割引館の多い順に「ぴあ」「シティーロード」「アングル」「キネマ旬報」となる。
雑誌が嫌いなら、名画座なら一月ぶんのスケジュール、ロードショーは新聞や予告編でわかるから、どうしてもそれを買わなくてすむ。
<そして鑑賞の態度>
「喫煙は映像効果を妨げるばかりでなく、周りのお客さまにもたいへん迷惑がかかります」と文芸座のアナウンスが言うとおりである。
途中退場や、途中で座るのもよくない。休憩時間に席を立つときも、周りに声をかけるのが望ましい。反対に人が通るときにはよけてやるのが当然である。
エンドマークまで、礼儀を守ってじっくりと座っているというのが真の映画ファンなのだ。上映中にものを食べるのも避けたい。飲み物もガラスや金属製の容器ではなく、紙製で。劇場によってはちゃんと移し替え用の紙コップが置いてある。
まあ、常識どおりにやれば間違いないだろう。
<あえておすすめの劇場>
文芸座・並木座・佳作座は、「三大名画座」と呼ばれ、その世界では名高い。
新宿ではテアトル新宿、銀座では並木座の他に銀座ロキシー、池袋は日勝文化や設備の良いテアトル池袋がある。高田馬場も池袋と並んで良い環境で、早稲田松竹と番組の良い高田馬場パール座がある。
大塚が穴場で、大塚名画座、鈴本キネマとが並んでいる。東京の八重洲スター座はチラシ一枚無料というナキのサービスも付いている。ガード下の新橋文化は上を電車が通って風情もある。五反田TOEIで山手線は幕。
中央線がにくいほど多く、中野武蔵野館・中野名画座、設備の優れたテアトル吉祥寺、三鷹オスカーと三鷹文化の双璧、国立スカラ座、これぞ学生向けの極致という、佳作座のライバルギンレイホール、と思わず他の線が嫉妬してしまう。
京浜東北線で良心と言われるのが大井武蔵野館と大井ロマン。
下高井戸京王がまた良い。新宿から近いし、世田谷線も通っているし、番組も秀逸。
江古田文化。決定版が上板橋東映、座席にみな千葉真一とか薬師丸ひろ子とかスターの名が書いてあるし、休憩にはサントラ盤をかけてくれる。深夜興業の番組は最高。『ブルークリスマス』と『ノストラダムスの大予言』をかけてくれたりする。
武蔵野推理劇場も外人が多かったりしてなかなか凄い。
いよいよ大詰め、わが三軒茶屋東映は構造が異常でゴキブリなんかも走り回っていて泣ける。三眼茶屋映画もある。二子玉川東急、桜木町なのにヨコハマニュース劇場というのもあるそうだ。
まあ、大学のある土地やオールナイトをやっているところなら、良い名画座といえるだろう。
<おまけの自主上映>
みんな知ってる文芸座ル・ピリエとアートシアター新宿はほぼ同じ造り。多目的で演劇なんかもやる。アートシアター新宿は映倫を通っていないようなものもやるから注意。うれしい。(そのかわりに英語はそのまま)
フィルムセンター、アテネフランセや文化センターなどは文字どおり文化の香りがいっぱい。ACTミニシアターなんかは座椅子で寝転がっても良い。眠気覚ましの体操もある。
実験映画なら、イメージフォーラム、スタジオZOO、スペースデン。無料でたいていは講演までついているという図書館や公民館は、その地方以外の者でも行けるからばかにできない。
<口上>
さあ、あとはあなた次第。すぐにでも書を捨てて街に出ましょう。金を払ったがフタを空けるまでわからない、という映画の世界は、それが当たったときの感動もひとしおです。それがまた足を運ばせるモトにもなるのです。
<予告編も>
「歌う天気予報」みたいで面白い。
「於当劇場」とか、くさいハイライトシーンをみせつけられると感動する。