* fragile/11 *

がちゃり、と静かな音が室内に響いた。
ショーンは命じられたとおりにドアの錠を下ろし、閂に手をかけたままでのろのろとディヴィッドを振り返った。
「来い、ショーン」
軽く顎をしゃくって言うと、彼は躊躇いながらもカウチのそばへ戻ってきた。
伏せられた瞳が揺れている。
「ここへ膝を乗せろ・・・そうだ」
片膝に手を添えてカウチに乗り上げさせ、さっきと同じように自分の肩口に顔を埋めさせた。ショーンの長い腕が自然にディヴィッドの背中へ回されて、遠慮がちに彼のガウンをつかんだ。
ディヴィッドはズボンの布地越しに彼の感触を確かめ、掌でやわらかく撫でた。それがピクンと反応したのと、ショーンが切ないようなため息をついたのがほとんど同時だった。
「・・・っ」
かすかな無声音を伴って首筋に吹きかけられた呼気が、ショーンの高ぶりを伝えてくる。

いったいなにが彼をこうさせたのだろう、と不思議に思いながらディヴィッドは、ショーンのズボンの前を開きにかかった。

手早くボタンをはずし、白いシャツを掻きだして下腹部を露わにさせる。ショーンに抵抗を試みる暇も与えず、下着の中へ手を差し入れた。
ぷるん、と弾力のあるそれをつかみ出して、その分だけ下着を押し下げてやった。ディヴィッドにしがみつかされるような格好になっているショーンが、思わず息を詰めつつ腰を退こうとする。
「だめだ」
ぴしりと言って逃げようとする身体を引き寄せ、もう一方の手ではショーン自身をゆるく握って、人差し指の腹で先端の破口をさぐった。まだほとんど濡れていないそこを指先で押し開くように愛撫し、つるりとした先端を余った指で撫でた。できるだけやさしく、力を入れないように気をつけながら全体を扱き出すと、これまでのことが嘘のようにショーンの屹立は喜んで涙をこぼしはじめた。
「はっ、・・・はあ」
ディヴィッドの肩に頬をつけたショーンが、体内の熱を逃がそうとでもいうように深い息をつく。糊のきいたシャツの下で荒々しく胸板が上下している。ディヴィッドからは彼の表情は見えず、ただ真っ赤に染まった首筋と、上がった体温に暖められてふわりと鼻先に立ち上ってくる彼の体臭、そして手の中に包んだものが確実に大きくなってゆくのを確かめることでしか、ショーンの快楽をはかることはできなかった。
「ショーン・・・」
薄く汗の浮いたこめかみに口づけながら呼ぶと、ショーンはやりきれないように首を振った。今日ばかりは素直に愛撫に反応した彼自身は先から透明な滴をこぼしながら跳ね続け、ディヴィッドの手をすっかりべたべたにしてしまった。

あまり時間はない。
横目で時計を眺めて、ディヴィッドは舌打ちをしたいような気分になった。
なぜ今が昼間なのだろう?
なぜこんなときに限って招かれざる客など来ているのだろう?
このまま寝室に連れ込んで、身体の隅々まで愛してやりたい。
今なら、この未熟な果実を丸ごと甘くとろかしてしまえるかも知れないのに。

やがてショーンは苦しそうに目を伏せたまま、彼自身を慰んでいるディヴィッドの手に、自分の手を重ねて動きを止めさせた。夏のさかりだというのにかすかに震える唇が、掠れた呟きを押し出した。
「・・・して・・・ます」
「なんだと? 聞こえない」
「汚してしまいます、旦那様。もう離してください」
せっぱつまったような、それでいて期待に濡れてもいるような声がそう哀願した。釣り上げられた魚のようにビクビク動いているものを救い出そうと、ぎこちなくディヴィッドの指を引き剥がそうとする。だがディヴィッドがそれを許すはずもなく、かえって強く掌に握りこまれてしまった。
「あ・・・く、ぅ!」
ショーンは思わず叫びかけたが、すぐに気づいて声をかみ殺した。はあっ、はあっと浅い呼吸を繰り返す。無言のままディヴィッドはガウンのポケットを探り、薄手のハンカチを取り出した。
それでふわりとショーンを包んでやり、その光景を信じられないように見下ろしていた彼の顎を指先で掬いあげて、唇の端に触れあわせるだけのキスを与えた。羞恥に濡れたショーンの目をやっとこちらへ向けさせ、幾度か角度を変えて口づけを繰り返すうちに、それは次第に深くなった。
溺れた男が空気を求めるように相手の唇を求め、たっぷりと舌を絡めてやる。ざらざらした舌の表面や、それよりなめらかな内側の粘膜を味わっていると彼の身体の別の場所を思い出してしまい、ディヴィッドはたまらない気分になった。なけなしの自制心が吹っ飛んでしまいそうだ。
だが、あまり遅くなると女中の誰かが様子を見に来てしまうかも知れない。主人と下男がふたりきりで、昼間からドアに鍵をかけて閉じこもっていることについてどんな言い訳ができるものか、ディヴィッドには考えもつかなかった。

その間も、しゅっしゅっと擦過音を立てて、ディヴィッドの手は動き続けた。やがてショーンが唇を離してディヴィッドの胸に額を押し当て、
「あ、あ・・・!」
細い声を上げたかと思うと、高価な白い布の中にじんわりと温かみが広がった。
少なくとも彼が達するときの声だけは聞くことができたが、とディヴィッドは物足りない思いを胸に沈めた。



* * *


ショーンに約束した10分は、とうに過ぎていた。
ようやく衣服を整えたディヴィッドがショーンの介添えを受けて階下へ降りてゆくと、小柄な牧師は明るい応接室にちょこんと腰掛けて、二杯目のお茶をすすっていた。
「お待たせしてすみません、先生」
「いえいえ、こちらこそ。ご療養中だというのに、突然伺って申し訳ない・・・」
儀礼的な挨拶を終えて牧師がまた椅子に腰を下ろしたとき、ショーンが静かに部屋を出てゆくのがディヴィッドの視界に入った。
牧師の説教など、ろくに頭に入るわけがなかった。







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これは明らかにセクハラです。
なんて劣悪な労働環境でしょう!
もしもこういう旦那様に可愛がられ虐げられちゃったら、
すぐに例のとこへ電話したほうがいいかも。
あんまりいい噂きかない会社だけど。<コラッ!

20030831